さんじゅう ひみつのつうろ ~シャルド~
ど、どうしたのでしょうか?
手紙を渡した瞬間、フィアレイン様が固まってしまいました。
そして、何を見ているのでしょう?あれ?そう言えば、あの印璽…。どこかで見たような…あれは…。
あぁ、だめです。まったく思い出せません。聞いたら、教えてくれるでしょうか?
…いや、無理ですね。自分で考えろと言われる予感しかしません。でも、気になります。
あの冷静なフィアレイン様がこんな不快そうな顔をして受け取る手紙とは、一体誰からなのでしょうか?
「あの、フィア…あの。坊っちゃん?」
名前を呼ぼうとして、思いとどまりました。その名前で、呼んでもいいのでしょうか?親から認められない証の名前を呼んでも…。
「フィアレインでいい」
「で…すが…」
「気にするほどのことではない。それに、私は他人が思うよりもその名前を気に入っている」
気に入っている?なぜ?
そう聞こうとして…。
ふっと、わずかにフィアレイン様がほほ笑んだのが見えました。
いつもの冷たい笑みでも、バカにしたような笑いでもなく。柔らかな笑み。一瞬で消えたその笑みは、どこか悲しそうにも、嬉しそうにも見えました。
あぁ、この方は。こんな風にも笑えるのだ。
ただ、冷たい方と言うわけでもない。ちゃんと笑える方。
僕はぼうっとフィアレイン様を見ていました。
「シャルド」
「あ、え?は、はい!!」
急に名前を呼ばれて、驚いて慌てて返事をしました。以前のように冷たい声ではなく。かと言って優しく、と言うわけでもないのですが…。
名前を呼ばれたことが嬉しくなって、つい顔が笑顔になります。
「…ついてこい」
「!!はい!」
大きく返事をすると、フィアレイン様は眼を細めて、冷たい眼で僕を見ていました。
…しまった。またうるさくしてしまった。
「…あの…この道は…」
「いいから黙ってついてこい」
…なんでしょう。このトンネルは…。
フィアレイン様が、急にお部屋の壁をずらしたかと思ったら、なんと、道が出現しました。その道をずっとついて歩いているのですが…。
…もしかして、ご自分で掘った…とか?
途中、分かれ道が何本かありましたが、いったいどこに繋がっているのでしょう?なんだか、色々、気になることがあり過ぎるのですが、何ひとつ解決できないまま、謎ばっかり増えていきます。
しかも、この道、どこに繋がっているのでしょう?
「…これは秘密の通路だ。誰にも喋るな」
ぼそりと呟いた言葉。え?そんな秘密の通路を僕に教えてもいいのでしょうか?
誰にも喋るなってことは、本当に誰も知らないのでは?
じんわりと嬉しさが込み上げてきます。
そんな秘密を僕にだけ教えてくれた。信用されているように思えて、少し嬉しいです。
道の先には小さな部屋がありました。土壁に覆われた部屋、と言うよりもちょっと広い洞窟の一部のような気もしますが。
梯子のような階段があり、そこを昇ると出入り口のようなところは木で蓋をされているようでした。そこを押すと…。
「…家?」
驚きました。どこかのお家のようです。出てきたその部屋は小さく、どうやら貯蔵庫のようです。ですが、大きな家具やら何かが置いてあると言うことはなく…。
…強いて言うなら、部屋の隅に何かが入ったビンがいくつか置かれています。何かが入った…。
ちらりと見ると、何やら液体に何かが浸かっているような…。
いえ、きっと、何もかもが気のせいに違いないです!あの地下の汚い部屋で同じものを見たような気がしたのも、きっと気のせいです。
そう言えば、ここはどこなのでしょう?
隣りでフィアレイン様が僕たちがたった今出てきた出口を閉じていました。
何も言わずに部屋の出入り口らしき扉に歩き出したフィアレイン様に慌てて付いていきます。どこなのか分からなくて、思わずきょろきょろと辺りを見回してしまいます。
扉を開けると、廊下。
小さな家のようです。本当に誰の家なのでしょう?
しかし、廊下の途中の部屋の中(扉が半開きでした)を見た時、なんとなくここはフィアレイン様のお家なのでは?と思い始めました。
うん…。まぁ、なんていうか…。とっても地下の部屋の状態に似ていました。
そんなことを考えていると…。
スコン!!
フィアレイン様が入って行った部屋に同じように入ろうとしたら、急に僕の左頬に痛みが走りました。
触ってみると、ぬるりとした感触。指が赤く染まります。
「…え?」
何が起こったのでしょう?じくじくと頬が痛みます。
ゆっくりと視線をあげると…。
「…やめろ。変態女」
そう言いながら、眉間に皺を寄せて、何事もなかったかのように部屋にあるソファに座るフィアレイン様と、ナイフを構え睨みつけるように僕を見る教会で会ったかわいい女の子がいました。




