さんじゅうに これは…ほんとうに?
『私はいつも無理をしていたのかもしれない。
あなたに言われて初めて気が付いた。私は…あなたの言うように、笑顔を張り付けていたのだろうな』
『これからはあなたの側であなたのように笑いたい』
アランティス・ティ・グランドラ。
攻略対象の一人。騎士の血統。伯爵家の嫡男。そんな名門中の名門、由緒正しき伯爵家の彼は昔から第二王子の取り巻きの一人だ。
彼は幼いころから、にこにこと笑みを絶やさない優しい物腰の紳士だ。俺様である第二王子がどんなことを言っても困ったように笑っている。騎士科のトップに君臨する彼の強さは、その物腰からは想像もできないと言う。そして、何故か名門中の名門の貴族なのに、婚約者がいない。
(と言う設定だった)
そんな婚約者がいない彼!そう!その通り!!
(どの通り?!)
そんな彼のライバルキャラが何を隠そう『リューナ・アブヒラドール』なのだ。幼なじみという設定の2人。子犬のようなリューナがまとわりつくことを、困ったような笑みでアランティスは躱す。
(腹黒!という疑いをネットでは言われていたけれど、どこまで行っても、彼は優しい男だった。第二王子が俺様、何様、王子様だったから、余計に『清涼剤』のように扱われていたな~)
そして…。
目の前の恐縮しているリューナを見る。
幼なじみ。確かにそう言う設定だった。だからこそ、このストーカー女がリューナなら、納得がいく人物だ。
ん?考え込んでいるうちに、ストーカー女がはっとして、だらしなく顔が緩んできたな。
「…言っておくが、嫉妬ではないからな」
その言葉にしゅーんと言う効果音が聞こえそうなほど沈んでしまったストーカー女。
(なんて読みやすい!私が黙ったのが、嫉妬からくるものだと思ったのか?!)
「…リューナ」
ぽつりと名を呼べば、ストーカー女はバッと顔を勢いよく上げる。
「お前はリューナ・アブヒラドールか?」
驚きに眼を見開くストーカー女。
(あたりか…。できれば当たってほしくなかったな)
あれ?ストーカー女、リューナの顔が真っ赤に染まっていく。
「あう…あ…」
口をパクパクさせている。下を向いて、肩を震わせ始めた。
…嫌な予感…。
「ふ…ふふふふふふっふ!!うふふふ!
なまえ…なまえを呼ばれちゃったわ!うふふふふ!わが君に、わが君に…」
…どうしよう。壮絶に気持ち悪い。
(って、おい!フィアレイン!!なにおもしろがってるの―――――!!どう考えても、気持ち悪いでしょ?!)
「…アランティスはお前の知り合いか?」
「いいえ!私が街でぶらぶらしていると、勝手に付いて来て、まとわりついて来るんです。本当に迷惑しているんです!!」
まさかのストーカーのストーカー!!?
(…なにも、何も言うまい!!突っ込んだらお終いだ!!)
「いや、お前と同じことしてるだけだろ?」
(シャルドオオオォォォォォ!!ナイス!!グッジョブ!!)
「なによ!!私は『愛』ゆえの行動だけど、アランは違うわ!!」
「違うって何が?」
シャルドが呆れたようなため息を吐く。
「彼はただ単に、おもしろがっているだけよ。彼はにこにこと笑みの仮面を常に被っているわ。大人でも見破れないようなほぼ完ぺきな仮面よ。
それでも、彼はもっと見破られない仮面を必要としている。
なぜ、そんなものが必要なのかは分からないし、どうでもいいけれど、彼は私で試しているのよ。
その仮面の仕上がりを…」
だから、彼のそれは『愛』でも『恋』でもない、と。そうリューナは断じた。
(…待って。どういうこと?)
ゲームの中で、確かにアランは追いかけてくるリューナのことを『妹』のようだと、ただの『幼なじみ』だと言っていた。だけど、現実には追いかけているのは、アランの方だ。
(現実であるが故の差異?)
それにしたって、『無理に笑っている』とヒロインに言われるアランは、今、『より完璧な笑みの仮面』を目指している。
(差異…?これは…本当に差異なの?!)
これは、本当は…フィアレインの策ではないの?
ぞっとする。思わず、組んでいた腕に力がこもる。
(どこまで…?これは…本当に?)
思考が空振りするようだ。考えても考えても、私の中のフィアレインはおもしろがるばかりだ。
だんだん冷静にさせられる思考。
(考えろ!これが自分の思考かどうか、自信は持てないけれど…)
アランティス・ティ・グランドラ…。彼が、もし仮に…フィアレインと接点があったとしたら、彼の立ち位置ががらりと変わる。
だって、彼は…攻略対象の中で、唯一、とあるルートで『殺害』される男。




