21 ぶりっ子する馬鹿
放課後。
文化祭準備。
教室は完全に戦場だった。
段ボール。
ペンキ。
紙吹雪。
謎のBGM。
「そこテープ足りないー!」
「机運んで!」
「おいレイ!変な場所にハート描くな!」
「芸術なのだぁ♡」
「やめろ!!」
クラス全体が騒がしい。
青春そのものだった。
「…………」
そして。
その真ん中で。
レイは妙に静かだった。
「のだぁ……」
目が据わっている。
何か企んでいる顔。
「また始まった」
「嫌な予感する」
男子たちが距離を取る。
なぜなら。
最近のレイは“行動力を得た変人”だからである。
「うむ……」
レイは橘彩音を見た。
文化祭準備中。
袖を少しまくり。
髪を後ろで軽くまとめている。
可愛い。
めちゃくちゃ可愛い。
「のだぁ……」
しかも。
最近。
距離が近い。
笑ってくれる。
普通に話す。
これは。
「脈ありなのだぁ♡」
「何ニヤニヤしてんの」
西園寺が引いていた。
「幸せなのだぁ♡」
「うぜぇ」
だが。
レイは本気だった。
そして。
文化祭。
青春イベント最大級。
「…………」
五十歳まで生きたレイは知っている。
文化祭を一緒に回る約束。
これ、かなり強い。
「うむ!」
レイは決意した。
「行くのだぁ♡」
そして。
橘の方へ向かう。
女子たちが即座に察知。
「来た」
「田中君来た」
「始まるぞ」
完全に観察対象である。
「のだっ♡」
レイは妙にぶりっ子っぽい動きで近づいた。
「橘さぁ〜ん♡」
「っ……!」
彩音が振り向く。
周囲の女子たちがニヤニヤし始める。
「何その喋り方」
「ぶりっ子なのだぁ♡」
「気持ち悪い」
「ひどいのだぁ♡」
だが。
レイは止まらない。
妙に身体をくねらせながら言う。
「文化祭ぃ〜♡」
「う、うん」
「一緒に回りませんことぉ〜♡」
「…………」
静止。
女子たち、爆発。
「うわぁぁぁぁ!!」
「言った!!」
「誘った!!」
「キャーーー!!」
彩音、真っ赤。
「ちょ、ちょっと!」
「のだぁ♡」
レイは妙にキラキラしていた。
「吾輩ぃ〜♡橘さんと青春したいですのだぁ〜♡」
「その喋り方やめて!?」
「愛なのだぁ♡」
「絶対違う!!」
教室中が笑いに包まれる。
男子たちも完全に面白がっていた。
「レイ攻めるなぁ」
「最近マジで強い」
「前まで陰だったのに」
だが。
レイは本気だった。
前回人生。
こういう誘いを、一回もできなかった。
怖かった。
恥ずかしかった。
でも。
五十歳まで生きるとわかる。
誘わないと何も始まらない。
「のだぁ♡」
レイはじっと彩音を見る。
「駄目ですのだぁ?」
「…………」
彩音は完全に顔が赤かった。
周囲の視線。
女子たちのニヤニヤ。
しかも。
レイの顔が良い。
ぶりっ子なのに妙に破壊力がある。
「…………」
困る。
めちゃくちゃ困る。
「の、のだぁ♡じゃないの!」
「のだっ♡」
「何その顔!」
レイは上目遣いだった。
完全にふざけている。
だが。
妙に可愛い。
「…………最悪」
彩音は顔を覆った。
女子たち大興奮。
「橘落ちそう」
「今の強い」
「田中君顔良いからずるい」
「のだぁ♡」
レイは調子に乗っていた。
「文化祭で一緒にクレープ食べたいですのだぁ♡」
「ぶりっ子やめてって!!」
「お化け屋敷も入りたいですのだぁ♡」
「女子か!!」
「愛されたいのだぁ♡」
「知らないよ!!」
彩音は完全に笑ってしまっていた。
「もうっ……」
「のだぁ♡」
レイはさらに近づく。
「駄目ですのだぁ?」
「…………」
彩音は少し黙った。
周囲が静かになる。
「…………」
そして。
小さく。
「……別にいいけど」
「!!!!」
レイ停止。
「…………」
「…………」
「の」
「?」
「のだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
大絶叫。
「うるさい!!」
レイはその場で飛び跳ねた。
「文化祭デートなのだぁぁぁぁぁ♡」
「デートじゃない!!」
「青春なのだぁぁぁぁぁ♡」
「声でかい!!」
教室、大爆笑。
女子たちは机叩いて笑っていた。
「橘終わった」
「完全に彼女ポジション」
「違うってば!!」
だが。
彩音はわかっていた。
最近。
レイといると楽しい。
騒がしい。
疲れる。
でも。
笑ってしまう。
「のだぁ♡」
レイは完全に舞い上がっていた。
「吾輩、当日は最高にカッコよく決めるのだぁ♡」
「そのぶりっ子で?」
「愛嬌なのだぁ♡」
「無敵かよ」
再び教室に笑い声が響く。
その光景は。
まさに高校の文化祭前だった。




