表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/43

にじゅうはち  みじゅくもの? ~アランティス~

 私の名はアランティス・ティ・グランドラ。12歳だ。騎士の家に生まれて、祖父も父も国を守る立派な騎士だ。そんな私も、当然大人になれば騎士になると…何の疑いもなく、そう思っている。


 私が彼女、リューナ・アブヒラドールに出会ったのは、一年ほど前。父の御用達の店に行った時だった。




「父上。わざわざ店にまで買いに来ずとも、商人を家に呼べばいいのではないですか?」


 そう言った私に父上は、


「本当に欲しいものは自分の力で手に入れる努力をするべきだ」


 とすばらしく、もっともらしいことを言っていたが…。


 私は知っている…。


 最近、年のせいか第一線から退き、騎士たちの教官になってからというもの少し太り始めた父上。甘いもの禁止令を母上に出されて、半泣きになっていたことを。そして、こっそり視察と称しては、御用達の店で甘味を口にしていることを…。


 これは、いつか脅しのネタにしようと考えている。


 母上に弱い父上の事。いい弱みになるだろう。


「そうなのですね!さすが父上です!私も父上のようになりたいです!」


 取りあえず、子どもらしさと、煽てを前面に出しておけばいいだろう。父は脳筋のところがあるので、簡単に騙せる。


 子どもらしい笑顔でそう言った時だった。


 店の特別室のソファで待っていた私たち。だが、その部屋の扉が少し開いて、1人の少女が顔を出していた。


 あれ?今の話を聞かれていたのか?


 そう思って、ソファから立ち上がり、女の子に近付く。



「こんにちは」


 にっこりと笑顔で挨拶をする。同年代の女の子は私のこの笑顔で頬を染めるし、年上の方にも受けがいい。そう思って、その少女にも同じように笑いかける。



 どうせ、この子も他の子たちと同じだろう。


 第二王子殿下でさえ、私の張り付けた笑顔に騙されるのだ。



 まぁ、あの傲慢で無能で王太子殿下に対して劣等感の塊のような殿下が…気が付くとも思えないがな。



 そんなことを考えていた私は少女の言葉に衝撃を受けた。




「……未熟者」




 ………は?



 みじゅくもの?え?なんのことを言っているんだ?


 さっとその場を走り去る彼女を思わず追いかける。


「ちょ…!!まて!!」


 速い…!!


 私よりも年下にしか見えない少女に追いつけない!!


 ムキになって追いかけるが、差が縮まっているとは思えない。


 

 なんだ?!なんなんだ?!


 広い屋敷を逃げる彼女を追いかけて走る、走る、走る!


 息が切れる。足が重い。それでも、追いかける。



 なんで、私は彼女を追っているんだ?



 彼女が足を止めたのは、廊下の先のドアの前。



 はぁ、と息が切れる。



 彼女の息があまり切れていないことに、少しばかりショックを受ける。私は体力には自信があったんだけどな。


 彼女は眉間に少し皺を寄せて、首を傾げる。


「見つかっちゃった」


「え…?」


 意味が分からない。ようやく整い始めた呼吸。


「未熟者って、どういうことだ?」


 私の言葉に彼女は大きな瞳をじっと私に向ける。思わず、どきっとしてしまう。かわいい。


「わからないの?未熟な仮面。そんな見破られるような仮面を被ったって…見る人が見れば、偽物だってわかっちゃう。どうせだったら、仮面に見えない仮面を被るようにするべきだわ」


 その言葉にぎくりとした。彼女はどうして、彼と同じことを言うのだろう。


 確かに、両親や他の大人は騙されるこの笑顔。だけど、騙せない人間もいる。


 昔、王宮で出会った小さな男の子。それに、王太子殿下。国王陛下。それから、宰相。他にも、恐らく騙せなかった者が何人かいた。大人だった彼らは私が子どもだから、騙されてくれたのだろうけど。


 王宮で出会った男の子だけは違った。


 まだ6歳だった私は、すでに笑顔の仮面を被ることを日常にしていた。子どもらしい笑顔で無邪気に笑えば、誰もがかわいがってくれることを理解していたからだ。大人でも子どもでも。常ににこにこと愛想よくしていれば、うまく世間を渡っていける。そう思っていた。


 あの方だけは、そんな私の仮面に気が付いた。


『君の笑顔はへったくそだねぇ。どうせなら、もっと完璧にどんな人間でも騙せるくらいの仮面を被りなよ』


 まだ6歳の私よりも、更に年下だろう少年に言われた言葉に、張り付けた笑顔がはがれた。


 それから、私は、もっと完璧に仮面を被れるように、どんな言葉にもはがれない笑みを心掛けてきた。あの方も騙せるくらいの仮面を被ろうと。次に会ったとき…そうだ。次に会った時こそ、私はあの方に認めてもらうのだ。悔しかったから。小さな彼に見破られたことも、その仮面を下手くそだと、誰もを騙せるようになれと、言われたことも。それと同時に、私は気が付けば、あの方に心の中で忠誠を誓っていた。


 待っていてください!必ずや、あなたの所まで追いついて見せる!!


 だけど、やはり分かる人には分かるのだろうか?私はまだしょせん、子どもだと言うことなのだろうか?



「…やはり、私の笑顔はわざとらしいのだろうか?」


 少し落ち込んだ声が出た。


「いいえ、ほぼ完璧じゃないかしら?」


「では…どうして、君にはわかってしまったのだ?」


 そうね、と考え込む彼女。


「自分で考えてみれば?100人のうち98人騙せるなら、それで完璧じゃない?」


「…君はそれで満足するのか?」



「『さぁね』」



「『それで満足するのなら君はそれまでの人間』」



 記憶の中の彼と同じことを言う彼女に興味が沸いた。


 それからというもの彼女の近くで彼女を見ることにした。街でもなかなか見つけられないのも、ますます私を夢中にさせた。ひらりひらりと舞う彼女は、捕えられない蝶のよう。


 忠誠はあの方に。恋は彼女に。


 どうせ、私の想いなど子どものころは大人の思惑にかなわない。それならば、決して譲れぬ一線を越えられないように注意しながら、心の中では自分の想いに忠実でいよう。


 今はそれだけの自由で満足しておこう。




「やっぱり、腹黒…。どう考えても腹黒…。黒い笑み。こわっ!!」


 …この従者は…!!目の前でワザとらしく腕を擦る従者をにっこりと笑顔で見る。


「そうか、そうか。シルバはちょっとした『教育』が足りなかったようだな。執事長にはそう伝えておこう」


「ひぃ!!」


 涙目で謝罪する従者を放置して、店を出て空を見上げる。青い空が広がっている。そんな空を見ながら私は思い出していた。




 あの方の…オッドアイ・・・・・の宝石のような瞳を…。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ