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4-4

 以来女性義体ばかり乗り継いできたアスカは、その特技も生かしてある副業(﹅﹅)をしていた。それは俗にメイド喫茶とか、男の娘喫茶とか言われる場所で、コスプレ好きの義体化者が運営するカフェだ。彼は調査会社に勤める傍ら、「女性義体適応者の男性」という出自を生かして人気のウェイトレスとして活躍している。その男心をよく知った愛嬌ある振る舞いもあって、彼の出勤日をわざわざ調べてまで来店する客もあとを絶たないぐらいだ。

 そのため、アスカは本業のオフィスにまでも、副業の制服やコスプレ衣装を常備させている。いつ何時、ふらっと店に行ってもいいように。あるいは、ムシャクシャしたときには過激な格好をして外にでる……らしい。

 そんな彼女が常備しているコスプレ衣装は、どれもマニアックなものばかりだった。

 今では珍しい古式のセーラー服から、紺のブルマの体操着。落ち着いたクラシカルなドロワーズのメイド服やら、ミニスカートに水着並の露出度を誇るメイド服まで。その種類は多岐に渡る。

 しかし、今回必要なのは学生服だ。それも今時の高校生っぽい流行のもの。決してアスカやエレン、恭介の学生時代のものではない。

 なんでそんなものを? と思うかもしれないが、アスカはわざわざそれをオフィスに持ち込んでいた。しかも、エレンのサイズまで。どうにも今回の捜査のために持ってきたらしい。


 アスカは、エレンに学生服を渡すと、奥の部屋で着替えるように言った。

 エレンは、「なんでアタシがこんなん着なくっちゃいけないのよ!」と、苛立たしげに反発した。だが、「捜査のためだから」とアスカが諭すと、渋々着替えることにした。

 そうしてエレンが着替えている間、アスカと恭介は別の作業を始めていた。犯人をおびき寄せる為の特殊工作その一である。

 たとえ仲良し女子高生になりきろうとも、相手が二人のことを知っていなければ全くの無意味である。そこでアスカは、犯人とおぼしき集団――ここでは、被害者のSNSを監視していたと思われる者――に対して情報が行き届くように細工を施した。

 二、三週間のあいだに稲村瑞穂と御崎玲良のSNSページを閲覧した者をサーチ。その集団のタイムラインに女子高生エレン・クロガネと、二瓶飛鳥の二人のページがおすすめとして掲載されるよう設定。そして二人のSNSアカウントには、さも仲良しのクラスメートと言わんばかりのやりとりを義脳コンピュータに任せて二年分ほど創作。中間試験がどうとか、部活がどうとか、学祭や体育祭がどうとか、あること無いことを喋らせた。そうして下ごしらえは完了。

 恭介は唖然として、その様子を見ていた。

「す、すごい……まるで本当に女子高生が会話してるみたいだ……」

「でしょ? 実はこういう義脳は、もう半世紀以上も前に出来ててさ。ヴォールみたいなアプリケーションで、女子高生型AIと会話をしよう! みたいなのがあったの。この義脳のプログラムは、その派生系。いまでは性格や言葉遣い、年齢や出身とかまで設定して疑似人格を形成出来るの」

「ちなみに、この二人の設定は?」

「私は都内出身のプログラマの娘。どっちかっていうと引っ込み思案な娘って設定だね。友達も少なくて、エレンだけが親友って感じ。で、エレンの方は、アイルランドからの帰国子女でハーフ。だからEllenってわけ。ちょっと気の強い女の子」

「エレンはちょっとどころじゃない気がするんだけど……」

「誰がガサツで気の強い女ですって?」

 と、恭介のぼやきの直後、奥の部屋から扉を開けてエレンがやってきた。

 そう、たしかにエレンの声だったのだ。しかしその容姿は、もはやエレンには似ても似つかなかった。

 いつもの革ジャンではなく、黒のブレザーに白のワイシャツ。襟元には細目の赤いリボンが蝶結びになっている。下はもちろんジーンズなどではなく、灰色のロングスカートだ。丈は膝下まであり、エレンには似つかわしくない大人びた印象を受ける。

 そして何より似合って無かったのは、ブロンドの髪だ。いつもの黒いショートヘアと赤いメッシュはどこへやら。肩まで伸びた長い髪が滝のようにたおやかに揺れている。

 恭介は思わず吹き出してしまいそうなのをこらえた。

「なによ! 趣味の悪さならアスカに言いなさいよ!」

「いや、ごめん。まさかそんな格好をするとは……。いや、似合ってるけど……似合ってるけどさ……」

 だが、エレンのイメージとはどうにも合わない。

「余計なお世話ね。これも捜査の一環なんだから。キョウスケ、アンタももっと緊張感を持ちなさいよ」

「いや、わかってるけど……わかってるけど……」

 見れば見るほど笑えてくる。

 疑似SNSでの楽しげなエレン・クロガネ(女子高生)のせいもあって、余計笑えてしまった。

 そんな恭介に、エレンは怒りがたまって仕方なかったのだろう。鬱憤を沈めるために、彼女はスカートのポケットから電子タバコを取り出した。リキッドはいつものエスプレッソ。電源をつけると、青いランプが点る。

「あ、エレン。女子高生だから電子タバコも禁止だよ」

「……は?」

 アスカの何気ない言葉に、エレンは目を白黒させた。

「だって、電子タバコでも一応タバコだし。カラダに害は無いけど、女子高生が吸うもんじゃないしさ。とりあえず捜査中は禁止ね」

「……ねえ、捜査から降りて良い?」

「だめ。それが最後の一服ね」

 エレンは深々と息を吐くと、最後の晩餐を惜しむように、ゆっくりと吸い口をなめてから一服した。


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