41
秋。
高校三年。
十月。
「…………」
空気が変わっていた。
教室。
放課後。
以前より静か。
「模試どうだった?」
「終わった……」
「推薦どうする?」
受験。
進路。
願書。
高校三年の秋独特の空気。
「…………」
彩音も忙しかった。
問題集。
赤本。
塾。
睡眠不足。
「はぁ……」
それでも。
ちゃんと前へ進んでいる。
「…………」
一方。
レイは。
「のだぁ……」
相変わらず原稿を書いていた。
投稿。
落選。
修正。
投稿。
「…………」
だが。
以前と違うことが一つある。
「うむぅ……」
“完成”させる力がついてきていた。
前は途中で飽きた。
でも今は。
最後まで書く。
「…………」
しかも。
量を書いたおかげで。
少しずつ。
“自分の型”も見えてきた。
『勢い』
『キャラ』
『妙な熱量』
『生活感』
『ギャグ』
「のだぁ……」
そして。
その中でも。
妙に筆が乗った作品があった。
『黒沢をモデルにした江戸時代タイムスリップもの』
「うむっ♡」
高身長。
運動神経。
現代感覚。
江戸時代。
町人。
剣術。
投石。
「のだぁ……」
書いていて。
普通に楽しかった。
だから。
かなり気合いを入れてしまった。
「…………」
そして。
数ヶ月後。
レイは郵便受けの前で固まっていた。
「…………」
封筒。
大きい。
「…………」
レイの手が震える。
「のだぁ……?」
出版社名。
「…………」
開封。
「…………」
数秒。
「…………」
沈黙。
「…………」
「のだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
田中家に絶叫が響いた。
「何!?!?」
母親が飛び出してくる。
「事件!?」
「引っかかったのだぁぁぁぁぁ!!!」
「えっ」
レイ、号泣。
「うぇえええええん!!!」
「ちょ、ちょっと何!?」
父親まで来た。
「どうした!?」
「賞の一次通過なのだぁぁぁぁぁ!!!」
「おぉ!?」
家族、騒然。
「黒沢が江戸時代で暴れてるやつなのだぁぁぁ!!!」
「何その内容」
だが。
レイは泣いていた。
本気で。
「のだぁぁぁぁ……」
前回人生。
“自分の作品”が。
何かに認められることなんてなかった。
「…………」
しかも。
一次通過とはいえ。
大量の応募の中から残った。
「うぇええええん!!」
「泣きすぎよ!」
「だって嬉しいのだぁぁぁ!!」
その夜。
レイは即座に彩音へ電話した。
「もしもし?」
『もしもし?』
「のだぁぁぁぁぁ!!!」
『えっ!?』
彩音、即座に耳を離す。
『どうしたの!?』
「通ったのだぁぁぁぁぁ!!!」
『え?』
「小説賞なのだぁぁぁぁぁ!!!」
『…………』
数秒。
『……えっ、本当に!?』
「うむぅぅぅぅ!!!」
レイは号泣しながら喋っていた。
「江戸時代なのだぁぁぁ!!」
『そこ!?』
「黒沢が暴れてるのだぁぁぁ!!」
『何その説明!』
だが。
彩音は本当に驚いていた。
「…………」
最近。
レイはずっと書いていた。
周囲が受験モードでも。
ずっと。
「…………」
そして。
ちゃんと結果が出始めた。
『……すごいじゃん』
「のだぁぁぁぁ……」
『おめでとう』
「うぇええええん!!」
『だから泣きすぎ!』
電話越しに。
彩音は少し笑っていた。
でも。
胸が温かかった。
「…………」
レイは。
本当に。
ちゃんと進んでいる。
「のだぁ……」
その後。
学校。
昼休み。
「おい田中!」
「のだ?」
西園寺が机を叩いた。
「マジで通ったの!?」
「うむっ♡」
「すげぇじゃん!」
「一次なのだぁ♡」
「いや十分すごいだろ!」
周囲もざわついていた。
「田中が!?」
「作家っぽくなってきた!」
「黒沢江戸時代って何!?」
「うむ!」
レイは胸を張る。
「フィジカルで無双するのだぁ♡」
「脳筋すぎる」
その時。
黒沢本人が来た。
「お前さぁ」
「のだ?」
「俺を江戸送りにするのやめろよ」
「だが強いのだぁ」
「知らねぇよ!」
教室、大爆笑。
だが。
黒沢も少し嬉しそうだった。
「…………」
レイはそんな空気の中。
少しだけ静かになった。
「のだぁ……」
受験。
進路。
将来。
周囲は不安そうだ。
自分も。
もちろん怖い。
「…………」
でも。
初めて。
“自分の道”が少しだけ見えた気がした。
「のだっ♡」
その時。
彩音が隣へ座る。
「おめでと」
「うむっ♡」
「頑張ったね」
「のだぁ……」
レイは少し照れくさそうだった。
「いっぱい書いたのだぁ」
「知ってる」
「落ちまくったのだぁ」
「知ってる」
「でも」
レイは笑った。
「やっと少し、前に進めた気がするのだぁ♡」
「…………」
彩音も笑った。
「うん」
窓の外。
秋空。
受験生たちのざわめき。
「…………」
高校生活の終わりが近づいている。
でも。
レイはもう。
前みたいに。
“何者にもなれないまま終わる”とは思っていなかった。




