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加速を続けたまま、エレンは右手で握ったブレードを水平に構えた。彼女は決して減速すること無く、最大出力でぶっちぎった。
相対距離が狭まっていく。ハルがシャーロットJの解析情報をエレンと共有。エレンの視界には、リアルタイムのシャーロットJの武装状況、残弾、システム負荷、ダメージコントロールが表示されている。
まもなく、接近中の黒い弾丸にムシも気がついた。
暗闇に紛れるシャーロットJの装甲板。黒を基調とした都市迷彩は、ビルや路面に完全に溶け込んでいる。バイザー下に隠れたカメラアイが、動作音とともにエレンを向いた。
そして直後、二機のシャーロットJのうち一機――それは背中に大きめのランドセルを担いだモデルだった――が、背部より何かを放出した。
飛び出したそれを、エレンが見逃すはずがない。彼女の義眼は、放出された四機の蜘蛛のような物体にズームイン。
《ハル、あれって……?》
《自走無人銃座だ!》
《嘘でしょ!? そんなの聞いてない!》
すぐにブレーキを踏みつける。が、いまさら減速が間に合うはずがない。ならば加速を続け、駆け抜けるまで。イチかバチかだ。
即座にハルが独自判断で車体外周に電磁迷彩を強制展開。セントリーガンの目を騙すため、車体を視覚的にカモフラージュ。同時、その際に生じる余剰磁性を強制放出して磁力追加装甲を生成。飛んできた無数の銃弾をはじき返した。
ハルはそのまま加速、セントリーガンに突っ込んでいく。もはや避ける必要はないと判断したエレンは、ブレードを水平に構えたまま、車体を強引にセントリーガンに近づけて、一気に引き裂いた。
一機撃破。一個小隊と化したムシの群を通り抜けて、Uターンを決める。
二機の外装義体、シャーロットJは、新しいオモチャをのぞきこむ少年たちのようにエレンへ瞳を向けて、首をケタケタと動かしながら歩いてくる。セントリーガンもまた、あざ笑うようにクグツと共に接近してきた。
《エレン、さっきのでエネルギーの大半を使い果たした。もう次のシュルツェンはない。私には、もう君を守ってやる力はない》
《いいのよ、ハル。……でもまあ、面倒なことになったわね》
セントリーガンの油がブレードにべったりとついている。
エレンは刀を振るって油を叩き落とすと、アクセルを開いた。電磁モーターがいななく。
*
現場から七〇〇メートルほど離れた地点で、擬装バンは停車。いつでも手動運転で脱出できる状態にして、黒田恭介はN+システムにアクセスしていた。
デジタル・アイウェアに映る光景に、彼は開いた口が塞がらなかった。ランドセルを担いだ戦闘支援用シャーロットJ・L型。そして通常のシャーロットJが一機。そのどちらにも単発式のプルバップライフルが積まれていることは報告されていた。実弾は装填されていないが、暴徒鎮圧用のテーザー弾は装填されている。弾頭を強力なスタンガンに改造したもので、生身にも義体にも通用するものだ。そしておそらく、L型のランドセルから放出された四機のセントリーガンにも同じモノが装填されているはず。これは、まずい状態だった。
二対一ならまだ勝機はあったかもしれない。考えようによっては、一之瀬もハルとエレンで二対二だ。しかし、セントリーガンは四機。エレンはうち一機をすでに撃破しているが、それにしたって五対二だ。しかも最初の攻撃は、ほぼほぼ奇襲に近かった。奇襲は一度しかない。だから、奇襲だ。二度目はない。
「……まずいことになったぞ……」
恭介はつぶやきながら、何か自分に出来ることはないかと探す。
セントリーガンには自律型義脳が組み込まれているはずだが、それに指令を出しているのはほかでもないシャーロットJ・L型だ。なら、両者は何かしらのネットワークで接続されているはず。それを洗えば……いや、だめだ。ムシに侵蝕された義脳に少しでも手を出せば、逆に恭介の方がやられる。唯一の頼み綱であるデジタルアイウェアがお釈迦にされてしまう。とてもじゃないが、素人ではムリだ。
なら、いまからアスカに連絡してやってもらうか? 彼女のもとには坂本部長たちが行っている。彼女は、すでに別の仕事を請け負っている。いまからこれをやらせるか? 間に合うはずがない。
じゃあ、どうすればいい……?
どん詰まりになったそのとき、もっとも聞きたくなかった声が聞こえてきた。エレンの悲鳴だ。




