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 状況終了。

 完全に停止したムシは、機体の残骸だけを残して夜の闇に消えた。

 戦闘の疲れに憔悴しきった恭介は、クロガネのコクピットから出ることもなく、汗だくで倒れていた。一区切りついたと思ったら、急にカラダから力が抜けてしまったのだ。頭もパンク寸前。はやく目を閉じて寝てしまいたい気分だった。というより、いままぶたを閉じればすぐにでも寝れてしまいそうな気がする。意識が飛び飛び、うつらうつらする。

 しかし、そんな恭介を叩き起こしに彼女がやってきた。

 外部からコクピットハッチが強引に開かれる。そこには、街灯の光で逆光になった少女の影があった。肩より短い黒髪に、前髪に入った赤いメッシュ。革ジャンを羽織った彼女は、恭介の姿を見て深く嘆息した。

「ずいぶん無茶したわね、アンタ」

「肝は据わってたか?」

「というより、ただの無鉄砲。でも、この機体でここまで戦っててのは、正直信じらんない……」

「僕も信じられないよ……だって、僕はしがない雑用係だったんだから……こんな、クグツなんて……」

 と、意識が飛びそうになった。目が閉じそうになる。

「あ、こら! 寝るな! 仕事はまだ終わってないんだぞ!」

 エレンの声が遠くなっていく。

 もはや彼の肉体から、徐々に意識は遠のいていった。深い眠りの中へ。エレンの叱咤がまだ聞こえてくるが、恭介は達成感に包まれていた。


 そのころ、坂本真矢は呉石の運転でようやく現場に着いたところだった。すでに駆除されたムシの周囲には、警視庁の車両が並んでいた。赤色灯の光を周囲にまき散らし、さらにはクグツ回収用の大型トレーラーが現場へと入ってくる。上空には報道用の無人機が何台も飛んでいた。

 呉石は、警視庁車両の群の手前に停車。坂本はクルマから降りて、事件現場を見やった。

 結局、すべては黒田恭介の見立て通りだった。牧留一が誰に襲われたかは不明だが、彼のプログラムを元にして作られたムシ――コピーキャットのオリジナル・コピーが、あの清掃ロボットの中に残されていた。なぜ牧があのなかにそれを残したかは不明だが、おそらく彼なりの贖罪だったのだろう。

 ワクチンプログラムは現在、二瓶飛鳥主導のもとで生成中である。オリジナルのコピーがあれば、どのように成長したムシにも対応可能である。次に問題の『彼女』が現れたとしても、今回ほどの事件が起きることはないだろう。

 坂本はパトランプの赤い灯火の向こう、光に照らされる自分の部下たちを見た。漆黒のバイクHAL-1250Fと、群青色のクグツART-Xクロガネがそこにはあった。

「まさか、チーフが言ってたことが本当だったなんて」と、ドアを開けて呉石も降りてきた。

「私の言ってたことって?」

「あの野郎には何か隠れた才能があるかもしれないって。……あ、もしかしてチーフ、それを知っててヤツを引き抜いたんです?」

「いや。なんにも。サッパリよ」

「えぇ……事が良いほうに転んだからよかったものを……ヤツが使えないロクでなしだったらどうしたんです」

「まあ、結果オーライだし良いじゃない? これから彼はウチのメンバーの一人なんだし。私の収集癖もたまには役立つでしょ?」

「たまには、ですね」

 呉石はそう言って笑った。

 警察車両の向こう、ムシの残骸とともにクロガネが牽引されてやってくる。この慌ただしい一日が、黒田恭介とクロガネの出会いの日だった。


 錆びた鉄を抱いた男。 〈了〉


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