落花情あれども流水意なしⅣ The love is one-side.
定時で上がって、先輩に引き連れられ地下鉄に乗る。
先輩は夜ほとんど食べないから、食べるのは僕だけだけど。
行き先は、二駅先のいつもの居酒屋だ。
電車内で先輩に問われるまま、あの彼女とのやり取りを話したら。
「おー、あの美人の彼女か。前に社屋前で会ったな」
覚えてたよ、この人。
「そう、ですね」
「学生のくせに年上とか羨ましっ」
カバンで小突かれ、思わず笑う。
そっちこそヨリドリミドリのくせに。
「一年くらい付き合ってたんだろ。いくつだっけ」
「三十前後ですかね。役職考えたら」
駅を出て、明るいアーケードを抜けて店に入る。
威勢のいい声と美味そうな匂いが迎えてくれた。
「いらっしゃいませーっ」
何度来ても、ここはいい店だなぁ。
「バイク?」
「電車で」
バイク通勤の日もあるから、いつも確認してくれるんだよね。
愛車はBMW R100RS、シルバーの90年式。友達以外を後ろに乗せたことはない。
「じゃ、生を二つ!」
出迎えた店員にそう告げると、先輩は店内を見回した。
お好きなところにどうぞと、案内される。
中央の席に決め、席に付くとほぼ同時に生が届いた。
先輩は上機嫌で即座にジョッキをかかげ、軽く僕のジョッキに当てるとそのまま一気に煽った。
美味そうに喉を鳴らして、飲んでいる。
つられて僕もグラスを空けてしまった。
……やっぱり、最初の一杯は美味いなぁ。
「で、続きは」
え? どんだけ聞きたいんですか。
「外見と学歴だけの、何の取り柄もない僕の話ですよ」
「お前さ、自分が女にモテてるの、知らないだろ」
「僕がですか? 先輩じゃあるまいし」
「結構、秋波送られてるぞ」
指でウニョウニョやめてください。気持ち悪い。
「顔に出てんぞ」
「最初の一杯は美味いっスね」
愛想を返すと先輩は笑って、お代わりを店員に叫んだ。
「生、おかわり!」
あ、僕も。
「ウーロンハイ、ジョッキで」
「はーい、喜んで!」
お通しの茄子の揚げ浸しをつまんでいたら、先輩が自分のを差し出してきた。
味が程よくしみて、美味いんだよこれ。
喜んで受け取り遠慮なく食べる。腹減ってるんですよ。
串焼きが届く。
揚げ物はもう少し待ってくれと言われた。
先輩は適当に串を取ると、残りを器ごと差し出した。
しかし、飲むペース早いなぁこの人。
僕はもう頬が熱くなってるのに。
串焼きをつまんで、一口かじってたら先輩がなにか思いついたように身を乗り出してきた。