8 小作人の意地
オークの腕から舞い上がった竜巻が、とぐろを巻いた蛇のようにうねりをあげ、今、村へと向かっている。
このままではみんなが……
ローザアアア!!
彼女の笑顔が脳裏をよぎる。
彼女を泣かせるマネだけはできない。
オークを見やる。
奴は醜悪な笑みを浮かべている。
田畑荒しの効果で、俺は身動きが取れない。
戦闘農術が使えない。
奴は言った。
農民は嵐に弱い。
農民は害虫に弱い。
そして農民は害獣に弱い、と。
弱点だらけの農民。
さらにその下をいく小作人。
だがその弱点だらけの小作人だからこそ――そう、追い詰められ、迫害され続けた小作人だからこそ、できることがあるはず。
俺たちをもっとも苦しめてきたもの。
それは年貢だ。
害虫被害に遭おうが、天変地異が起きようが、領主に慈悲はない。
奴らは容赦なく取り立ててくる。
だから俺たち小作人に残された最後の秘術。
追い詰められた時に発動できる農術。
それは――
俺は括目して叫んだ。
「小作人究極裏奥義――隠し田生成!!」
これぞ、災害時に領主の年貢取立てから唯一身を守る最後のとっておき。非常時にのみ発動を許された技だ。
俺はレベル9999の最強なる小作人だ。
一般的な小作人が3年の年月かけてわずか猫の額くらいしか作れない隠し田を、俺は一瞬で生み出した。
――それもてめぇの足元に、だ!
てめぇは言ったよな。
てめぇの生み出した田畑嵐は、俺の穀物を狙う、と。
「な、なんだ! どうして嵐がこっちに向かってくるのだ!?」
竜巻がオークの体を高く持ち上げる。
脅威は消え、俺にかけられた呪縛が解けた。
俺はてのひらを奴の胴体に向ける。
「さぁ、フィニッシュだ。てめぇは農民の心を踏みにじった腐れ害獣。その報いにふさわしい農術で葬ってやる。
食らうがよい!
最終的農薬散布!!!!」
「ぐぉぉおおおお……。体があぢぃ。溶けるぅぅぅううう。てめぇ、何をしやがった!?」
「ただの害獣駆除だ。農民はいつまでも害獣如きに負けやしない。近代農民をなめるな!」
「……ククク。お前は強い。俺以上だ。その力は認めよう。だがな、俺たちの仲間はたくさんいる。俺が返ってこなければ仲間が心配してエルフの村を襲うだろう。それだけじゃない。手下のゴブリンや同盟を組んでいる巨大イナゴの大群もお前たちを襲う。あはっはは!」
「無駄だ。
エルフの村四方には殺獣剤を散布した。
これは神官の作る聖水に近い効果がある。
お前たち害獣がこのテリトリーに一歩でも足を踏み込むと、その肉体は直ちに溶ける」
「グゥゥ。くそったれ!
だがどうしてなのだ!?
それ程の力を持ちながら、なぜ貴様は領主に年貢を納めているのだ……。貴様なら領主、いや、王にだってなれるだろう……」
「俺は職業――小作人。
下々の者だ。だから下々の気持ちがわかる。くだれねぇ領主はぶっ倒す。真の領主のもとへ農民を終結させる。これが俺の宿命。領主は農民を守り、その見返りに農民は穀物を守る」
「……ふふふ。なるほど。田畑を守る守り神。それが小作人だったのか。俺とはスケールが違いすぎた……。
キサマとは……もっと早く会いたかったぜ……。そうすれば俺の人生も変わっていた……。こんな薄汚れた人生ではなかった……。俺は奪うしか知らなかった。だけど……。本当に残念だ……。頑張れよ、田畑の守護神、小作人」
オークはそう言い残すと、霧となった。
奴は最期、笑っていた。
害獣と農民。
奪う者と奪われる者。
それは決して交われない螺旋の如く宿命を背負った敵同士。
なのに奴が逝く瞬間――
奇妙な友情を感じた……
勝ったよ。
ローザ。
次はいよいよ新しい領主、か……。




