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孤独死したおっさん、高校時代へタイムスリップ  作者: 雪だるま
橘彩音ルート

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 冬。


 高校三年。


 受験シーズン。


「…………」


 教室の空気はかなり静かになっていた。


 赤本。


 参考書。


 模試結果。


「はぁ……」


「眠い……」


「数学無理……」


 受験生特有の疲労感。


「…………」


 彩音も完全に受験モードだった。


 放課後は塾。


 帰宅後も勉強。


 休日も勉強。


「…………」


 そのため。


 最近。


 レイと会う時間はかなり減っていた。


 だが。


 別に関係が悪くなったわけではない。


「…………」


 むしろ。


 妙に落ち着いていた。


「のだぁ……」


 一方。


 レイは。


 相変わらず変だった。


 部屋。


 机。


 原稿。


 雑誌。


 経済誌。


 株関連の本。


「うむぅ……」


 最近のレイ。


 小さい原稿料や賞金を。


 ほとんど使っていなかった。


「のだっ♡」


 全部。


 投資。


「…………」


 もちろん。


 高校生なので金額はまだ小さい。


 だが。


 レイは真剣だった。


「うむ」


 パソコン。


 ゲーム。


 ネット。


 通信。


「のだぁ……」


 これから伸びそうな分野。


 そこを重点的に見ていた。


「うむっ♡」


 そして。


 相変わらず創作脳も止まらない。


「のだぁ……」


 机には新しいメモ。


『落ちこぼれ御曹司』


『西園寺モデル』


『復讐』


『成り上がり』


『ハーレム』


「うむ!」


 レイの目が輝く。


「今度は西園寺をモデルの主人公にして落ちこぼれた御曹司の復讐成り上がりでも書こうかななのだぁ!」


 真夜中。


 一人で盛り上がる高校生。


「うむ!」


「ハーレム要素は欠かせないのだぁ!」


「誰がハーレムだ」


「のだぁ!?」


 後ろから声。


 父親だった。


「びっくりしたのだぁ!」


「お前また変なの書いてんな」


「成り上がりなのだぁ♡」


「最近その言葉好きだな」


 だが。


 レイは本気だった。


「のだぁ……」


 最近。


 “何が読まれるか”も少しずつ考えるようになっている。


 成り上がり。


 逆転。


 ハーレム。


 御曹司。


「うむぅ……」


 しかも。


 西園寺は普通にキャラが立っている。


 口悪い。


 でも面倒見がいい。


 家の問題もある。


「のだぁ……」


 創作向き。


「…………」


 その時。


 電話が鳴った。


 プルルルル。


「のだ?」


 レイは受話器を取る。


「もしもしなのだぁ」


『……もしもし』


「のだっ♡」


 彩音だった。


 レイ、即座に顔が緩む。


「彼女なのだぁ♡」


『うるさい』


 だが。


 少し疲れた声。


「のだぁ?」


『休憩中』


「うむぅ……」


 彩音。


 最近本当に勉強漬けだ。


『英語やってた』


「のだぁ……」


『もう頭おかしくなりそう』


「頑張ってるのだぁ」


『田中君は?』


「御曹司なのだっ♡」


『は?』


 レイは原稿を見た。


「落ちこぼれ御曹司が復讐するのだぁ♡」


『また変なの考えてる』


「しかもハーレムなのだぁ♡」


『最低』


 だが。


 彩音は少し笑っていた。


「…………」


 最近。


 こういう電話が増えた。


 長時間ではない。


 十分とか。


 二十分とか。


 でも。


 妙に大事な時間だった。


「のだぁ……」


 レイは布団へ転がる。


「勉強大変なのだぁ?」


『うん』


「眠そうなのだぁ」


『ちょっと』


「のだぁ……」


 レイは少し静かになった。


「頑張りすぎるななのだぁ」


『受験生だから』


「うむぅ……」


『でも』


「?」


『田中君の声聞くとちょっと落ち着く』


「…………」


 レイ、停止。


「…………」


「のだぁぁぁぁぁ……」


『何』


「嬉しいのだぁ……」


『また感動してる』


「彼女に癒やし扱いされたのだぁ……」


『大げさ』


 だが。


 彩音も少し安心していた。


 受験。


 不安。


 プレッシャー。


「…………」


 そんな中で。


 レイと話す時間だけは。


 妙に肩の力が抜ける。


『そういえば』


「のだ?」


『雑誌また載るんでしょ?』


「うむっ♡」


『すごいね』


「のだぁ〜〜♡」


 レイは転がりながら笑う。


「吾輩、文化人ロードを進んでるのだぁ♡」


『その言い方やめて』


「だが原稿料はまだ弱いのだぁ」


『現実的』


「だから投資もするのだぁ♡」


『高校生なのに』


「未来の資産家なのだぁ♡」


『調子乗ってる』


 だが。


 彩音は思っていた。


 レイ。


 本当に変わった。


 昔より。


 ちゃんと“自分で生きよう”としている。


「…………」


『ねぇ』


「のだ?」


『怖くないの?』


「うむ?」


『普通の進学ルートじゃないじゃん』


「…………」


 レイは少し黙った。


 そして。


「怖いのだぁ」


『…………』


「普通に怖いのだぁ」


 静かな声。


「でも」


「?」


「前みたいに、何もやらず終わる方がもっと怖いのだぁ」


「…………」


 彩音は少し黙った。


 その言葉。


 レイっぽかった。


『そっか』


「うむ」


「だから吾輩、いっぱい書くのだぁ♡」


『頑張って』


「のだっ♡」


 電話越し。


 二人は少しだけ笑った。


「…………」


 受験。


 将来。


 不安。


 未来。


「…………」


 それでも。


 二人とも。


 ちゃんと前へ進んでいた。

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