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孤独死したおっさん、高校時代へタイムスリップ  作者: 雪だるま
橘彩音ルート

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 秋。


 高校三年。


 十月。


「…………」


 空気が変わっていた。


 教室。


 放課後。


 以前より静か。


「模試どうだった?」


「終わった……」


「推薦どうする?」


 受験。


 進路。


 願書。


 高校三年の秋独特の空気。


「…………」


 彩音も忙しかった。


 問題集。


 赤本。


 塾。


 睡眠不足。


「はぁ……」


 それでも。


 ちゃんと前へ進んでいる。


「…………」


 一方。


 レイは。


「のだぁ……」


 相変わらず原稿を書いていた。


 投稿。


 落選。


 修正。


 投稿。


「…………」


 だが。


 以前と違うことが一つある。


「うむぅ……」


 “完成”させる力がついてきていた。


 前は途中で飽きた。


 でも今は。


 最後まで書く。


「…………」


 しかも。


 量を書いたおかげで。


 少しずつ。


 “自分の型”も見えてきた。


『勢い』


『キャラ』


『妙な熱量』


『生活感』


『ギャグ』


「のだぁ……」


 そして。


 その中でも。


 妙に筆が乗った作品があった。


『黒沢をモデルにした江戸時代タイムスリップもの』


「うむっ♡」


 高身長。


 運動神経。


 現代感覚。


 江戸時代。


 町人。


 剣術。


 投石。


「のだぁ……」


 書いていて。


 普通に楽しかった。


 だから。


 かなり気合いを入れてしまった。


「…………」


 そして。


 数ヶ月後。


 レイは郵便受けの前で固まっていた。


「…………」


 封筒。


 大きい。


「…………」


 レイの手が震える。


「のだぁ……?」


 出版社名。


「…………」


 開封。


「…………」


 数秒。


「…………」


 沈黙。


「…………」


「のだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」


 田中家に絶叫が響いた。


「何!?!?」


 母親が飛び出してくる。


「事件!?」


「引っかかったのだぁぁぁぁぁ!!!」


「えっ」


 レイ、号泣。


「うぇえええええん!!!」


「ちょ、ちょっと何!?」


 父親まで来た。


「どうした!?」


「賞の一次通過なのだぁぁぁぁぁ!!!」


「おぉ!?」


 家族、騒然。


「黒沢が江戸時代で暴れてるやつなのだぁぁぁ!!!」


「何その内容」


 だが。


 レイは泣いていた。


 本気で。


「のだぁぁぁぁ……」


 前回人生。


 “自分の作品”が。


 何かに認められることなんてなかった。


「…………」


 しかも。


 一次通過とはいえ。


 大量の応募の中から残った。


「うぇええええん!!」


「泣きすぎよ!」


「だって嬉しいのだぁぁぁ!!」


 その夜。


 レイは即座に彩音へ電話した。


「もしもし?」


『もしもし?』


「のだぁぁぁぁぁ!!!」


『えっ!?』


 彩音、即座に耳を離す。


『どうしたの!?』


「通ったのだぁぁぁぁぁ!!!」


『え?』


「小説賞なのだぁぁぁぁぁ!!!」


『…………』


 数秒。


『……えっ、本当に!?』


「うむぅぅぅぅ!!!」


 レイは号泣しながら喋っていた。


「江戸時代なのだぁぁぁ!!」


『そこ!?』


「黒沢が暴れてるのだぁぁぁ!!」


『何その説明!』


 だが。


 彩音は本当に驚いていた。


「…………」


 最近。


 レイはずっと書いていた。


 周囲が受験モードでも。


 ずっと。


「…………」


 そして。


 ちゃんと結果が出始めた。


『……すごいじゃん』


「のだぁぁぁぁ……」


『おめでとう』


「うぇええええん!!」


『だから泣きすぎ!』


 電話越しに。


 彩音は少し笑っていた。


 でも。


 胸が温かかった。


「…………」


 レイは。


 本当に。


 ちゃんと進んでいる。


「のだぁ……」


 その後。


 学校。


 昼休み。


「おい田中!」


「のだ?」


 西園寺が机を叩いた。


「マジで通ったの!?」


「うむっ♡」


「すげぇじゃん!」


「一次なのだぁ♡」


「いや十分すごいだろ!」


 周囲もざわついていた。


「田中が!?」


「作家っぽくなってきた!」


「黒沢江戸時代って何!?」


「うむ!」


 レイは胸を張る。


「フィジカルで無双するのだぁ♡」


「脳筋すぎる」


 その時。


 黒沢本人が来た。


「お前さぁ」


「のだ?」


「俺を江戸送りにするのやめろよ」


「だが強いのだぁ」


「知らねぇよ!」


 教室、大爆笑。


 だが。


 黒沢も少し嬉しそうだった。


「…………」


 レイはそんな空気の中。


 少しだけ静かになった。


「のだぁ……」


 受験。


 進路。


 将来。


 周囲は不安そうだ。


 自分も。


 もちろん怖い。


「…………」


 でも。


 初めて。


 “自分の道”が少しだけ見えた気がした。


「のだっ♡」


 その時。


 彩音が隣へ座る。


「おめでと」


「うむっ♡」


「頑張ったね」


「のだぁ……」


 レイは少し照れくさそうだった。


「いっぱい書いたのだぁ」


「知ってる」


「落ちまくったのだぁ」


「知ってる」


「でも」


 レイは笑った。


「やっと少し、前に進めた気がするのだぁ♡」


「…………」


 彩音も笑った。


「うん」


 窓の外。


 秋空。


 受験生たちのざわめき。


「…………」


 高校生活の終わりが近づいている。


 でも。


 レイはもう。


 前みたいに。


 “何者にもなれないまま終わる”とは思っていなかった。

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