42 浮かれるレイ
冬。
十二月。
「…………」
田中家。
朝。
「のだぁぁぁぁぁ♡」
レイは壊れていた。
「先生なのだぁ♡」
「うるさい」
母親が即ツッコむ。
「小規模受賞したのだぁ♡」
「知ってるわよ」
「雑誌掲載なのだぁ♡」
「昨日から十回聞いた」
だが。
レイは止まらない。
「のだぁ?ママ?」
「何」
「今日からはレイじゃなくて先生と呼びたまえぇ!」
「あーはいはい」
「あーはっはっは!!」
完全に調子に乗っていた。
「吾輩、文化人なのだぁ♡」
「昨日コンビニでアイス落として泣いてた人が?」
「芸術家なのだぁ♡」
だが。
本当に嬉しかった。
「…………」
賞。
小さい。
かなり小さい。
でも。
ちゃんと名前が載った。
しかも。
『江戸時代へタイムスリップした高校生もの』
「のだぁ……」
黒沢モデル。
勢い。
フィジカル。
青春。
「うむぅ……」
そして。
雑誌掲載まで決まった。
「のだぁぁぁ……」
レイは雑誌を抱きしめた。
「本屋に吾輩がいるのだぁ……」
前回人生。
“作品を出す側”へ行けるなんて、本気で思っていなかった。
「うむ!」
レイはめちゃくちゃ浮かれていた。
「今日は祝日なのだぁ♡」
「学校あるでしょ」
「精神が祝日なのだぁ♡」
「意味わかんない」
だが。
母親も父親も。
少し嬉しそうだった。
「…………」
最近のレイ。
本当に頑張っている。
英語。
投稿。
原稿。
勉強。
「…………」
しかも。
ちゃんと結果が出始めている。
「のだっ♡」
レイは袋を持ち上げた。
「黒沢へのお礼なのだぁ♡」
「お礼?」
「モデル料なのだぁ♡」
中身。
高めのお菓子。
「のだぁ……」
レイは真顔だった。
「黒沢が強すぎたから受賞したのだぁ」
「知らないわよ」
だが。
学校へ行く途中も。
レイはずっと浮かれていた。
「のだぁ〜〜〜♪」
冬の通学路。
機嫌が良すぎる。
「…………」
教室。
「おはよー」
「寒っ」
いつもの空気。
だが。
「のだぁぁぁぁぁ♡」
レイ登場。
妙に輝いている。
「うわ、来た」
「今日は何だ」
西園寺が即察した。
「うむ!」
レイは雑誌を机に叩きつけた。
「吾輩、受賞したのだぁ♡」
「おぉ!?」
周囲が集まる。
「マジ!?」
「載ってる!」
「田中レイって本当に書いてある!」
「のだっ♡」
レイ、ドヤ顔。
「未来の大作家なのだぁ♡」
「まだ小規模だろ」
「だが一歩なのだぁ♡」
だが。
本当に嬉しそうだった。
「…………」
その時。
黒沢が近づいてきた。
「おい」
「のだ?」
「マジで受賞したのかよ」
「うむっ♡」
レイは即座に袋を差し出した。
「モデル料なのだぁ♡」
「えっ」
「お菓子なのだぁ♡」
「何で」
「お主のおかげなのだぁ♡」
黒沢、爆笑。
「知らねぇよそんなの!」
「だがフィジカルが強かったのだぁ♡」
「だから何だよ!」
教室、大盛り上がり。
「黒沢が江戸行ったやつか」
「気になるわ」
「投石強そう」
「やめろ」
だが。
黒沢も少し嬉しそうだった。
「…………」
その時。
彩音が教室へ入ってきた。
「おはよ……って何これ」
「のだっ♡」
レイは即雑誌を見せる。
「載ったのだぁ♡」
「…………」
彩音は少し目を丸くした。
そして。
小さく笑った。
「……ほんとに載ったんだ」
「うむっ♡」
「すごいね」
「のだぁぁぁぁ……」
レイ、感動。
「彼女に褒められたのだぁぁぁ♡」
「うるさい」
だが。
彩音は本当に嬉しかった。
「…………」
ずっと見ていたから。
レイが。
毎日。
書いて。
落ちて。
また書いて。
「…………」
だから。
この結果は。
普通に嬉しい。
「のだぁ……」
レイは雑誌を見ながら呟いた。
「吾輩、本当に少しだけ創作者っぽくなってきたのだぁ……」
「うん」
「まだ全然小さいけど」
「うん」
「でも」
レイは笑った。
「前の人生より、ちゃんと前進してる気がするのだぁ♡」
「…………」
彩音も笑った。
「最近、ほんと楽しそう」
「うむっ♡」
レイは即答した。
「人生、今かなり好きなのだぁ♡」
窓の外。
冬空。
受験生たちの空気。
将来への不安。
「…………」
でも。
レイの中には。
ちゃんと。
“自分で進んでる感覚”があった。
「のだっ♡」
その日。
レイは授業中まで妙に偉そうだった。
「先生、ここわからないのだぁ♡」
「お前が聞く側かよ!」
教室は笑い声でいっぱいだった。




