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4-10

「考えがあるんだ」

 飛び乗った擬装バンの車内でアスカは言った。

 現在、恭介が手動運転で操縦中のバンは、エレンの反応を追って新宿方面へと向かっている。そしてまた、そのバンの反応を追ってクロガネは、松本製作所の倉庫から新宿に向かっていた。

「考えって、なんの考えだ!?」

 恭介は怒鳴り気味に言った。サイレンを鳴らすバンの車内では、大声を出さなければ何を言っているか聞き取れないぐらいだった。

「もちろん犯人を取り押さえる考えだよ。相手はおそらく、かなり特殊な義体を使っている。エレンとハルでも、さすがに東京の街路じゃあ逃げられるかもしれない。だから、クロガネとハルとで涼村を挟み撃ちにする」

「単純すぎやしないか?」

「問題はここからだよ。さすがに軍用義体でも、外装義体ほどの大きさはないから、パワーでなら劣るはず。そこでクロガネは、涼村を何とか押し止めて。その間に私が涼村の電脳に有線する」

「そんな無茶な。相手はムシを使ってるんだ。今度こそ電脳ごとハックされる」

「その危険性はない。念のため、『九十九の多重電子防壁』を展開。それに私のねらいは……涼村じゃなくて、彼女の中にあるもう一人の存在を消すことだから。彼女の義体には、確実にどこかに補助義脳が搭載されている。おそらくそれが副脳の役割を果たすことで、涼村の別人格――藤咲アイの死心をエミュレートしているんだと思う。私は彼女に有線して、補助義脳の位置を探る。そこがわかったら、あとはこっちのもの。私たちにとっては、藤咲はデータが見せている幻影。しかし彼女にとっては、まだ生きているパートナー。それを失えば、彼女は――彼女たちは止まるはずだよ」

「逆上する可能性は?」

「無きにしもあらず」

「それはマズいんじゃないかなぁ……」

 恭介は不平を言ったが、しかしもう考えている余裕は無かった。

 GPSによれば、涼村の義体はもう新宿へ入ろうとしている。このままでは、解決できる事件もうやむやになるかも知れない。

 擬装バンはサイレンを鳴り響かせ、パトランプが闇を切り裂く。そのとき、右側から巨大な影がぬっと姿を現した。ART-X・クロガネ。もう、時間は残されていない。今を逃せば、次は無い。


 まいった、とエレン・クロガネはアタマの中で毒づいた。ものの見事に路地に入られたからだ。

 中野から大久保へと向かう途中で、涼村リリは、ケイヒン・ラインとセントラル・ラインの高架下にあるアーケードに入っていった。そしてそこからさらに奥地へ。古めかしいコンクリート製のビルが建ち並ぶ、狭苦しい裏路地へと入ったのだ。通りには、居酒屋の換気扇が放つ香ばしいにおいが漂っていた。

 酔っぱらいが右往左往するなかで、涼村はそんことなど全く気にせず、民間人をはね飛ばしていく。

「くそったれ……どいて! ほら、どきなさいよ!」

 サイレンの音も聞こえないのだろうか。エレンは、酔っぱらいのサラリーマンに怒鳴り声をあげながら、彼女の後を追う。

 もはや新宿に入るのは時間の問題だ。なのに、まだエレンは涼村を取り押さえられていない。いくら直線で距離をつめても、すぐにどこかで曲がって、裏路地に入られる。そのせいで毎度毎度、エレンは突き放されていた。

《エレン、クロガネが援護に回るそうだ》

 ハルが言った。

 彼女はエレンの視界上にマップを表示。緑の光点で恭介たちの位置を示した。

《クロガネがまた動いてるわけ? 恭介に連絡は?》

《つなげよう》

 直後、通信回線が開いて恭介と繋がった。グループ通話にも設定されており、アスカが割り込んで入ってきていた。

《キョウスケ、アンタどうするつもりよ?》

『挟み撃ちにする。バンとクロガネで道を封鎖して、退路を塞ぐ。エレンは指定した座標まで涼村を追いこんでくれ』

《追い込めって言ったって……ヤツの身柄はどうするの?》

《私がどうにかするよ》と、割り込みでアスカが言った。《あの義体に搭載された補助義脳を見つけだして、破壊する。そうすれば彼女は止まるはずだよ》

《確証は?》

《なくはないよ》

《じゃあ無いのと一緒じゃない》

《でも、このままじゃ新宿特別署の管轄に入っちゃうよ》

《……それもそうね。わかったわ》

 エレンは大きく舌打ちしてから言い、通話を切った。

 指定された座標は、すでにマップに表示されている。現在地からはそう遠くない。そこまで涼村を追い立てればいい話だ。

《……まるでカウボーイね》

 エレンは独りごち、それからハンドルをキツく握り締めた。チャンスは、一度しかない。


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