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4-7

 一目見ただけで、その異様さが分かった。

 黒地に白のフリルが付いたゴシックロリータのようなカーテン。それが外光の一切さえぎる室内に義体たちは並んでいた。まるで磔にされた咎人のように。

 義体はすべて全裸の女性義体で、設定年齢はおそらく二十歳そこそこ。十体ほど並んだそれらは、まぶたを開いて義眼カメラを露出させたまま、足を中に浮かべていた。

 ある義体は口をぽっかりと開けて、天井を仰ぎ見。ある義体は成長するはずもない二つの乳房を見下ろし。またある義体は虚空を見据えたまま、固く唇を結んでむっとして見せていた。顔つきや肌の質感、身長、線の細さや髪の色、輪郭、目つき、まつげの長さ……すべてが不揃いだった。アジアン・テイストなものから、頬骨と鼻の高い白人のようなもの、またはどの人種にも見えない極彩色の髪と真っ白い肌をしたものまで。その容貌は多岐に渡った。どれも美人ではあったが、その美しさの方向性はいずれも同じではない。世界中の、全時代の絵画を一間にまとめてコレクションにしているみたいだった。

 しかし、この義体たちには一つだけ共通していることがあった。それは、電脳ヒトの入っている形跡がまるで見受けられないということだ。どれも虚ろな目をしていて、肩と首のフックで壁に掛けられている。首吊り刑に見えるのは、おそらくそういう理由からだろう。

 義体は壁を覆い尽くしていた。いったいこれだけの義体をどこから手に入れたかは不明だが、すべて買ったというのなら相当な額だ。

 恭介は部屋の不気味さに怖じ気付いていたが、エレンは冷静だった。

「警察よ。タグは出してるわ。涼村リリ、アンタを違法プログラム規制法違反の疑いで、警察新法四十七条に従って逮捕する。アンタには黙秘権が認められているけど――」

 エレンは冷静に条文を読み上げるが、しかし涼村は姿を現さない。

 しばらくして、彼女がいないとエレンも判断下のだろう。途中で条文を読み上げるのをやめて、銃を構えなおした。

「恭介、アンタはこの部屋を捜して。アタシはバスルームを確認するから」

「分かった。気をつけろ」

「誰に言ってんのよ」

 テーザーを構えたまま、エレンは部屋の奥へ。

 恭介は義体に囲まれた部屋を探して回った。

 部屋は雑然としており、ピンク色のベッドの周りには使用済みのティッシュペーパーの山や、飲みかけのペットボトル、腐りかけた弁当の空き箱が残されていた。恭介はそんなゴミの合間を探りながら、何か手がかりはないかと見回った。あるいは、どこかに涼村が隠れていないか。

 しかし、ベッド脇にもテーブルにも、その下にも何もなかった。部屋の四隅にはホコリがたまっているだけだし、机の上は電子タバコのアトマイザーと空き缶が転がっているだけだ。サイボーグ用のメロウヴァイザー・ラガービールの缶が目立つあたり、少なくとも全身義体化者であることが分かった。

 それから恭介は、ベッド下を覗いた。すると、ホコリだけの床下に一筋の跡が見えた。ホコリを払った跡だ。そしてその先には、外部端末らしきものがあった。黒塗りの小さなハコだった。電脳と繋いで演算を補助、あるいは外部記憶装置メモリ読みとるためのものだ。

 恭介はそれを手にとって見たが、しかしおかしなことに気づいた。壊れているのだ。思い切り殴ったような跡が残されている。デバイスはひしゃげて、メモリの読みとり口は完全につぶれてしまっていた。

「なんだこれ……どうしてつぶれてるんだ……?」

 くるくると回しながら見てみるが、どうにも壊したのはつい最近のように見える。ホコリも被っていないし、ベッド下に隠しただけだとしても、昨日今日の話だろう。

 そうして不審に思っていると、浴室のほうからガタンと物音がした。

「エレン、どうした?」

「何でもないわ。石鹸落としただけよ」

「そうか、ならいいんだけど――」

 そう言い掛けたとき、今度は恭介の後ろから物音がした。しかも、どすんという鈍い音。

 すぐさま振り返ると、そこには地に足を着けた義体があった。例の、全裸の女性義体だ。それはヒトの魂が乗り移ったように動いていた。さっきまでは死人のようだったのに。

「なっ……!」

 すぐに叫ぼうとしたが、それより義体が動くほうが早かった。

 その女性義体は恭介の頭に一発パンチを喰らわせると、カーテンを引きちぎって羽織り、ドアを蹴破ってアパートを出て行ったのだ。

 恭介はすぐには立ち上がれなかったが、声を上げることは出来た。

「エレン、彼女だ!」


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