25
翌日。
教室。
朝。
「…………」
レイは燃えていた。
「のだぁ……!」
机の上。
ノート。
メモ。
大量の走り書き。
『雑誌投稿』
『小コラム』
『サブカル誌』
『ゲーム誌』
『ミニ連載』
『ライトノベル』
「うむ……」
レイは真顔だった。
前回人生。
“いつかやる”で終わったことが多すぎた。
だから今回は違う。
「思いついた瞬間に動くのだぁ!」
そして。
一九九二年。
まだ紙媒体が強い。
雑誌文化全盛期。
ゲーム誌。
サブカル誌。
投稿コーナー。
読者投稿。
変な小ネタ。
「のだぁ……」
しかも。
レイは知っている。
未来。
オタク文化。
ネット文化。
変な雑学。
全部巨大化する。
「うむ!」
レイは猛烈な勢いで書いていた。
『海外の変な祭り』
『奇妙な食文化』
『ゲームあるある』
『成金ギャグ』
『ポンコツ悪役主人公』
「のだっ♡」
かなり楽しい。
しかも。
意外と筆が進む。
「…………」
前回人生。
レイはネット掲示板や動画コメントで、無駄に文章を書きまくっていた。
つまり。
文章慣れだけはある。
「うむうむ!」
その時。
「田中君」
「のだ?」
橘彩音だった。
「…………」
レイの顔が即座に緩む。
「彼女なのだぁ♡」
「声に出てる」
「のだっ♡」
だが。
彩音は机を見て眉をひそめた。
「……何これ」
「未来なのだぁ♡」
「は?」
「吾輩、作家になるかもしれないのだぁ♡」
「えっ」
周囲までざわつく。
「田中が?」
「意外」
「絶対変なの書くだろ」
「うむ!」
レイはドヤ顔だった。
「馬鹿主人公いっぱい書くのだぁ♡」
「自伝?」
「違うのだぁ!!」
教室が笑いに包まれる。
だが。
彩音は少し複雑そうだった。
「…………」
レイは最近。
何かを始めようとしている。
それはわかる。
でも。
「…………」
なんか。
急に忙しそうなのだ。
「のだぁ〜♪」
レイはもう次のネタを書いていた。
「追放された悪役がぁ〜♡」
「田中君」
「のだ?」
「私いるんだけど」
「のだっ♡」
レイは即座に彩音を見た。
「可愛いのだぁ♡」
「そうじゃなくて」
「うむ?」
「さっきから全然こっち見てない」
「…………」
レイ、停止。
「…………」
彩音はちょっと頬を膨らませていた。
「…………」
レイの脳が理解する。
「のだぁ……」
彼女が。
嫉妬している。
「のだぁぁぁぁぁ♡」
レイ、感動。
「可愛いのだぁぁぁぁ♡」
「うるさい!」
だが。
彩音は本当にちょっと不満だった。
付き合ったばかりなのに。
レイが急に“未来のために頑張るモード”へ入っている。
「のだっ♡」
レイはニコニコしていた。
「橘ぃ」
「何」
「嫉妬なのだぁ?」
「違う!」
「可愛いのだぁ♡」
「だから違うって!」
周囲の女子たちがニヤニヤしていた。
「橘めっちゃ彼女じゃん」
「田中君最近ほんと彼氏面強い」
「のだっ♡」
レイは誇らしげだった。
だが。
次の瞬間。
「…………」
彩音が。
スッとレイのノートを閉じた。
「のだぁ!?」
「休憩」
「えぇぇぇ!?」
「今は私と喋って」
「のだぁ……」
レイ、動揺。
だが。
内心めちゃくちゃ嬉しい。
「のだぁぁぁぁ♡」
「何その顔」
「愛されてるのだぁ♡」
「重い!」
だが。
彩音は少し笑っていた。
その時。
西園寺が後ろから呆れ顔で言った。
「お前ら朝からイチャつきすぎだろ」
「青春なのだっ♡」
「便利ワードすぎる」
レイはノートを抱えた。
「だが吾輩、稼ぐのだぁ!」
「急に真面目」
「橘と結婚するのだぁ♡」
「早ぇよ!!」
教室、大爆笑。
彩音は真っ赤だった。
「ちょっと!!」
「のだっ♡」
レイは真顔だった。
「吾輩、前回人生の反省をしてるのだぁ」
「前回人生設定まだ続いてたんだ」
「うむ!」
だが。
レイは本気だった。
五十歳まで生きて。
わかった。
幸せって。
“いつか”じゃ遅い時がある。
「のだぁ……」
その時。
彩音がぼそっと言った。
「……でも」
「のだ?」
「無理しすぎないでね」
「…………」
レイは少し止まった。
「最近、急に全部頑張ろうとしてる感じするから」
「…………」
レイは静かに彩音を見た。
「のだぁ……」
前回人生。
頑張らなかった。
逃げた。
でも。
今度は逆に焦っている。
全部取り戻そうとしている。
「…………」
彩音は小さく笑った。
「ちゃんと休憩しなよ」
「…………」
レイは数秒黙って。
そして。
「のだっ♡」
彩音に抱きついた。
「うわっ!?」
「癒やしなのだぁぁぁ♡」
「教室!!」
男子たち大爆笑。
「また始まった!」
「こいつらほんと!」
だが。
レイは幸せそうだった。
夢。
青春。
恋愛。
未来。
全部。
今度はちゃんと掴みたかった。




