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4-12

〈Accessing : Lily Suzumura〉

〈Scanning...〉


 極彩色のケーブル群が、視界上に描き出された。涼村リリという人格を形成する電脳回路、その神経群。アスカはその中から異常なものを見つけだして、つまみあげた。

 通常、スキャニングの際に見えるのはコードの束のような神経群と、思考によって発生するニューロネットの瞬きだ。線香花火の散り際のように、赤い閃光が音を立てて輝く。その光が、どこの何をつかさどる電脳回路と繋がっているかで、大まかな相手の思考を読みとることもできる。

 アスカは、そのようなニューロネットの光の中に妖しげな閃光を見た。紫色の輝きだ。一対のケーブルが互いのカラダを包み合うようにうねって、その先端がフレンチキスのように深く交わり合っている。そして触れたそばから、極彩色の輝きがあふれ出た。間違いない。アレが補助電脳に繋がる神経ナーヴだ。

 アスカはそう断じると、暗い電脳空間の中でドルフィンキック。バタフライの要領で泳いでいった。

 見れば、神経は電脳群ともう一つ違う場所に繋げられている。外部記憶端末のようにも見えるが、しかしそれにしても様子がおかしい。

 アスカは、そのケーブルを追ってまた泳ぎだした。

 ケーブルの根本を追えば追うほど、あたりはどんどん暗くなっていく。ほかにこのケーブルの仲間らしきものは見あたらない。つまり、この一本だけが、ある一つの何かに繋がっているということだった。

 それから横へ広くなっていくケーブルは、ある場所で停止した。

 アスカは、その位置のメタデータを見て驚いた。と同時、奇妙な懐かしさも覚えた。

 補助義脳が格納されていた場所。それは、義体のお腹。義体として必要のない膣をかきだし、残ったデッドスペースに義脳を積んだのだ。補助演算機能として、そこにパートナーの子を身ごもったのだ。

 アスカは閉口した。そして、しばらく視界に映るメタデータとにらめっこを続けた。

 しかし彼にもわかっていた。早く、この子を取り上げないとマズいことになる、と。

 離脱ジャックアウト

 意識は現実へと戻る。

〈/Jack out〉


     *


 拘束された涼村リリは、ひどく慌てた様子だった。しかし、もはや彼女の義体が動くことはない。アスカは、彼女のカラダとアタマとを切り離していた。

 ぴくりとも動かず、ただ表情筋をわななかせる女性。全裸でスキンヘッドというカラダは、まさしく生まれたままの姿だった。必要最低限の姿だ。

「ごめんね。あなたは利用されてただけなんだろうけど。でも、見過ごすわけにはいかないから」

 涼村の腹部に指を這わせる。

 そして、アスカは思い切り力を込めて、人工皮膚を引き剥がした。クリーム色をした肌が、餅のように伸び、裂けた。そしてその内側には、チタン合金の外殻に守られた義脳があった。製造コードや識別番号の類が一切表記されていない、鏡面のごとき丸い姿だった。

 アスカは、その玉のような姿の義脳に触れると、思い切り引き上げた。へその緒のように電脳へ向けて繋げられたケーブルが、バチバチと音を鳴らして抜け落ちた。

「女は子宮で考えるって、誰の言葉だったっけ。それにしても、悪趣味なものだよ。……もうあなたのパートナーは、この世にはいないんだ。目を覚まして。他人の義体に潜り込んでまで、あなたは何がしたかったの?」

「わ、わたしは……」

 涼村の唇が、微かに動いた。

 それから彼女の瞳は、ゆっくりとアスカの手元にいった。銀色の物体。義脳。それは、ただの計算装置にすぎない。人間の脳をもとにして作られたニューロコンピュータ。それがどれだけ疑似人格を有していようが、人間にとって義脳は、とことんモノでしかない。

 涼村は嗚咽のような声を上げた。そして、現実を確かめるように、自分の腹の中から生まれた赤ん坊の姿をみた。本来なら出来たかもしれない、カノジョとの子供。その虚構性に気づいて、涼村は自然と涙を流した。

「……わたしは……わたしは……」

「あなたは、どうしたかったの?」

「ただ、彼女の肌を感じたかった……昔、つきあってたころのアイを……」

「そう。でも、それは犯罪だよ」

 次の瞬間、アスカが上着のポケットからスタンガンを取り出し、それを涼村の首筋へ向けて放った。

 今度こそ、涼村リリ。およびその義体、補助義脳は完全に機能を停止した。


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