↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蜉蝣の巣  作者: 春日向楓
友達の怪談
PR
29/37

静止画の中で……

先の方に、木製の塀が視界に入って来た。

近付くにつれ、まるで時代劇で見る武家屋敷を想像させる全貌が見えて来る。

あまりの世間とのバランスの悪さに、滑稽に見える。


翔太と文也は無言のまま桜の後ろを延々と続く塀に沿って、その距離に辟易しながはひたすら歩いた。


正面に辿り着くと、桜は立派な門を見据え一息ついた。

何かを迷っている様子だが、意を決し重い足を進めた。

翔太と文也もそれに続いた。


次の瞬間!飛び込んでくる光景に、2人は思わず立ち止まった。


敷地の真ん中辺りに大きな池がある。

小高く積み上げた石の隙間からは小さな滝が流れ、その光景は暑苦しい夏の日差しまで和らげてくれる気がする。


その池の東側には金、西側に銀色の大きな建物が建っていて、南側と北側にはそれぞれ2つずつ、朱色をした少し小さな建物が池を囲む様に建っていた。

建物と建物の間は、朱色の渡り廊下で繋がっている。

そのコントラストの美しさにため息が漏れた。


紅葉の木や桜の木等が、その季節ごとに池の畔を色付け、まるでこの塀の中は俗世を拒んでいるみたいに、空気迄違っている。


翔太は、ここだけ時が止まっているんだ!

そう確信した。


1年ぶり位だろうか?久しぶりの桜の家。

前回も感じたが、この感動は今も色褪せていなかった。


桜は良く翔太の家に来る事は有るが、翔太が桜の家に来たのは、これが2度目。


桜自身、余りこの家を好んでいないのだから仕方が無い。


「すげーなー……」

文也の口から無意識に漏れた。


廊下を忙しそうに、桜曰く、勝手に居着いた人達が行き交っている。

皆同じ白い上下の、作務衣の様な物を着ている。


その中の一人の女性が桜に気付くと、

「桜様!お帰りなさいませー」

大声で叫んだ。


その声に、周辺に居た男女4、5人が一斉にこちらに走り寄って来る。そして、いきなり桜の前に跪いた。


「げっ!」


その異様な光景に、思わず翔太が声を出してしまった。

珍しく文也が、翔太の背中を突いた。

翔太は恥ずかしそうに俯いた。

前回来た時はこんな光景無かった気がするが……今回は余りに帰らない桜への嫌がらせじゃないか?


「中林さん……や、辞めてよ!!」

桜は嫌悪の表情を浮かべながら、後退りした。


「柊様が大変心配されておられます。牡丹様もずっとお帰りをお待ちで……」

桜に最初に気付き叫んだ女性、中林だ。

50代位だろか?化粧っ気も無く、疎らな白髪頭が随分と老けて見せている気がする。


「何でよ!」


「何日もお帰りにならず…まだ中学生でいらっしゃるのに、お友達の家を泊まり歩く等、お願いで御座います。お止め下さいませ!」


「泊まり歩いてなんかいないわよ。翔太の家だけよ!大体お祖母様やママが心配なんかする訳ないじゃない」


出来れば自分の名前を出さないで欲しかった。この空気の中で敵視されるのは、翔太にとってあまり好ましい状況では無い気がした。


「何をおっしゃいます!それはそれは心配しておいででした」


「分かった分かった!分かったからどいて!」


「常連の小達様から、桜様ご指名で、毎日確認の電話が有るのですよ。今日も朝1番でお電話いただいていたので、良かったです。助かりました!早速、お電話差し上げないと」


そう言って立ち上がると、桜の方を向いたまま、後ろへ1歩下がった。


それに続く様に、一緒に跪いていた人達も立ち上がった。


「ちょっと、勝手に決めないでよ!いつも突発で入れないでって言ってるでしょ!それに、今日は先客がいるの!」

苛立った声で、女性を呼び止める桜。


「先客?……その方々ですか?正規のお客様なのでしょうか?事務所の方へは、話しは通してあるのですか?お支払い等は……ちゃんと頂けるのですか?」


女性は怪訝な表情で、翔太と文也の顔を交互に見比べた。


「わたしの個人的なお客様なの。口出ししないで!」


「小達様は特別なお客様ですよ!沢山のご寄附も頂いているのですから、多少の融通をきかせるのは当たり前ではないでしょうか⁈そんな方を差し置いて迄優先させる理由が、一体この方達の何処にあるのでしょう?」

中林は怒った様に、少し強い口調になった。


「結局あなた達の心配ってそれよね。お金お金って!中学生働かせて、金儲けしてる方がよっぽどどうかと思うわよ!翔太!文也さん行きましょ」


桜の正論に、返す言葉を失ってしまった中林達を尻目に、桜は堂々と目の前を通り過ぎて行く。翔太と文也も、そそくさとそれに続いた。


流石だねぇ桜さん。あんな何倍も年の違う人を論破してしまうとは……

文也が思わずくすっと笑った。


追い掛けて来るんじゃないかと、ドキドキしている翔太は、文也の様子に怪訝な顔をした。



桜に付いて暫く歩く、敷地の1番奥になるだろうか、翔太は再び固まった。


それは明らかに周りに逆らって建っていた。

溶け込む気等さらさら無い。

他の建物とは完全に分離されていた。


あからさま過ぎる……これ迄見て来た、時の経つ事を拒否し続けて来た風景とはまるで違う。

裏切られた気分だ!


小振りだが、完璧な洋館が場違いにそこにいた。


桜は持っていた鍵で、扉を開ける。


翔太と文也を部屋へ招き入れ、再び扉に鍵を掛けた。


そこは20畳程はあるだろうか、明るいピンク色の壁紙。

中央には小さめのテーブルと、3人掛け用と1人掛け用の花柄の可愛いソファが置いてあった。

床にもピンク色のカーペット。天井にはシャンデリア。

あちこちに飾られた色とりどりの花。


典型的な女子の部屋!


そして中央奥には、2階へ上がる階段が中腹辺りから左右に伸びている。


まるで舞踏会の会場の様だ。

全体に、こじんまりしているが。


翔太がこの部屋に入るのは初めてだった。

こんな建物がある事さえ、前回は知らなかった。


「翔太!口開けっ放し!!何が言いたいのよ!」

桜は、口を開けたまま見回す翔太の様子に、恥ずかしい部分を見られた気分になった。


「いやー、思いも寄らず女子してるなぁって……へーこういうの趣味なんだぁ……へー」


「う、煩いわね!わたしの趣味じゃないわよ!あの人達が勝手にやったのよ」

桜は赤い顔で、珍しく動揺している。


「とか言って、意外や意外なんじゃないの」

翔太はここぞとばかりに意地悪な顔をした。


しかし、こんな部屋であんな禍々しい事が行われていようとは、世間の人は誰も想像しないだろうなぁ。

ん?そもそも、一般の人間はあの塀の中に入る事は無いから、この部屋の存在も知らないかぁ。翔太は1人納得した。


「余計な事言ってないで、さっさと始めないと、また邪魔が入るわ」


桜は3人掛け用のソファーの真ん中に座ると、テーブルの上にあるシルクの生地で出来た、色鮮やかな掌サイズの小さな座布団の上にある皿に、文也から預かった敏子の遺骨のかけらを静かに置いた。


「それじゃ2人共、ここに座って。わたしの肩に手を置いて」

桜は両方の手で、左右の空いてる席をポンポンと軽く叩いた。


翔太は桜の右側に座り、桜の右肩に左手を置いた。


文也は左側に座ると、

「ごめん!」

と言って、右手を桜の肩に軽く乗せた。


「いい?じゃ目を閉じて」

桜は左右の2人を交互に見た。

2人は無言で頷き、目を閉じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。