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 ハネダ・エアポートへと続くエアポート・リニアライン。蒲田から多摩川を越え、巨大な埋め立て地へと向かうその路線は、いま緊急の運行停止を迫られていた。ジャパン()リニアレール(LR)は、エアポート・ラインを含む計四路線を運行停止。各停車駅ではパニックが起きていたが、しかしこれは止む終えない措置であった。

 原因は、多摩川の土手近くに設けられた城北技術センターにある。官営の産業技術振興施設であるそこにムシが潜り込んだ。侵蝕先は、もちろん外装義体クグツだった。

 第四世代型外装義体SS‐83シャーロットJ。アメリカ製司法機関向け外装義体SS‐80シャーロットを、さらに日本で現地改修したものである。起伏の激しい日本での作戦行動を念頭において改造された機体であるシャーロットJは、特に足まわりに改良が施されている。その走破性と跳躍性は、一般的な外装義体の性能を30%上回る。ハッキリ言って、脅威という以外言葉のしようがない。

 しかし、それでも倒さなければならない。それが準警察組織・一之瀬警備保障に与えられた仕事だ。


 恭介とエレンを載せた擬装バンは、電磁迷彩(ECS)を解いた状態でサイレンを鳴らし、空港へと続くハイウェイを疾走していた。

 右座席に座る恭介は、自動運転のままデジタル・アイウェアにN+システムの情報をリアルタイム表示する。

 N+システムは、車両の登録情報、並びに乗員のパーソナル・ナンバーを確認する一種の監視システムである。一般的にはスピード違反車両への対処に用いられるが、緊急時にはそれ以外の利用も許諾される。そしてまさに今がその緊急時だ。

 恭介は右目にN+を表示し、多摩川付近を監視。河川敷から徐々に北上する二機のシャーロットJの姿を追った。機体は高速道路を逆走。暴走を続けている。

「キョウスケ、あとどれぐらいで接敵エンカウントする?」

 後方、バンの荷台に積まれたHAL‐1250Fにまたがって、エレンが言った。

「えーっと……」左目に映したマップデータを元に計算。「およそ三分」

「了解。もう出して。さっさと片づけるわ」

「いいのか? 相手はシャーロットJが二機だ」

「ヨユーよ、ヨユー。アタシとバディ組むなら、もう少し肝の据わった男になることね。……ハル、出るわよ」

 直後、バン後方のハッチが解放。開かれた扉がアスファルトに接触し、火花を散らした。クルマはわずかに減速。

「じゃ、あとよろしく」

 エレンはそう言うと、微速後退。バンの後方へ飛び出た。

 車道に飛び出たHAL‐1250Fは、一瞬だけ擬装バンに遅れをとるも、直後には急加速。恭介を追い越していく。

 夜のハイウェイを、テールランプの赤い光を残して駆け抜ける一台の電動バイク。今の恭介には、それにまたがる少女の背を見送ることしか出来なかった。


 漆黒のバイクHAL‐1250Fは、加速を続けていた。これでは三分足らずで到着しそうだ。

 空港へと続くハイウェイは、すべて通行止めの状態になっていた。二十分前に非常事態宣言が発令されてから、暴走したシャーロットJの半径二キロ以内ではあらゆる車両の通行が禁止されている。政府通達を受けた義脳コンピュータたちは即座に指令を実行し、それまで走行中だったルートを変更した。義脳のコントロールを受ける自動運転車両が現場に入ってくるようなことはない。

 そんな中、エレンの左方には無人飛行機ドローンが飛んでいくのが見えた。機体は上空でわずかに減速し、方向舵ラダー昇降舵エレベーターを小刻みに動かして静止。推力変更ノズルが下を向いて、機体はホバリングした。

《報道用の無人空撮機ドローンか。ねえ、ハル。報道管制ってどうなってるの?》

《どうやら間に合っていないようだ。》と落ち着いた声で、ハルの義脳は答えた。《霞ヶ関が処理に当たっているようだが、もう少し時間がかかりそうだな》

観客オーディエンスは十分温まってるってことね。いいわ、さっさと片づけちゃいましょう。ブレード出して》

《わかった。しかしエレン、気をつけろ》

《ハル、アンタまでアタシを心配するの?》

《いや……。だが、気をつけろ》

《分かってるわよ》

 街灯が光を落とす合間を駆け抜ける。高速区間内の立体映像案内表示ホログラム・ガイドが通行止めのマークを描いていた。しかし、エレンには関係ない。

 罰印のホログラムの向こう、薄暗闇の中でスタンガンが弾けるような閃光が瞬いた。カミナリのような爆音も轟く。

《早速お出ましね》

 エレンは、超音波ブレードを引き抜いた。

 彼女の視界は、熱赤外線探知(サーマル)モード。暗闇の中でうごめく赤い熱源対を捉えていた。


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