7 農民殺しの秘奥義
風がでてきたようだ。
木々の枝が強く揺らされている。
不気味に両手をうねらす巨大オークを前に、俺はどうしてしまったというのだ!?
まったく身動きがとれない。
ど、どうして……!?
奴は言った。
農民殺しの秘奥義――田畑荒しを発動させる、と。
俺のレベル9999。
こんなヤツ、敵ではない。
だが、耐性のない攻撃を受けると大ダメージを受ける。これは先日の毒入り芋で経験済みだ。このゲームには一発逆転要素がある。どんなに強い相手にでも、弱点をつけば勝機がある。
おそらく『田畑荒し』は、俺にとって脅威なる奥義。
つまりそれは――戦士にとっての魔法攻撃、魔道士にとっての物理的攻撃、聖騎士にとっての呪殺系魔法に等しい。
だったら奴が技を発動させる前に仕留めるべきである。
右手にある白銀の鎌を強くグッと握る。
この至近距離から、稲刈り斬で――
だが。
俺の腕が微塵も動かない。
どうしたというのだ。
「ククク。お前は農民。それがお前の弱点だ!」
「それはどういうことだ!?」
「俺達は何千年も前から幾度となく農民と戦ってきた。農民の作った穀物を荒らすのが俺達の仕事。大抵の農民は雑魚だが、たまにとんでもないのがいる。熟練したプロの農民になると、天候まで操るのだ」
俺にもできる。
飢饉を乗り越える天候系農術――雨乞いだ。
「俺たちのご先祖様は、天候を操る伝説の農民に脅威をいだいた。
だって厳しい修行を積んだ偉大なる魔道士でも天候系魔法ときたら昼夜逆転させるといった、周りにとって甚だ迷惑なだけで大したダメージを与えることすらできない微妙な術しか使えないのに、農民は雷鳴を呼び寄せ雨まで降らしやがったんだ。雨雲を呼び起こせるくらいだ。雷だってゴロゴロ落ちてくる。それは勇者にのみ許された専売特許のはず。
農民は勇者を超えたのか!?
だがある日、奇妙な事に気付いた。
伝説のプロ農民は自在に雨を降らせるはずなのだが、どういう訳か滅多な事では使わないのだ。それどころか力をセーブしているように思えたのだ。
もしかして……。
そして俺達のご先祖様は分かったのさ。
農民は嵐を恐れていることに」
嵐になれば、田畑が荒れる。
農民は嵐を見ると心理的恐怖に陥る。
つまり農民は嵐に弱い……
もしや、奴の奥義は……
「ククク。
気付いたようだな。
そうだ! 俺たち害獣は、常に農民の上をいかなければならないのだ。
俺たちは農民キラー。
この技は農民殺しの為に編み出してきた秘奥義。
鍛えぬいた農民が天を操るように、熟練した害獣は風を操る。
つまり――田畑荒しとはその名の通り嵐を呼び起こし、発生した竜巻でお前らの大切な田畑から穀物を奪いとり、俺たちの国に運ぶことのできる秘術なのだ。
俺は風を自在に操ることができる」
さっきからの俺の震え。
それは嵐の前兆故の恐怖なのか。
俺には農民の血が染みついている。
「だからなんだ!? 確かに農民は嵐に弱いかもしれない。だがこの程度の風で俺を倒せるとおもっているのか!」
「ククク。分かってねぇな。俺の目的はお前を倒すことではない。
エルフの娘達をかっさらうこと。
この奥義は、対農民用。
農民にしか効かない。
だがそれで十分だ。
相対する農民に猛烈なる恐怖を与え、一時的に動きを封じ込め、そしてその農民が大切に育て上げた穀物を奪うための奥義。
お前がたった一人で俺たちを足止めした理由はただひとつ。村のみんなを守るためだろ? この技は発動したが最後。俺の生み出した嵐は、お前の大切な仲間を根こそぎ奪う」
農民殺しの秘奥義――田畑荒し。
なんて恐ろしい技なんだ。
俺はローザを助けると誓った。
それなのに……
いや……
一見、完璧に思えた田畑荒し……
だが、完璧なものなんて存在しない。
美しい野菜がおいしいとは決まっていない。あれは売るために作り出した見せかけの商品だ。プロの農民は見せかけだけの野菜など決して口にしない。
奴は鍛えぬいた小作人を知らない。
真に追い詰められた小作人の意地を知らない。
それが奴の弱点。
田畑荒しにはきっと弱点があるはずだ。
考えろ。考えるんだ!




