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〈Sound Only : from Neo Ludd〉

《もしもし。警察庁捜査本部の方ですか?》

 合成音声。ねじ曲げられた甲高い声。男か女かも分からない。また、この声だ。

《はい。担当管理官、黒田響也です。あなたは先ほどの電話のかたですか?》

《ええ。ネオ・ラッダイトですよ。よかったです、黒田さんに電話できて。実はあなたに電話をするつもりだったんです》

《私に、ですか》

《ええ。ぜひともあなた――黒田家のご長男とお話がしたいと思いまして。いま、我々はある人物を預かっています。言うなれば、人質です。誰だか知りたいですか》

《教えてもらえるのなら、答えてくれるとありがたい》

《いいでしょう。黒田恭介。元警察庁職員で、現一之瀬警備保障の社員。さらに本件捜査員の一人で、もっと言えばあなたの実弟……。彼の身柄を預かっています。解放してほしいですか?》

《私に弟はいない。しかし、人命を脅かすことは許さない。それがたとえ民間人であろうと、警官であろうと》

《意外と熱血なんですね。いや、我が身恋しさですかね。キャリアに傷をつけたくないですものねぇ。いいでしょう、黒田恭介が助かる方法をお教えします。これから三十分以内に、東京都内のどこかに再びシオン改が現れます。もしあなたたちがシオン改を見つけ、逃がすことなく捕らえてください。もし捕らえることができたら、彼を解放します。逆に逃がしてしまった場合には、彼は死にます》

《逃がしたら死ぬ? ふつうは逆じゃないか?》

《ええ、そうですね。でもこれは、犯罪じゃない。あなたたち警察を試すゲームなんです。そして、我々の力を示す良い機会でもある……。ちなみにシオン改の数は教えません。スリルを楽しんで下さい。ゲームの開始はいまからです。それでは、頑張ってくださいね、警察庁のみなさん》

 ツー、ツー……。

 通話終了。緊急通信は、聴覚野から失せた。

〈/Sound Only : from Neo Ludd〉


     *


 まずいことになった……。

 エレンは思わず電子タバコの手を止め、呆然としてしまった。

 ――恭介がテロリストに捕まった。しかも、人質。

 クグツを見つけだして逮捕しなければ、恭介の命が危ない。もし取り逃がしたら、彼は殺される……。

 エレンは悟った。いま、彼の命は自分たち武装企業に託されているのだと。もしも自分がクグツを捕まえられなければ、恭介は死ぬのだ。

 居ても立ってもいられなくなった。エレンは電子タバコを上着のポケットにつっこむと、急ぎ足で地下に向かった。いますぐハルと行かなければ……!


 エレンが飛び出していったのは、二階のオフィスからでも見えた。

 彼女が駆け足で階段を降りていく理由は、呉石にも坂本にも分かっていた。原因は恭介だ。クグツを発見し、破壊しなければ黒田恭介は死ぬ。全捜査員の緊張感は、黒田響也とネオ・ラッダイトの会話とともに並列化されているように感ぜられた。

「エレンちゃんは慌て者ねぇ。しかし、黒田君が人質に取られたなんて。……たぶん、もうすぐウチにも正式な出撃命令が下るでしょうね」

 坂本は言って、視界上に捜査情報をブラウズさせる。彼女の物腰は、こんなときでもいつも通りだった。

 その一方で、呉石は拳を堅く握り締めていた。ストレス障害だとか、逃げ出したとか、そう言った矢先にこれだ。呉石は後ろめたさを感じた。

「……チーフ、俺、エレンと一緒にクグツを捜してきます。じゃないと、アイツが……!」

「待って」

 突然、坂本は真剣な顔になって呉石を制止した。彼女は人差し指を突き立て、呉石に黙るよう無言で投げかけた。

 坂本がそんな顔になったのには理由がある。ちょうど捜査情報をブラウズしたとき、彼女の電脳に通信が入ったからだ。

 それも送信主は松本製作所だった。松本澪からだ。

《もしもし……お取り込み中でしたか?》と澪。

《ちょっちね。それで、澪ちゃんが私に直接連絡寄越したってことは、どういうことかしら。かなりヤバいこと?》

《ええ、まあ。それが……あの……クロガネが独りでに動き出して、どっかに行っちゃったんです。武装も付けたままでして……。幸い発信器は付けてあるんで、現在位置は分かるんですが……》

《それってつまり、暴走ってこと?》

《はい。でも、少し興味深いことがあって。実は、クロガネって前にも一度同じことが起きてるんです。そのときっていうのが、恭介さんが初めて一之瀬に来たときの事件――つまり、初めて動かしたときのことでして。しかも今回暴走したとき、クロガネの義脳は『現場に急行する』って外部スピーカーで言ってまして。……あの、エレンから聞いたんですけど、恭介さん失踪したって……。もしかしたら、クロガネは恭介さんのとこに行ったんじゃ……》

《まさか。……可能性はあるの? 黒田君の居場所、こっちでも掴めてないのよ》

《正直わかりません。クロガネの義脳は完全にブラックボックスなんです。どこまでの性能を有しているかは謎ですが、もしかしたら……》

 澪は言葉を濁し、そこで黙り込んだ。

 クロガネは、黒田恭介のもとへ向かったかもしれない。そんな不確定な情報が信じられるだろうか? だが、時は一刻を争う。自社のクグツが暴走して事件を起こせば、それこそ一大事だ。まずはそれを止めなければならない。

《……わかったわ。ウチで何とかする。発信器の信号だけ送ってくれる?》

《わかりました》

《お願いね》

 通信を切る。

 坂本は、ようやく呉石を制止していた手を下げた。そして彼に言った。

「呉石君、申し訳ないけど、あなたには別の仕事を頼んでも良い?」


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