30 両親へのプレゼント
十二月。
夕方。
街は完全にクリスマスだった。
イルミネーション。
赤と緑。
ケーキ屋の行列。
カップル。
クリスマスソング。
「のだぁ……」
レイは人混みの中で妙に感動していた。
「都会、光りすぎなのだぁ……」
「田舎のおじいちゃんみたい」
橘彩音が笑う。
今日は私服だった。
白いコート。
マフラー。
冬らしい格好。
可愛い。
めちゃくちゃ可愛い。
「メリークリスマスなのだぁ♡」
「まだクリスマス前だけどね」
「気分なのだっ♡」
だが。
今日のレイはいつも以上に機嫌が良かった。
「うむ!」
なぜなら。
ついに。
「原稿料もらえたのだぁぁぁぁ♡」
「ほんと嬉しそう」
レイは封筒を抱えていた。
雑誌投稿。
小コラム。
ゲーム誌の読者コーナー。
小さい掲載。
小さい金額。
でも。
人生初の“文章で稼いだ金”。
「のだぁ……」
レイは本当に嬉しかった。
前回人生。
何かを“作ってお金を貰う”ことに、ずっと憧れていた。
でも。
怖くて本気でやらなかった。
「うむぅ……」
だから。
数千円程度でも。
めちゃくちゃ嬉しい。
「おめでと」
「のだっ♡」
彩音が少し笑った。
「最近ほんと頑張ってるよね」
「うむ!」
レイは胸を張る。
「量を書きまくってるのだぁ♡」
「授業中もネタ帳開いてるけど」
「創作魂なのだぁ♡」
「教師に怒られてたじゃん」
「芸術家は孤独なのだぁ……」
「クラスに友達いるでしょ」
だが。
レイは今日は本当に浮かれていた。
「のだぁ♡」
その時。
レイはデパートのショーウィンドウを見た。
「…………」
ネクタイ。
マフラー。
財布。
食器。
「のだぁ……」
真顔になる。
「どうしたの?」
「吾輩、ママとパパにプレゼント買うのだぁ」
「…………」
彩音は少し目を丸くした。
「え、偉い」
「のだっ♡」
「何買うの?」
「のだぁ?」
レイ、停止。
「…………」
「…………」
「何買えばいいのだぁ?」
彩音、吹き出す。
「ノープラン!?」
「うむっ♡」
「勢いだけで来たの!?」
「愛はあるのだぁ♡」
「雑!!」
だが。
レイは本気で悩んでいた。
「のだぁ……」
前回人生。
親にプレゼントなんて、ほぼ買っていない。
照れ臭かった。
面倒だった。
でも。
タイムスリップしてから。
母親のご飯。
父親の何気ない言葉。
全部。
妙に沁みるのだ。
「うむ……」
レイは真剣にショーケースを見つめる。
「ママぁ……」
「うん」
「なんかエプロンとか好きそうなのだぁ」
「いいんじゃない?」
「あとパパぁ……」
「うん」
「…………」
「…………」
「わからないのだぁ」
「お父さんかわいそう」
彩音は笑っていた。
だが。
レイはかなり真面目だった。
「男の人って何あげれば喜ぶのだぁ?」
「お酒とか?」
「のだぁ……」
「あと仕事で使うものとか」
「うむぅ……」
レイは考え込む。
そして。
「マフラーなのだぁ!」
「おぉ」
「冬だし暖かいのだぁ♡」
「いいと思う」
「うむ!」
レイは急に元気になった。
「買うのだぁ♡」
そして。
二人で店を回り始めた。
「これどうなのだぁ?」
「派手すぎ」
「のだぁ」
「これは?」
「お父さんには若すぎる」
「難しいのだぁ……」
「ちゃんと考えてるの偉いけどね」
彩音は笑っていた。
「…………」
レイはふと彩音を見た。
「のだぁ」
「何?」
「お主、将来良い奥さんになりそうなのだぁ♡」
「っ……!」
彩音、真っ赤。
「急に何!?」
「一緒に買い物してくれるの優しいのだぁ♡」
「そ、それくらい普通でしょ」
「普通が一番すごいのだぁ」
「また変なこと言ってる」
だが。
彩音は少し嬉しそうだった。
「…………」
そして。
レイは突然立ち止まった。
「のだぁ?」
「どうしたの?」
「彩音へのプレゼントも必要なのだぁ」
「えっ」
彩音が固まる。
「い、いいよ別に!」
「駄目なのだぁ!」
レイは真顔だった。
「彼女なのだぁ♡」
「うぅ……」
「クリスマスなのだぁ♡」
「…………」
彩音は顔を逸らした。
耳まで赤い。
「……高いのはいらないからね」
「のだっ♡」
レイはニコニコしていた。
「うむ!」
そして。
アクセサリー売り場を見る。
「…………」
「…………」
「のだぁ……」
「何」
「高いのだぁ……」
「高校生だからね」
レイは真剣だった。
「もっと売れっ子にならなきゃなのだぁ……」
「そんな焦らなくていいって」
「だが吾輩、稼ぐのだぁ」
「…………」
彩音は少しだけレイを見た。
本当に。
最近のレイは変わった。
前向きで。
いっぱい動いて。
いっぱい笑う。
「…………」
その時。
レイは小さなヘアピンを見つけた。
シンプル。
可愛い。
「のだぁ♡」
「?」
「これ、お主に似合いそうなのだぁ♡」
「…………」
彩音は少し固まった。
「…………」
レイは本当に嬉しそうだった。
親へのプレゼント。
彼女との買い物。
初めての原稿料。
「のだぁ……」
前回人生では。
想像もしなかった冬だった。
「うむっ♡」
レイは笑った。
「今年のクリスマス、人生でかなり好きなのだぁ♡」




