にじゅうきゅう …ついてこい
小さい頃、別に仲の良くなかったクラスメイトに誕生日の招待状を貰ったことがあった。「ありがとう。楽しみ」と言ったはいいものの、プレゼントのお金を出すのに、すごく微妙な気持ちになった。仲良くないのに、なぜ誘われたのか…まったく理解できなかった。プレゼントが欲しかったのか?その会が終わった後もそれほど仲良くなった感じではなかったから、今でも理解はできない。
そんな日本での記憶をちょっと思い出してしまったのは…。
【招待状】
そう書かれたブツを!シャルドから渡されたからなんですよ。封蝋の印璽を見ながら、あの当時の微妙な気分が蘇ってくる。理解ができない!
(あれ?おかしいな。あの人は、なんでこんなものを今更よこしたんだ?え?と言うか、あの人は私の味方だと思っていたのに、気のせいだったか?!)
ここから出れば危険だと…あちらも分かっているはずなのに!どこかから私が引きこもっていることを聞いて、気になったんだろう。この招待の日までは大丈夫だろうと思って…?
だけど、甘すぎる!あの継母はそんなことを気にするような人間じゃない。ちょっとは考えてくれよ!しかも、この家にはこれがもっと以前に届いていたはずなのに、こんなにぎりぎりに私に見せてきたと言うことは、なんらかの手筈が整ったのか?外に引っ張り出すためだろう。
あぁ、だから、あの謎の人物Xは姿を現したんだろうな。宣戦布告ってやつか。
思わず、フィアレインにあるまじき表情をしてしまう。
(なんだ?!あの人は私を殺したいのか?!あれ?味方が実は敵だったのか?)
頭を抱えてしまう。視界の端でシャルドがおろおろしているのが見える。だけど、そんな事にも気が回らない。
あの人に会ったことは一度もない。だからこそ、この行動の意味が分からない。何がしたいのだろう?
「…」
…味方?
(違う…。味方じゃない)
むしろ、一番の敵と言ってもいいんじゃないか?一度も会ったことのない人間を信じるなんて、どうかしている。いや…。疑うのはだめだ。だけど、あの男は、一度たりとも私の前に姿を現さないと思っていた。なぜ今になって、こんな物を送って来た?
裏で…つながっていたり…?
あまり考えたくない話…。あの男まで私の排除に乗り出したら私の命はないだろう…。
だけど…疑うのは止めよう。信じるとすれば、あの男しかいない。
『真珠姫』が…信じた人間だ。
「あの、フィア…あの。坊っちゃん?」
をいをい。正直、気持ち悪いよ…。同じ年くらいのヤツに「坊っちゃん」って呼ばれるとか…。
「フィアレインでいい」
「で…すが…」
「気にするほどのことではない。それに、私は他人が思うよりもその名前を気に入っている」
シャルドがまだためらっている。その内、慣れるだろう。
(まぁ、気にいらなかったら嘘だよね~)
そこで、はたと考えた。待てよ。国に名付けの『申請書』は出しているんだろうか?
子どもの貴族名を付けた時、国に提出する書類がある。
(明らかに出してないよね?!)
というか、出せるわけがない…。
(喧嘩を売っているとしか思えないもんね~。馬鹿正直に出しちゃったら、正気を疑われる!!)
それで、この招待状は『レグド・ガーナード』で来た訳か。付いていないのなら名を…そう思ったんだろう。『レグド』の名を付けられた私に、それに相応しい名を…。
(どうでもいいと言えばどうでもいいか)
「シャルド」
「あ、え?は、はい!!」
(なんでそんなに慌てる?!)
「…ついてこい」
「!!はい!」
(え?なんでそんなにキラキラの笑顔?輝いてますよ…)
明らかに命令口調の地獄の大魔…私にキラキラの笑顔を見せるシャルドの後ろに何かのしっぽが見えた気がしたのは、きっと目の錯覚!気のせい!
そう思いたい…。




