23 レイの告白
夕方。
文化祭終了後。
校舎には片付けの音が響いていた。
机を運ぶ音。
笑い声。
「疲れたー!」という叫び。
一日中騒がしかった学校が、少しずつ静かになっていく。
「…………」
レイは校舎の窓から外を見ていた。
オレンジ色。
秋の夕焼け。
校庭にはまだ少し人が残っている。
「のだぁ……」
文化祭。
終わった。
だが。
レイの頭の中には、それ以上に大きいものが残っていた。
「…………」
未来の橘。
『大好きだったよ』
『今も』
「…………」
レイは拳を握った。
前回人生。
自分は逃げた。
人間関係。
恋愛。
人生。
全部。
でも。
今回は違う。
「のだぁ……」
そして。
何より。
もうわかってしまった。
自分は。
橘彩音が好きだ。
めちゃくちゃ好きだ。
五十歳まで引きずるレベルで。
「うむ」
レイは立ち上がった。
「言うのだぁ」
教室。
片付け中。
「ガムテープどこー?」
「ペンキ閉めろー!」
「机運ぶぞー!」
青春の終わり際みたいな空気。
「…………」
そして。
窓際。
橘彩音が段ボールをまとめていた。
髪が少し乱れている。
疲れている。
でも。
今日一日、ずっと可愛かった。
「のだぁ……」
レイは近づいた。
「橘ぃ」
「ん?」
彩音が振り向く。
「どうしたの?」
「…………」
レイは少し黙った。
周囲はまだ騒がしい。
だが。
不思議と。
そこだけ静かだった。
「のだぁ……」
緊張。
怖い。
断られたらどうしよう。
気まずくなったら?
「…………」
前回人生のレイなら。
ここで逃げていた。
“今の関係壊したくない”とか言い訳して。
曖昧なまま終わる。
でも。
「…………」
未来の橘が言っていた。
『もっと早く言えばよかったって』
「…………」
だから。
レイは逃げなかった。
「吾輩」
「うん」
「橘のこと好きなのだぁ」
「…………」
彩音の動きが止まる。
「…………」
「めちゃくちゃ好きなのだぁ」
周囲の音が遠くなる。
「のだぁ……」
レイは震えていた。
でも。
ちゃんと彩音を見ていた。
「吾輩と付き合ってくださいなのだぁ!」
「…………」
静止。
空気停止。
遠くで「机重っ!」とか聞こえるのに。
そこだけ世界が止まったみたいだった。
「…………」
彩音は固まっていた。
顔が赤い。
でも。
逃げない。
「…………」
レイは待った。
心臓がうるさい。
五十歳まで生きたくせに、今が人生で一番緊張しているかもしれない。
「…………」
彩音は少し俯いた。
「…………」
そして。
小さく笑った。
「遅い」
「のだぁ?」
「もっと前からそんな感じだったじゃん」
「…………」
レイ、停止。
「え」
「手握るし」
「のだぁ……」
「抱きついて泣くし」
「のだぁ……」
「文化祭もずっとイチャイチャしてたし」
「のだぁぁぁ……」
レイの顔が赤くなる。
だが。
彩音も同じくらい赤かった。
「…………」
「…………」
そして。
彩音は小さく息を吐いて。
レイを見た。
「……うん」
「…………」
「よろしくお願いします」
「…………」
レイの脳が止まる。
「…………」
「…………」
「の」
「?」
「のだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「うわっ!?」
レイ、絶叫。
教室全体が振り向く。
「な、何!?」
「田中どうした!?」
「事件か!?」
だが。
レイはもう限界だった。
「付き合えたのだぁぁぁぁぁ!!!!」
「!!!!」
教室静止。
「…………」
「…………」
「えっ」
「マジ?」
「うおぉぉぉぉぉ!!!!!」
大騒ぎ。
男子たち絶叫。
女子たち悲鳴。
「やっぱりぃぃぃ!!」
「付き合ったぁぁぁ!!」
「橘ぃぃぃ!!」
彩音、真っ赤。
「ちょ、ちょっと!!」
「うわぁぁぁぁん!!」
レイ、また泣く。
「青春なのだぁぁぁぁぁ!!!」
「また泣いてる!!」
西園寺が腹抱えて笑っていた。
「お前ほんと感情どうなってんだよ!!」
「幸せなのだぁぁぁぁぁ!!!」
黒沢まで笑っている。
「良かったな田中」
「うぇええええん!!」
「泣きすぎだろ!!」
教室は完全に祭りだった。
「キスしろー!」
「やめろ!!」
「田中顔真っ赤!」
「橘もだろ!」
「うるさい!!」
彩音は恥ずかしさで死にそうだった。
だが。
「…………」
隣で泣いてるレイを見て。
少しだけ。
胸が温かかった。
「のだぁぁぁ……」
レイは涙ぐしゃぐしゃで笑っていた。
前回人生。
手に入らなかったもの。
逃げ続けて失ったもの。
でも。
今。
ちゃんと掴めた。
「…………」
夕焼けの教室。
文化祭の終わり。
高校生たちの笑い声。
その中心で。
田中レイは人生で一番幸せそうに泣いていた。




