身を捨ててこそ浮かぶ瀬もある竜田川2 Fortune favors the bold.
崇直と入れ違いでドーム内に入る。
田中が木星を熱く語ってるよ。崇直も木星、見てるのかな。
導入が思った以上に良い位置で、アルタイルが最高の状態で見えるぞ。
「アルタイルに合わせたよ。ど真ん中、ドンピシャだ。伴星も見えるよ」
これなら紅緒も喜ぶかな、なんて思いながらドームから出てみたら。
揃って三人が空を見上げてた。
「何見てんだ?」
田中が指さしてるのは。
「ああ。木星ね。今日は見たい星が同じ位置に固まってるから導入が楽でさ」
木星の位置が分る田中に、それを基準として見える星を指さしていく。
一通り惑星と星座を確認したら、崇直が紅緒をドームへ誘って入って行った。
田中はさっそくファインダーに手を伸ばし、土星の導入にかかる。
「亘、サンキュー」
ドームへ半歩入った状態で、崇直が声を掛けてきた。
暗がりで見ると、本当に直樹が戻って来たのかと間違えそうだ。
「ああ、伴星も今日はよく見えるから」
まともに顔を見れない。
田中を見ると、順調に土星を見つけられたようで、ピントを合わせ始めた。
これなら一人でも十分操作可能だな。
ドームの入り口に行くと中から紅緒の声が聞こえてきた。
「ヴェガより、白いね」
「こっちも伴星があるが、ヴェガより分かりにくいかも。十二時と三時の方向に白い点が見える? アルタイルが明るくて見えづらいかな」
「どれどれ」
紅緒が譲った形で崇直が覗き込んでいる。
「真ん中がアルタイルだろ、あった。たぶん十二時は分かったぞ」
「八時か七時にも分かりやすいのがあるんだが……」
「わたるくんっ、土星の輪が縦になってる! ねーなんでっ。なんでっ」
後から田中の悲鳴が聞こえてきた。
「悪い、後頼むな崇直」
後ろを見たら田中が、筐体を色んな方向から見ていた。怖くて触れないみたいだ。
いや、それ簡単には壊れないから。
笑いながら、調整してやったらまた素っ頓狂な声を出す。
「あ~っ、レンズが上向いてる」
「べーが覗くの大変だから横向けてたんだ」
「そんなカラクリが」
あはは。田中って面白ぇやつだな。
「土星の衛星は言われないと分からないね~」
「点だからな」
食い入るように覗いてるよ。
「土星も木星も離れてるから、同じ程度と思ってたけど。この二つも離れてんだね」
「四・三天文単位離れてるから、地球と太陽の距離の四・三倍離れてるって事だな」
「え~、太陽より遠く離れてんだ、木星と土星って」
その時ドームの方で、何かがぶつかる音が聞こえた。
後へ下がってみたら、中から崇直がどこかぶつけた様で痛がってる声がした。
なんて情けない声出すんだよ。大丈夫かよ、おい。
「亘くん、タイタンってどうやったら見えるの」
覗こうとしたら田中に声を掛けられた。
そうだった、タイタンも見たがってたんだ。
「ちょっと待って、倍率下げた方が土星と一緒のが画角で見られるから」
アイピースを交換しないと。
「今の倍率だとタイタンが離れすぎてて見えないのか」
「そうそう、今アイピース交換するよ」
ケースって何処にやったっけ。
ドームから出してと、 ポケットからペンライトを出し床を照らしたら三脚の真ん中に置いてあった。
「このケースの中にあるのかい」
田中がしゃがんで、手を伸ばしている。
「お、助かる。その中に入ってるんだ」
ライトを口にくわえて、手元を照らしながら五ミリのアイピースを取り外す。
横で田中が容器を差し出してくれたので、外した五ミリを入れ二十ミリを取り出そうとしたらドームから崇直の声がした。
「あれ、亘くん呼ばれてるよ」
「今行くよ、ちょっと待って」
うわっ、手元が狂って二十ミリを取り損ねた。
容器の蓋に当たり、下に落ちる、やばいっ。
「おっ、っととおおっ」
田中、凄い反射神経で、落ちかけた二十ミリを空いてる左手で掴んでくれた。
「ふーっ」
二人で思わず胸をなでおろす。
「田中、サンキュー。ああ、びっくりした」
「落ちたらヤバかった?」
「たぶん、レンズが割れたかも」
あー、まだ心臓がドキドキする。
田中もホッとしたように、笑みが漏れた。
「わーちゃん、ゆっくりでいいよ」
今度は紅緒の声がした。
何してんだ、あの二人。
「亘ーーーっ。てめぇ早くこっち来いやっ」
「亘くん、それ僕がはめるから行った方が良いよ、あれ崇直キレてる」
だよな、怒ってる声だよな。
何やったんだよ、あそこで。
「すまん。ちょっと行ってくるよ」
いよいよここまで来ました!いつも読んで頂きありがとうございます。
後は締めるだけだ。
ガンバレ亘、そしてオレ!
多分次回が最終話になると思います。
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