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あぶはちとらず  作者: 井氷鹿
Grisp all , Lose all. Ⅰ 1995年 春 亘編
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落花情あれども流水意なしⅥ The love is one-side.

 茶漬けとレモンサワーを待つ間、話題は一巡して紀和(きわ)さんに戻ってきてしまった。


「『私と寝てる間はあんたは私の男』。カッケーよなぁ、その彼女」


 髪の毛引っ張られたんですよ、あれ。けっこう、痛かったんですから。


「それより、僕がホスト向きって何ですかそれ。先輩じゃあるまいし」


「あはは、それよく言われる。ホストに失礼か」


 そこで、追加の茶漬けとサワーが届く。


 先輩はジョッキを一息で半分空け、また例の人懐っこい笑顔を向けてきた。


「合鍵もらってたんだって。鍵は?」


「昨日戻しに行ったら、本当に引っ越してましたよ」


「ぶはっ」


 今度は先輩が飲みかけたサワーでむせたみたいだ。

 ザマーミロだ。

  

 でも、笑いますよね。僕だって笑いましたから。


「あー、笑った。最高だわ、その彼女」


 まだ笑いをこらえてるのか、肩が震えている。

 お絞りで口を拭い、残りのジョッキを半笑いで飲み干した。

 それから、店員に向かい指でバッテンをする。


「で、どこに泣く要素があったんだ?」


「女にフラれたくらいで泣きませんって」


 言えるわけがない。思い出したのは、別の顔だなんて。


「拾ったペットが懐かなくて捨てられたんですよ」


 先輩は泣き真似をして、また笑った。

 そのうち年相応に腹が出て、女の子に相手されなくなればいい。


「でもなぁ、あんな顔で泣くほど惚れてる相手には勝てんわな」


「やめてくださいよ」


「違うのか」


「……違いませんけど」


 やば、口が滑った。


「ずっと片思いしてるだけですよ」


「おやまぁ」


「ずっとって、いつからだ?」


 先輩がふと眉を寄せて、優しい顔をする。


「さっきの質問……実は幼馴染なんですよ」


 酒のせいで、妙に正直になっている自分に驚くよ。


「初恋か、もしかして」


「……」


 ここまで引きずるとは、自分でも思ってなかったけどな。


「初めて会ったのは十歳の時。神社の鳥居の前でした。あの日、天気が良くて……」


「それで似た子ばっか追っかけて、とっかえひっかえ」


「してませんって! ……まあ、似てる子を目で追っちゃうことはあったかもですが」


「食事でも誘えばいいじゃん。ひどい振られ方したわけでもないんだろうに」


 なんで同じこと言うんですか。


「伝えてもないんです。無理なんですよ、言ったら壊れるのが怖くて」


 先輩は一瞬だけ驚いた顔をして、すまんと謝られた。

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