24
その晩。
田中家。
深夜。
「…………」
レイの部屋だけ明かりがついていた。
「のだぁ……」
机。
ノート。
シャーペン。
そして。
放心状態のレイ。
「…………」
今日。
彼女ができた。
橘彩音。
クラスのマドンナ。
高校時代に遠くから見て終わったはずの相手。
それが。
今。
彼女。
「のだぁぁぁぁぁ……」
レイ、机に突っ伏す。
「彼女なのだぁぁぁぁぁ♡」
数秒後。
ガバッ!!
「いや浮かれてる場合じゃないのだぁ!!」
真顔。
「結婚するのだぁ!!」
まだ付き合った初日である。
だが。
五十歳まで生きた男は違う。
恋愛の先にある現実を知っている。
「のだぁ……」
金。
家。
仕事。
生活。
これらが必要。
「うむ!」
レイはノートを開いた。
『橘と即結婚するための計画』
「のだっ♡」
だが。
数分後。
「…………」
レイは止まっていた。
「のだぁ……」
何にも思いつかない。
「吾輩、ゲームしか買ってないのだぁ……」
前回人生。
レイは。
金の使い方が終わっていた。
ゲーム。
お菓子。
コンビニ。
たまに無駄なガジェット。
「のだぁ……」
投資知識?
ほぼ動画で聞きかじった程度。
経営?
やったことない。
資格?
ない。
「うむぅ……」
だが。
未来知識はある。
これは大きい。
「のだぁ……」
インターネット。
オタク文化。
ゲーム。
動画。
海外の面白い話。
未来では流行る。
「…………」
その時。
レイの脳裏に閃きが走った。
「のだぁ?」
ノートを見つめる。
「…………」
「適当にYoutubeで見た海外知識を小説に書いてみようかななのだぁ?」
沈黙。
「…………」
「うむ!」
レイの目が輝く。
「これなのだぁ!!」
前回人生。
レイは動画を見まくっていた。
歴史。
都市伝説。
海外の変な文化。
事件。
雑学。
「のだぁ……!」
しかも。
一九九二年。
今の時代なら。
そういう知識を知ってる人間は少ない。
「うむうむ!」
レイは猛烈な勢いでノートに書き始めた。
『海外の変な風習』
『歴史ネタ』
『都市伝説』
『奇妙な事件』
『成金』
『悪役主人公』
『追放』
『俺また何かやっちゃいました?』
「のだっ♡」
テンションが上がってきた。
さらに。
「うむ!」
『可愛いヒロイン』
『馬鹿主人公』
『ギャグ』
『泣ける話』
『美少女』
『文化祭』
『青春』
「のだぁ……」
レイは真顔になった。
「これ、普通に読みたいのだぁ」
自分で。
「…………」
そして。
ふと。
机の上のゲームソフトを見る。
「のだぁ」
前回人生。
レイはゲームばかりしていた。
だが。
今は違う。
「うむ!」
レイは拳を握った。
「吾輩、稼ぐのだぁ!!」
前回人生。
“いつか何かする”で終わった。
でも。
今回は違う。
橘彩音がいる。
「のだぁ……」
未来の橘の言葉を思い出す。
『今度は逃げないで』
「…………」
レイは静かに頷いた。
「逃げないのだぁ」
その時。
ふと。
ノートの隅に目がいく。
『結婚』
『家』
『幸せ』
「のだぁぁぁ……」
レイは突然顔を覆った。
「吾輩、彼女できたばっかなのに結婚考えてるのだぁ……」
重い。
めちゃくちゃ重い。
だが。
中身五十歳なので仕方ない。
「うむ……」
レイは真剣だった。
高校生の恋愛ごっこで終わりたくない。
「ちゃんと幸せにしたいのだぁ……」
その時。
コンコン。
「レイ?」
母親だった。
「まだ起きてるの?」
「のだぁ」
「また人生設計?」
「うむ」
母親は部屋を覗き込む。
ノート。
『小説』
『金』
『結婚』
『青春』
『海外ネタ』
「…………」
「何これ」
「未来設計なのだっ♡」
「また変なこと始めたわねぇ」
「吾輩、作家になるかもしれないのだぁ♡」
「急ねぇ」
「橘を養うのだぁ♡」
「重いわ」
母親は呆れていた。
だが。
少し笑っていた。
「でも」
「のだ?」
「前より楽しそうね」
「…………」
レイは少し黙った。
そして。
小さく笑った。
「うむっ♡」
本当に。
前回人生より。
ずっと。
楽しかった。




