さんじゅういち するどい!
(うおぃ!!?何してくれてるんだ?!せっかくの飼いならしを邪魔する気か?!)
キッチンの隣りの部屋。ソファのみを置いているダイニングのような部屋の扉を開けると、そこにはストーカー女がいた。
私が部屋に入ると、ぱっと笑顔になり、次に入ってきたシャルドを見て、思いっきり不快を顔に出した。
と思ったら、どこから取り出したのか、ナイフをシャルドの顔の横を目がけて、投げつける。スパッとシャルドの頬を掠めて、後ろの扉にスコンと刺さる。
(おぉ!!フィアレインは動体視力もいいのか?ナイフの軌道がこんなにもはっきり見えるなんて!)
おう!感心している場合じゃなかった!二投目を構えたストーカー女に慌てる。
「…やめろ。変態女」
そう言って、ソファに座る。
いつもなら、私の言うことを聞くストーカー女だけど、どうやら今日ばかりは聞かないようだ。不機嫌を顔に出して、シャルドを睨みつけている。
「…うして…」
ん?
「どうして、こんな子なのよ!!わが君の初めては私が貰うはずだったのに!!」
…あ?
初めて?何のこと?
「は…はじめて…とは?」
お!シャルド、えらい!!よくぞ聞いてくれた!ストーカー女の言うことは、ぶっ飛びすぎて、よく分からないんだよ。
「初めては初めてよ!!私が怖がっていたら、優しく『大丈夫、怖くないよ』と言って、震える私をそっと抱きしめて、ゆっくり導いてくれるはずだったのに!!」
「…」
(ぶっ!!)
なんだか、誤解を生みだしそうな内容だな。
しかも、その優しく抱きしめるってのは、どう考えてもフィアレインのキャラじゃないですよね?!彼女の中でのフィアレインのキャラはいったい、どんな人間なの?!
「あの…」
「そうよ!わが君の導きで、私は初めて認められて、きっと一番になれると思ったのに!!だいたい、何?!ぽっと出の従者が、仕えられる幸運に気付きもしないで、何を教会で思い悩むことがあるって言うのよ!そうよ!!幸運!幸運なのよ?!ずるいわ!私が従者になりたかった!今からでも遅くないわ!変わってちょうだい??あぁ、でも、だめね!そんな幸運に恵まれたら、今度はお風呂の残り湯を持って帰るだけじゃすまなくなりそう!毎日の食器まで持って帰りたくなってしまうわ!そんなことになったら…幸せすぎて鼻血が止まらなくなりそう!そうだわ!それよりも、枕の匂いを嗅ぎまくって…」
「……」
「……」
(………。はっ!あまりの変態に思考が停止しかけてた…)
あぁ、つまり、地下の通路を今まで通ったことがないのは、私に認められて、招待されるのを待っていたというわけか?その初めて招待されて通路を通る権利を、横からぽっと出てきたシャルドにとられたのが悔しかったのか。
どうでもいいが、そのお風呂の残り湯はどうしたんだ?
(知りたいけど、知りたくない)
「あぁ!それよりも髪の毛を持って帰って、匂い袋を作るのはどうかしら。いい案だわ!!お人形を作るのもいいかもしれないわ!そう言えば、東の国に人形に髪の毛を入れるおまじないがあるって聞いたし」
そして、まだ続いている。人形って、呪いでもかけようとしているのか?というか、そろそろ止めた方がいいのか…。
「…い」
ん?何かシャルドが言ったか?
扉の前で立っていたシャルドをソファに座ったまま、振り返る。
「…変態」
(だよね!!誰しも同じ感想を持つだろうね!!)
ぼそりと呟いたシャルドの声にストーカー女は反応する。
「失礼ね!これは、『愛』よ!!バカにしないでくれるかしら」
…うん。重たすぎる『愛』だね。重すぎて呼吸を忘れそうだったよ!!
「いいや!!変態!変態だ!だいたい、なんだよ!気持ち悪い!!」
「なによ!君に関係ないでしょ!!わが君は気持ち悪いなんて言ったことないもの!!いつも、おもしろそうに笑ってくれたもの!」
それは、フィアレインが、変な方向で寛大だからだよ…。
「おもしろそう?!何したんだよ、お前!!」
「お前?!君にお前なんて呼ばれる筋合いないわ!ちょっとデートにいったり、わが君のいらないモノを貰ったりしただけじゃない!!私があげたプレゼントだって、『私よりは君の方が似合うよ』って言われてもらったけど…別に変なことはしていないわ!!」
…買い物に行く私の後を付いて来て…。ゴミを拾って帰って…。フィアレインが貰って変な装飾をして返却した人形のことですね。
「いや、それ絶対、お前の勝手な行動入ってるだろ!」
するどい!ほとんど、それだよ。
しかし…。
(シャルドがツッコミ属性だとは…知らなかった)
なんだか、言い合いは続いているけど、埒が明かない。
「…変態女」
ぎゃんぎゃん言い合いしていた2人が私のボソッとした声に反応して、こっちを振り向く。
「…北に行ったはずでは?」
うん。それが一番の疑問だよ。追い出したはずの人間がなぜ、ここにいるんだ?!
そう言うと、ストーカー女ははっとした表情をして、すぐに視線を彷徨わせる。しまった!って顔に書いてあるけど?!
「あ、あの…その…」
じっと見つめると、だんだん顔が真っ赤に染まっていく。
「ごめんな…さい。あの…私…」
言葉を捜すように視線をうろうろさせている。
「…代わりに、別の人に頼んで…」
「へぇ、誰に?」
「あの…。アランティス・ティ…グランドラっていう…男の子に…」




