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3-21

 爆弾とクグツ、どちらを優先すべきか。恭介は一瞬だけ判断が鈍ったが、次の瞬間にはシオン改へと飛び込んでいた。

 頭が割れんばかりに痛んだ。いま、恭介はクロガネの四肢を自身のもののように動かしているが、脳の処理はギリギリ追いついているといったところだ。多少は慣れてきているが、まだなんとか動かせているといったところ。すこしでも気のゆるみが生じれば、こけて倒れてしまいそうだ。

 クロガネは左腕のスタンナックルを展開。同時、背部ウェポンラックに搭載したショットガンを手に取った。ヴァイパー22ショットガン。レールガンに近い作動方式を取ったその銃は、旧式であるものの、数多くの銃弾を使えることからいまだに根強い人気がある。信頼性が高いのも魅力だ。銃弾は、通常のショットシェル、あるいはテーザー弾などをマガジンに装填することで使用可能。弾丸はコイルを通して加速、発射される。

 そしてこのとき装填されていたのはm電気ショックを引き起こす対クグツ用テーザー弾だった。装甲を破ることはできないが、急所に当てれば一撃で機体をダウンすることができる。

 クロガネは背中に取り付けられたヴァイパーの銃把グリップを掴むと、くるりと回して片手で構えた。そしてなるたけ胸部コクピットから離すように腕を伸ばして構えると、トリガーに指をかけた。

 一瞬、クロガネの真横を偽装バンが通り過ぎていった。恭介の視界に、爆弾を積んだバンがチラリと写る。

 ――そっちは任せました、呉石さん。

 心の中でひとりごち、トリガーを引いた。

 銃内部で甲高いチャージ音の直後、鉄を叩く音が響いて弾丸が発射された。弾は一直線に飛翔し、シオン改の分厚い胸板に衝突する。傾斜装甲が銃弾をはじく。

「やっぱり効かないか……。だったら!」

 アクセルを踏みつけ、脚部ローラーを高速回転。

 バンとの押し合いでへたりかけていたが、いまはもうひと頑張りしてほしいところだ。

 シオン改が両腕と、背部マニピュレータを展開。合計四丁のサブマシンガンを構えた。これを食らえばあとはない。

 姿勢を低くする。バランサーの精度をリアルタイムで修正。腰を屈めた状態で、衝撃補正ショックアブソーバーを起動……受け付けない。手動入力。衝撃に備える。

 蛇行しながら高速機動。クロガネは左腕に電力をチャージ。手の甲から突出した電極に青白い火の粉が舞う。

 ――いまだ。

 かがんだ状態から、一気に腰を起こす。両足をバネのように伸ばして、その勢いに拳を任せる。そして電撃をまとった拳は、シオン改の顎へと一直線、飛んでいく。痛烈なアッパー。頭部コクピットブロックと、首回りのちょうど中間に電極が差し込まれた。

 ――入った。

 恭介はそう思った。この衝撃が電脳接続と外装義体をつなげる脊髄部分に刺さっていれば、まもなくシオン改は停止する。

 沈黙があった。車通りの完全になくなった首都高速二号線。右車線と左車線のちょうどあいだ、中央分離帯に立つ二体の巨人。

 クロガネは、ゆっくりと左腕の電極を格納させ、シオン改から離れようとする。

 しかしそのとき、まるで見計らったように、最後の力を振り絞るようにして、シオン改の背部より一本のマニピュレータがヨロヨロと姿を現した。それは銃口をクロガネの頭部へと突きつけ、次の瞬間、発砲。完全に油断していた恭介に致命傷を与えた。

 まもなく、クロガネのメインカメラが信号途絶。|ヘッド・マウント・ディスプレイ《HMD》上は暗黒に切り替わる。

 大急ぎで恭介はシステム画面を表示。サブカメラへの変更を急ぐ。だが、彼がアイ・トラック・コントロールでカーソルを動かしているあいだに第二波がきた。

 再び衝撃。連続で大きく震える機体。銃弾が装甲をゆがめていく。

 あわてた恭介の瞳とカーソルが連動し、あらぬ方向へ。まだカメラは切り替わらない。

 ――だめだ、集中しろ。

 そう思いつつも、頭はパンクしそうだった。どうすればいい?

 彼は両腕を挿した円筒が強烈な反発を起こしているのに気づいた。クロガネの腕が、シオンに捕まれている。思うように動かない。

 ――だめだ、だめだ、だめだ……集中しろ……。

 自分の心に言い聞かせる。

 その次の瞬間だ。

 クロガネ頭部に設けられた集音マイクが、モーターのいななきを拾い上げた。そして、タイヤがアスファルトを擦るスキール音も。

 その音には聞き覚えがあった。単車特有のエキゾーストノート。だが、決して女教皇プリエステスなどではない。

「キョウスケエエェェェェ!!」

 ハッキリとわかる声。

 それは、エレン・クロガネだった。


 エレンは、相棒のHAL-1250Fとともに最後の――と思われる――シオン改が出撃した地点に急いでいた。輸送に時間がかかるアーマライトと違って、小回りが利くのがハルの利点だ。

 首都高二号線。その霞ヶ関方面行きを逆走し、彼女は駆けた。深緑色をした巨人めがけて。

 その途中で彼女は破損した中央分離帯を発見した。コンクリートの塊は流れ弾の影響で倒れ、さながらジャンプ台のようになっている。そしてその先には、シオン改の姿があった。

「ハル、飛ぶからね」

 と、オフライン状態の彼女は、口頭で言った。

 ハルは黙っていたが、それは肯定と同義だった。

 右側面より超音波ブレードを抜刀。右手に構えた状態で、左手でステアリングを切る。車体をまっすぐ瓦礫の方向へ。

 軽く時速八〇キロ越えている車体は、まもなくコンクリートを咬んで、虚空へと舞った。風切りの音がエレンの耳に響く。

「キョウスケエエェェェェ!!」

 彼女は雄叫びを上げて、シオン改へと跳んだ。

 クロガネに銃口を突きつけるシオン改。エレンとハルは跳躍するや、その腰あたりめがけて飛翔。エレンは、ブレードをまっすぐ水平に向けた。

 一閃、金属がこすれる甲高い音が響いて、シオン改の腰を斬り裂いた。刃は驚くほど綺麗に、するりと装甲板の間に入り、内部フレームごと装甲・腰部バランサーを切り落とした。

 そしてハルがアスファルトの上に着地したころには、機体はまっぷたつに裂けていた。

 急ブレーキ。エレンは着地したハルを豪快に九〇度旋回させ、停車。ブーツでアスファルトを擦りながら、彼女はクロガネを見上げた。

「キョウスケ! アンタは早くジョウジのほうへ! 急いで!」


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