表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あぶはちとらず  作者: 井氷鹿
第1章 Grasp all , Lose all. 1 1995年 春 亘編
6/60

落花情あれども流水意なし6 The love is one-sided.

 茶漬けとレモンサワーを待つ間、話題は一巡して紀和(きわ)さんに戻ってきてしまった。


「『私と寝てる間はあんたは私の男』、なんてセリフ言われてみたいよ。あーっ、カッケーその彼女」 

 髪の毛引っ張られたんですよ、あれ。けっこう、痛かったんですから。

 何妄想してるか知らんけど。


「それより、僕がホスト向きって何ですかそれ。先輩じゃあるまいし」

「あはは、それよく言われる。ホストに失礼か」


 そこで、追加の茶漬けとサワーが届く。

 先輩はジョッキを一息で半分空け、また例の人懐っこい笑顔を向けてきた。


「合鍵もらってたんだって。鍵は?」

「昨日戻しに行ったら、本当に引っ越してましたよ」

「ぶはっ」


 今度は先輩が飲みかけたサワーでむせたみたいだ。

 ザマーミロだ。 

 でも、笑いますよね。僕だって笑いましたから。


「あー、笑った。最高だわ、その彼女」

 まだ笑いをこらえてるのか、肩が震えている。

 お絞りで口を拭い、残りのジョッキを半笑いで飲み干した。

 それから、店員に向かい指でバッテンをする。


「で、どこに泣く要素があったんだ?」

「女にフラれたくらいで泣きませんって」

 言えるわけがない。思い出したのは、別の顔だなんて。


「拾ったペットが懐かなくて捨てられたんですよ」

 先輩は泣き真似をして、また笑った。

 そのうち年相応に腹が出て、女の子に相手されなくなればいい。


「でもなぁ、あんな顔で泣くほど惚れてる相手には勝てんわな」

「やめてくださいよ」

「違うのか」

「……違いませんけど」

 やば、口が滑った。


「ずっと片思いしてるだけですよ」

「おやまぁ」

「ずっとって、いつからだ?」

 先輩がふと眉を寄せて、優しい顔をする。

 

「さっきの質問……実は幼馴染なんですよ」

 酒のせいで、妙に正直になっている自分に驚くよ。


「初恋か、もしかして」

「……」

 ここまで引きずるとは、自分でも思ってなかったけどな。


「初めて会ったのは十歳の時。神社の鳥居の前でした。あの日、天気が良くて……」

「それで似た子ばっか追っかけて、とっかえひっかえ」

「してませんって! ……まあ、似てる子を目で追っちゃうことはあったかもですが」


「食事でも誘えばいいじゃん。ひどい振られ方したわけでもないんだろうに」

 なんで同じこと言うんですか。


「伝えてもないんです。無理なんですよ、言ったら壊れるのが怖くて」

 先輩は一瞬だけ驚いた顔をして、すまんと謝られた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ