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一一四〇時、東京都豊島区首都高五号線。その上空、北池袋付近にOH-28ガンマ汎用輸送ヘリコプターが進入。同機は、超硬度ワイヤーアンカーによって外装義体を一機吊下げられていた。
TSS-1のコールサインで呼ばれるその機体は、米国ヴェクター・アーマメント社製の外装義体、USX-4000Gアーマライト。米軍でも採用されていた|ゴールドスミス・アームズ《GA》社製SSX-300グレンジャーを、ヴェクター社が改修した機体であり、俗に四・五世代型と言われる機体の一つである。各国の司法機関も続々とこのアーマライト・タイプの四・五世代機を導入しており、次代のスタンダードとさえ言われている。
黒と青に塗られた機体は、ケイト・キリサキのために改造された専用機であり。特徴的な三つ眼は、鴬色に輝いている。猛禽の嘴がごとき頭部は鋭く、また全体的にスリムに整えられたフォルムと相まって軽装な印象を受ける。しかし、その大腿部には二丁のサブマシンガンを格納するホルスターを備え、また両肘にはトンファーとしても使用可能な殴打用スタンスティックを装備。背部ウェポンラックは、ユニバーサル規格のレール・インターフェース・システムを搭載し、様々な装備を自由に装備可能だ。そしてこのときケイトが装備していたのは、対クグツ用の山刀と、電磁パルスグレネード・ランチャーだった。相手はかなりの重装甲であるから、内部から義脳を壊すしかない。そう判断した結果だ。
ケイトは、すでに自身の電脳とアーマライトの義脳とを接続。彼女の身体は拡張され、四肢は七メートルの鋼鉄の巨人へと変貌していた。指先の一本一本、肌触りのすべてが金属と化している。それが電脳・義脳接続の感覚であり、外装義体と電脳とをつなげるという行為である。
《TSS-1、まもなく交戦区域に入る》
ヘリのパイロットから通信。
ケイトは、アーマライトの義眼を下へ向け、ハイウェイを見た。そこには、黒馬を駆って戦う女武者が一人。そして、深緑色をした巨人が二人。巨人は脚部に損傷を負いつつも、四本の腕を巧みに操り、女武者を翻弄している。
《……こちらTSS-1、了解。いつでも降下可能。それと、一之瀬のあの娘に早く退くように言ってくれませんか?》
《本部は、すでに通達済みだと言っています。おそらく向こうが独自の判断でああしているのかと》
《なるほど。相変わらず強情な方ですね、クロガネさんは。……では、TSS-1降下します。ワイヤーをパージ》
《イエス、マム。ワイヤー切り離し》
刹那、アーマライトの巨体を支えていた四本のワイヤーが肩と腰のフックより切り離し。機体は自重によって降下を開始した。
上空から一機の巨人が降ってきた。それはアスファルトに大穴を穿ち、白煙をあげながら着地。エレンとシオン改の間に落ちてきた。
その瞬間、エレンは深くため息をついてから、ブレードをハルの格納部にしまった。
《時間切れ、か》
《みたいだな。どうやらタウンゼントの外装義体が到着したようだ》
《結局、イイトコはみんなアイツが取っていくってわけね》
エレンは自嘲気味に嗤い、それからバックギアへ。ハルを後退させる。
白煙が晴れる。煙の中から一体の巨人が現れた。青と黒に塗られた、痩身の外装義体。緑色の三つ眼と、ステルス性に特化した丸みのあるフォルム。そして、背部レールシステム。USXー4000Gアーマライト、ケイト・キリサキ機。
《早く退避なさい、エレン・クロガネ。邪魔ですわ》
ケイトが通信に割り込み、叫んだ。
《言われなくたってそうする。頑張ってテロリストを捕まえることね、キリサキ》
《言われなくてもそうしますわ》
HAL-1250F、後退。
二機のシオン改はそれを追いかけようとしたが、しかしケイトがそうはさせなかった。
彼女=アーマライトは、右腕からスタンスティックを突出させると、それを豪快にもシオン改の頭部に突き刺した。目標のメインカメラが潰れる。頭部にあるコクピットまでは到達しなかったが、しかし搭乗者にかなりのダメージを与えたはずだ。そのせいか、シオン改はそのままバランスを崩し、機体は横倒しになった。パイロットはおそらく気絶状態。そのうえ脚部履帯が破損している。もはや行動不能だろう。
《まずは一機、次はそちらですね?》
ケイトは不敵に笑み、左右の腕からスタンスティックを展開。黒いスティックの周囲には、敵を感電・行動不能に陥らせる高圧電流が流れている。
アーマライトが鶯色の三つ瞳を輝かせ、それをリボルバー拳銃のごとく回転させた。緑色のレーザーポインターが、二機目を捉える。
するとシオン改は、恐れをなしたのか後退を開始。味方を放置して、敵に背を向けた。
《あ、こら! 待ちなさい!》
ここはもはやスタンスティックの間合いではない。
ケイトは右腕のスティックを格納すると、背部レールシステムからXS-45パニッシャー・グレネードランチャーを掴む。すでにボックスマガジンには十二発のEMPグレネードが装填。トリガーを引けば、着弾地点から半径五メートルの範囲に強力な電磁パルスが発生するようセット済みだ。むろんこの装備では、搭乗者の電脳を焼き切る可能性もある。しかし、相手はすでに発砲し、抵抗する様子を見せている。もはや選択の余地はない。
《撃ちますよ、いいですね?》
ケイトは本部に問い合わせる。
彼女の視界には、パニッシャーの照準機構とリンクした映像が映っている。パニッシャーは、サイトに捉えた標的と自機の距離を自動で計算し、グレネードの炸裂距離を設定する機構を有している。そしてその炸裂距離は、ちょうどケイトの視界の右はしに表示されていた。徐々にその距離は遠ざかっていく。五〇メートル、六〇、七〇、八〇……まだ狙える。
《本部、了解。これ以上クグツを暴れさせるわけにはいかない。確実にしとめろ》
《了解。しとめます》
そして、ケイトの意識はトリガーを引いた。
アーマライトの右手がその意識と直結され、断罪者のトリガーを引く。銃口から発射された腕ほどの大きさをした弾丸。それは放物線を描いて飛翔し、空中で炸裂。稲妻が落ちたような閃光と同時、灰がかった砂埃を巻き上げた。
舞い上がったホコリが電流に引き寄せられ、あたりに滞留する。EMPが炸裂するのは、ほんの一秒以下。その瞬間の電磁パルスで着弾地点にある電子機器はすべてオシャカになる。
……そのはずだったのだが。
やがて砂埃が晴れた時、ケイト・キリサキ=アーマライトの義眼が捉えたのは、なにもない空間。うっすらとホコリが舞うだけの空虚なハイウェイだけだったのだ。




