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夜。
イルミネーションが街を照らしていた。
吐く息は白い。
「じゃあ、私こっちだから」
駅前。
人通り。
クリスマス前の空気。
「のだぁ!」
レイが慌てて追いかける。
「彩音ぇ!待つのだぁ!」
「何?」
彩音が振り向く。
マフラー。
白い頬。
少し冷たい風。
「…………」
レイは数秒真顔だった。
そして。
「のだっ♡」
急に。
彩音の肩を軽く引いた。
「えっ」
そのまま。
チュッ。
「…………」
キス。
駅前。
冬の夜。
「…………」
数秒。
「のだっ♡」
レイは満足そうだった。
「クリスマスパワーなのだぁ♡」
「…………」
彩音は少し瞬きした。
前なら。
真っ赤になってパニックだった。
でも。
最近。
妙に慣れてきてしまった。
「…………」
レイはこういうことを割と自然にする。
しかも。
嬉しそう。
「のだっ♡」
レイは完全にご機嫌だった。
「彼女可愛いのだぁ♡」
「うるさい」
だが。
彩音は少し笑って。
「…………」
自分から。
レイの制服を軽く掴んだ。
「のだ?」
「…………」
そして。
チュッ。
「…………」
今度は彩音から。
「…………」
レイ、停止。
「…………」
「…………」
「の」
「?」
「のだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
「うるさい!!」
駅前で絶叫。
カップルたちまで振り向く。
「キス返されたのだぁぁぁぁぁ♡」
「恥ずかしいから静かにして!!」
だが。
レイは完全に壊れていた。
「人生最高なのだぁぁぁ!!」
「大げさ!!」
「愛なのだぁぁぁ!!」
彩音は笑っていた。
少し呆れながら。
でも。
嬉しそうに。
「…………」
その後。
二人は駅で別れた。
「じゃあまたね」
「のだっ♡」
「風邪引かないでね」
「うむ!」
「あと原稿頑張って」
「お主のために売れるのだぁ♡」
「知らないよ」
彩音は笑いながら手を振った。
「…………」
レイはその背中を見送る。
胸が温かい。
「のだぁ……」
前回人生。
こんな帰り道。
一回もなかった。
「うむっ♡」
そして。
レイは家へ帰った。
田中家。
玄関。
「ただいまなのだぁ♡」
「おかえりー」
母親の声。
「なんか機嫌いいわね」
「彼女とデートだったのだぁ♡」
「毎回言うわねそれ」
だが。
レイは今日はさらにテンションが高かった。
「うむ!」
袋を掲げる。
「プレゼントなのだぁ♡」
「えっ」
母親が止まる。
父親も新聞から顔を上げた。
「…………」
「…………」
「クリスマスなのだぁ♡」
レイは少し照れくさそうだった。
「いつもありがとうなのだぁ」
「…………」
母親が固まる。
父親も固まる。
なぜなら。
田中レイ。
昔はこういうことを全然言わなかった。
「のだっ♡」
レイはマフラーを差し出した。
「パパ、寒そうだからなのだぁ♡」
「…………」
父親は少し驚いた顔で受け取った。
「……ありがとう」
「うむっ♡」
「なんか急に大人になったな」
「人生経験豊富なのだぁ♡」
「高校生だろ」
母親は袋を開けた。
「……エプロン?」
「のだっ♡」
「可愛いのだぁ♡」
母親は少し笑った。
「……ありがと」
「うむ!」
レイは妙に嬉しそうだった。
「…………」
その時。
父親がぼそっと言った。
「バイト代?」
「原稿料なのだぁ♡」
「えっ」
母親が驚く。
「もう貰ったの!?」
「うむっ♡」
レイはドヤ顔だった。
「未来の大作家なのだぁ♡」
「調子乗ってるわねぇ」
だが。
両親は普通に嬉しそうだった。
「…………」
レイはそれを見ながら。
少しだけ黙った。
「のだぁ……」
前回人生。
こういうこと。
ほとんどしなかった。
感謝とか。
照れくさくて。
後回しにして。
結局。
ちゃんと伝えなかった。
「…………」
だが。
今は違う。
「うむっ♡」
レイは笑った。
「吾輩、今かなり良い人生なのだぁ♡」
母親は少し笑った。
「変な子」
「のだっ♡」
父親はマフラーを見ながら言った。
「でも、ありがとな」
「うむ!」
冬の夜。
暖房の効いた居間。
テレビの音。
家族。
「…………」
レイは静かに思った。
幸せって。
案外。
こういう部屋の中にずっとあったのかもしれなかった。




