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4-6

 自然公園の前でタクシーを降りると、恭介は大急ぎで公園の中に入っていった。日も沈み、遊具の上では帰るのを渋る高校生カップルが微妙な距離感を取り合っている。

 恭介は彼らが人目を気にしているのにも目もくれず、全力疾走。スーツがしわになりそうだったが、気にしなかった。

「ユリイカー!」

 突然、林の奥から声がした。まぎれもない、二瓶アスカの声だった。GPS反応もエレンは林のほうにいると告げている。この茂みの向こうで何かあったに違いない。おそらくは、犯人がエサに引っかかった。

 恭介そう信じて、茂みをかき分けてGPS反応のする場所まで転がりこんだ。文字通り、転がった。途中で低木に足を引っかけて、盛大にこけてしまったのだ。

 何とか芝生に手を着いてバランスをとったが、しかしその拍子に頬を枝で切ってしまった。

 右頬にヒリヒリとした痛みを感じながら、血のしずくを手で拭う。

 それから彼が顔を上げた先、そこで見てはいけないものを見てしまった。

 上着とシャツを脱ぎ、下着も半脱ぎの姿になっているエレン。その上にまたがるアスカ。白い肌が夜露に濡れた草原の上に沈んでいる。

 とたん、エレンが恭介の姿を認め、顔を一挙に紅潮させた。

「なに見てのよ、このヘンタイが!」

 すっころんだ矢先の恭介に、追い打ちの石が投げられた。


     *


 恭介は頭に大きなタンコブを作るはめになったが、とにかく犯人の位置を逆探知することはできた。同時、エレンとアスカは電脳から犯人を閉め出したため、向こうもこちらがただの女子高生ではないと気づいただろう。だが、それも些末な問題だ。

 三人は自動運転で擬装バンを連れてこさせると、すぐさまサイレンを鳴らし、現場に急いだ。


 エレンはすでにバン後部で、ハルを走らせる準備をしていた。だが、どうやら今回はまだエレンが戦うようなことはなさそうだった。

「逆探知した情報によれば、発信源は中野区東中野に住む一人暮らしの女性。涼村スズムラリリ。個人情報はかなりフィルタリングしてるみたいで見れないけど、SNSを見る限りどうやら新宿で二、三年前まで働いてたみたいだね。それも、結構アングラな仕事っぽい」

 助手席に座ったアスカが、ぼんやりと空を見つめながら言った。彼女の視界は仮想空間上。まとめた情報だけを口頭で伝えている。情報の共有化が出来ない恭介のためだ。

「犯人は女だったのか?」

「みたいだね。エレンの言ったとおりレズビアンかな? でも気になるのが、彼女、高校中退後に非合法な仕事に就いて、ロクな学校にも通ってないのよ。そんな娘が超ウィザード級ハッカーなんてあり得ないと思うんだけど」

女教皇プリエステスは、ネオ・ラッダイトに関しても、あくまで協力関係だと言っていた。今回もそういうことかもしれない。その涼村って女性も、彼女の支援を受けて犯行を実行したか、あるいは利用されているのかもしれない」

「利用されている、か。とりあえず本人に聞いてみるのが一番かもね」

「だと思うけど……。アスカ、涼村はバイクの免許は持ってるか?」

「バイクの免許? なんで?」

「女教皇は単車乗りだった。それも、古いガソリンエンジンのものだ。白いバイクだった。ナンバーは覚えてないけど……」

「そういうことか。残念だけど、涼村は自動車の免許すら持ってないみたいね。まあ、いまどき自動運転でどうにかなるし、わざわざ取ろうなんて思うやつのが少ないし……。どうやら彼女が女教皇って線はハズレみたいだね」

 アスカはそう言うと、瞳の焦点をフロントウィンドウの外に戻した。意識が現実に戻ってくる。

 そのころ、偽装バンは中央本線セントラル・ライン沿いに新宿から大久保、中野へと進んでいた。


 東中野から車で十分ほどのところにあるアパート。四階建てのその近くにある立体駐車場にバンを止めると、恭介とエレンの二人は問題の涼村がいる部屋まで急いだ。

 一方アスカは、「私は現場の人間じゃないし、待ってるよ」とバンに残った。

 アパートの中はやけに静かだった。オートロックのエントランスを、警察権限で強制解放。エレベーターに乗り込むと、涼村の部屋だという三〇三号室を目指した。

 そこへたどり着くまでに、誰一人として入居者と顔を合わせなかった。管理人らしき人物も見あたらない。アパート自体は新しめの建物でもなく、義脳による一括管理というわけでもなさそうだった。

 ドアには生体認証バイオメトリクスがあるだけだった。エレンはそれに触れて見たが、エラーを起こすどころか、何ら反応もない。

「……鍵、起動してない」

「どういうことだ?」

 恭介がそう問うたとき、ドアが開いた。エレンが軽く押しただけでだ。

「鍵、かかってないわ」

「先客がいたみたいだな」

 二人とも、テーザーハンドガンを抜いた。これからは何が起きるかも分からない。

 エレンは、扉を足で強引に蹴破った。バンッ! と大きな音を立て、室内に突入。恭介はバックアップに回る。

 しかし室内に人の気配は無かった。いや、気配はあったのだが、生命らしき反応は感じられなかったのである。

「……なに、これ……」

 思わずエレンの口から言葉が漏れる。

 涼村の自宅。そこにあったのは、無数の女性義体。たくさんの義体が、壁に吊されていたのだ。


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