32
翌日。
朝。
教室。
冬の光が窓から差し込んでいた。
「寒ぃ〜〜〜」
「ストーブまだ!?」
「購買行く奴いる?」
いつもの騒がしい空気。
「のだっ♡」
レイは妙に落ち着いていた。
昨日。
かなり幸せだった。
彼女。
プレゼント。
家族。
原稿料。
「のだぁ……」
前回人生。
自分は。
“失ってから大事さに気づく”ことが多すぎた。
「うむ……」
だから。
今回は違う。
「…………」
その時。
教室後方。
「はぁ?」
西園寺誠が友人たちと話していた。
「親父さぁ、最近また変な投資話乗り気なんだよ」
「投資?」
「知り合いに絶対儲かるとか言われたらしくて」
「うわ、怪しい」
「だろ?」
レイの動きが止まった。
「…………」
前回人生。
覚えている。
西園寺の家。
かなり揉めていた。
父親の事業失敗。
借金。
家庭崩壊寸前。
「…………」
当時のレイは。
遠くから見ていただけだった。
でも。
今回は。
「のだぁ……」
レイは少し考えた。
未来を全部話すのは無理。
タイムスリップの説明なんてもっと無理。
だが。
“それとなく”なら。
「うむ」
レイは立ち上がった。
「西園寺ぃ」
「ん?」
「ジュース飲むのだぁ?」
「急だな」
「おごりなのだっ♡」
「珍し」
数分後。
自販機前。
「で?」
西園寺が缶コーヒーを開ける。
「何の話だよ」
「のだぁ……」
レイは少し真面目だった。
「お主のパパぁ」
「は?」
「投資話とか、気をつけた方がいいのだぁ」
「…………」
西園寺が少し止まる。
「何で知ってんの?」
「なんとなくなのだぁ」
「怪しい」
だが。
レイは本気だった。
「のだぁ……」
未来を知っていると。
“あの時止められたかもしれない”が増える。
「うむ」
レイは静かに言った。
「絶対儲かる話って、大体怖いのだぁ」
「まあそれはそうだけど」
「あと」
「?」
「知り合い経由ほど危ないのだぁ」
「…………」
西園寺は少し真顔になった。
「……何かあった?」
「のだぁ?」
「お前、時々変に現実的なこと言うじゃん」
「うむぅ……」
レイは空を見た。
白い息。
「吾輩、色んな失敗見てきた気がするのだぁ」
「何そのジジイみたいな台詞」
だが。
西園寺はちゃんと聞いていた。
最近のレイ。
変。
でも。
時々妙に鋭い。
「のだぁ……」
レイは続けた。
「家族の空気悪くなるの、結構きついのだぁ」
「…………」
西園寺の表情が少し変わる。
図星だった。
最近。
家の空気が少し重い。
父親、イライラ。
母親、不安そう。
「…………」
「だから」
レイはジュースを飲みながら言った。
「お主、ちょっとだけでも止めた方がいいのだぁ」
「俺が?」
「うむ」
「無理だろ」
「でも」
レイは笑った。
「子供の一言って、意外と残るのだぁ」
「…………」
西園寺は少し黙った。
「……お前さ」
「のだ?」
「最近ほんと変わったよな」
「うむっ♡」
「前はこんなこと言う奴じゃなかった」
「青春なのだぁ♡」
「便利ワードすぎる」
だが。
レイは少し真面目だった。
「のだぁ……」
前回人生。
自分は。
誰かに何か言える人間じゃなかった。
でも。
今は違う。
間違ってるかもしれない。
余計なお世話かもしれない。
それでも。
言わないよりはいい。
「…………」
西園寺は缶コーヒーを見つめていた。
「……親父さ」
「うむ?」
「最近、やたら“今動かなきゃ一生負け組”とか言ってんだよ」
「のだぁ……」
レイは少し眉をひそめた。
焦り。
バブル崩壊後。
不安。
時代の空気。
「…………」
前回人生でも。
あの頃、大人たちはどこか焦っていた。
「うむ」
レイは静かに言った。
「焦ってる時の人間って、変な話に飛びつきやすいのだぁ」
「…………」
「だから、お主だけでも冷静でいるのだぁ」
「…………」
西園寺は少し笑った。
「お前、ほんと高校生っぽくねぇな」
「のだっ♡」
「でもまあ」
西園寺は小さく頷いた。
「……ちょっと言ってみる」
「うむ!」
レイは嬉しそうだった。
「家族は大事なのだぁ♡」
「急に真面目かよ」
「吾輩、最近わかってきたのだぁ」
「何を」
「帰る場所あるの、めちゃくちゃありがたいのだぁ」
「…………」
西園寺は少し黙った。
そして。
笑った。
「ほんと変な奴」
「のだっ♡」
教室へ戻る途中。
レイは少し空を見た。
「のだぁ……」
未来は全部変えられないかもしれない。
でも。
少しでも。
後悔を減らせるなら。
「うむっ♡」
レイは小さく笑った。
今度の人生は。
逃げるだけじゃ終わりたくなかった。




