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昼休み。
冬。
教室のストーブがゴォゴォ鳴っていた。
「暑っ」
「窓開けろー!」
「寒いわ!」
いつもの騒がしい空気。
「のだっ♡」
その窓際。
レイと橘彩音は並んで昼食を食べていた。
最近は完全に定位置である。
「…………」
レイの弁当。
茶色かった。
圧倒的茶色。
肉。
肉。
ウインナー。
唐揚げ。
生姜焼き。
「のだぁ……」
レイはしみじみしていた。
「ママ、肉への信頼が厚いのだぁ……」
「ほんと茶色いね」
彩音が笑う。
「男子高校生だからなのだっ♡」
「野菜食べなよ」
「昨日キャベツ食べたのだぁ」
「少な」
だが。
レイは幸せそうに食べていた。
「うむぅ♡」
前回人生。
コンビニ飯ばかりだった時期が長い。
だから。
母親の弁当。
妙に沁みる。
「…………」
そして。
彩音の弁当は相変わらず綺麗だった。
彩り。
栄養。
整った配置。
「のだぁ……」
レイはじっと見ていた。
「何」
「良い奥さん弁当なのだぁ」
「やめて」
「絶対健康なのだぁ」
「知らないよ」
彩音は少し笑った。
「のだっ♡」
レイは唐揚げを食べながら満足そうだった。
「うむ」
その時。
ふと。
レイが聞いた。
「彩音ぉ」
「ん?」
「お主、将来何したいのだぁ?」
「…………」
彩音が少し止まる。
「急だね」
「夢トークなのだっ♡」
「何それ」
「青春イベントなのだぁ♡」
周囲の女子たちがニヤニヤしていた。
「また始まった」
「こいつらほんと平和」
だが。
彩音は少し考えた。
「…………」
「うーん」
「のだ?」
「まだちゃんとは決まってないけど」
「うむうむ」
「人の役に立つ仕事がいいかな」
「のだぁ」
「先生とか」
「うむ!」
「あと子供関係とか」
「…………」
レイは少し黙った。
そして。
「向いてるのだぁ」
「え?」
「お主、優しいのだぁ♡」
「…………」
彩音は少し照れた。
「別に普通だよ」
「普通に優しいのが一番難しいのだぁ」
「またおじさんみたいなこと言ってる」
だが。
レイは本気だった。
「うむ!」
「絶対、生徒とか懐くのだぁ♡」
「そうかなぁ」
「うむっ♡」
レイはニコニコしていた。
「…………」
彩音は少しだけ嬉しそうだった。
「じゃあ田中君は?」
「のだ?」
「将来の夢」
「うむ!」
レイは胸を張った。
「吾輩は将来、お主から布団全部奪うのが夢なのだっ!」
「ぶっ!!」
西園寺が吹き出した。
「何だその夢!?」
「夫婦生活なのだぁ♡」
「昼休みに言うな!!」
教室、大爆笑。
彩音は顔真っ赤だった。
「ちょっと!!」
「のだっ♡」
レイは真顔だった。
「冬、絶対布団争奪戦になるのだぁ♡」
「知らないよ!!」
「吾輩、寝相悪いのだぁ♡」
「最悪!!」
男子たちは腹抱えて笑っていた。
「リアルすぎる!」
「高校生の会話じゃねぇ!」
「もう結婚後の話してる!」
だが。
レイは止まらない。
「あと、お主が“寒い……”って吾輩にくっついてくるのだぁ♡」
「言わない!!」
「言うのだぁ♡」
「言わないってば!!」
彩音はもう完全に真っ赤だった。
だが。
笑ってしまっている。
「…………」
レイはそんな彩音を見ながら。
少しだけ静かになった。
「のだぁ……」
前回人生。
こういう未来。
想像したことはあった。
でも。
途中から諦めた。
どうせ自分には無理だと。
「…………」
だが。
今は違う。
隣に彩音がいる。
一緒に笑っている。
「うむっ♡」
レイは少し笑った。
「あと」
「?」
「お主とスーパー行くのだぁ♡」
「スーパー?」
「半額シール待機なのだぁ♡」
「急に生活感」
「夜にアイス買うのだぁ♡」
「太るよ?」
「一緒に太るのだぁ♡」
「嫌だよ」
だが。
彩音は笑っていた。
その光景を見ながら。
西園寺が呆れたように言った。
「お前ら、将来普通に結婚してそうだな」
「のだっ♡」
「うるさい!」
彩音は即座に否定した。
だが。
顔が赤い。
「…………」
レイは弁当を食べながら思った。
夢って。
昔は。
もっと派手なものだと思っていた。
大成功。
大金持ち。
特別な人生。
「…………」
でも。
今は。
冬の布団争奪戦とか。
スーパーとか。
そういう未来が。
妙に欲しかった。
「のだっ♡」
レイは笑った。
「吾輩、今の夢かなり好きなのだぁ♡」




