↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄された悪役令嬢は、有能すぎました  作者: 夜嶋朔


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
22/56

第22話 支え合うということ

 レイナが家で縁談を断り続ける日々を送る一方、リュミエール王国では、イレギュラーから相次いで不穏な情報がもたらされていた。


 港では見慣れない船影が確認され、街道では兵の動きが増え、市場では鉄や食料が急に買い集められている。


 誰が動いているのか。


 何のために動いているのか。


 まだ、何も分からない。


 ただ、以前にも織田信長の指示で平安あやかし勢がこの国へやって来た。


 ならば今回も。


「……信長、なのですかしら」


 レイナは小さく呟いた。


 確証はない。


 それでも、胸の奥には嫌な予感だけが残っていた。


 王都では、いつ戦が始まっても動けるよう準備が進められていた。


 完成間近のテルリッチ公園と、その外側を守る花田丸も実戦用へ切り替えられ、救護、避難、放送、補給、警備、炊き出し、それぞれの持ち場へ人が配置されていく。


 レイナにも、役割が与えられていた。



 午後。


 戦支度の合間を縫って、レイナはテルリッチ公園へ向かった。


 いつもなら子どもたちの笑い声が響き、『パンチ』や『七七七』、『氷の翼』の売店から美味しそうな匂いが漂っている。


 今日も、公園そのものは美しかった。


 色とりどりの花が咲き、噴水の水が陽の光を受けてきらきらと輝いている。


 けれど、その向こう。


 花田丸では、兵や職人たちが最後の確認を続けていた。


 薔薇の柵。


 東屋。


 噴水。


 美しい庭園の中には、人を守るための仕組みが隠されている。


 レイナは東屋の前で足を止めた。


「レイナー!」


 聞き慣れた声に振り返る。


 パードが大きく手を振りながらこちらへ歩いてきた。


 その隣には、スギナとキルナもいる。


「皆さま」


「やっぱここにいた!」


 パードはレイナの隣まで来ると、そのまま花田丸を見上げた。


「なんか不思議だよね。いつもここで食べて喋ってるのに」


「ええ」


「今は、戦に備える場所になっておりますね」


 スギナも静かに花田丸を見る。


「黒き守護者様は、平和な時だけではなく、何か起きた時のことまで考えておられたのですね」


「若頭だからな」


 キルナは腕を組んだまま、少しだけ誇らしそうに笑った。


「置いて終わりのもん作らねぇんだよ。全部、使えるようにする」


「姫様らしいですわね」


 レイナも、少しだけ笑った。



「そういえば」


 パードが三人を見る。


「みんな、何任されたの?」


「まだ聞いておりませんでしたね」


 スギナが頷く。


「私から言おっかな!」


 パードはすぐに手を上げた。


「私は港の見張りと放送設備!」


「港ですの?」


「うん。変な船が来てないか見るのと、何かあった時に放送ちゃんと動かす係!」


「随分重要ですわね」


「でしょ?」


 パードが得意げに胸を張る。


「海も好きだし、機械も見るし、私に合ってると思う!」


「確かに、パードさんらしいですわ」


「レイナは?」


「私は救護です」


「やっぱり!」


「怪我をされた方を診て、治癒魔法を使います。必要があれば、ほかの救護班の方とも連携いたしますわ」


「レイナがいるなら安心だね」


 何気なく言われ、レイナは少しだけ目を丸くした。


「……ありがとうございます」


「スギナは?」


 パードが振り返る。


「私は、怪我をされた方のお手伝いと、皆さまのお心を支える役目をいただきました」


 スギナは胸の前で両手を重ねた。


「身体だけでなく、怖いお気持ちや不安も、少しでも軽くできればと思っております」


「それ、スギナめっちゃ向いてるじゃん」


「そうでしょうか?」


「向いてますわ」


 レイナもすぐに頷く。


「スギナさんのお声を聞くだけで、安心なさる方もいらっしゃると思います」


 スギナは嬉しそうに微笑んだ。


「ありがとうございます」


「キルナは?」


「俺は炊き出しだ」


「似合う!」


「何だ、その言い方」


「いっぱい食べさせてくれそう」


「作る側だ!」


「味見もいっぱいしそう」


「仕事だろ!」


 パードが笑うと、キルナは呆れたように息を吐いた。


「若頭に、腹減った奴を出すなって言われてんだ」


「それは大切ですわね」


「兵も、避難してきた奴も、働いてる奴も、腹減ったら動けねぇからな」


 キルナは花田丸へ目を向けた。


「飯だけは止めねぇ」


 四人の間に、少しだけ静かな時間が流れた。


 港を見る者。


 放送を守る者。


 怪我人を治す者。


 心を支える者。


 食事を作る者。


 誰一人、同じ役割ではない。


 けれど、どれも欠けてはいけない。


「何か」


 パードがぽつりと言った。


「バラバラなのに、ちゃんと繋がってるね」


「そうですわね」


 レイナは微笑んだ。


「誰か一人で、すべてをする必要はございませんもの」


「黒き守護者様も、そうお考えなのだと思います」


 スギナが静かに続ける。


「皆さまに、それぞれできることがございますから」


「……でもさ」


 パードが少しだけ声を落とした。


「正直、怖くない?」


 誰もすぐには答えなかった。


 花田丸の向こうでは、兵たちが動いている。


 そのさらに向こう。


 何が来るのか。


 誰が来るのか。


 まだ分からない。


「怖いですわ」


 最初に答えたのは、レイナだった。


 パードがレイナを見る。


「私も」


 スギナも静かに頷く。


「私も怖いです」


 キルナも小さく息を吐いた。


「俺だって怖ぇよ」


「キルナも?」


「当たり前だろ」


 少しだけ苛立ったように返したあと、キルナは苦笑する。


「戦だぞ」


「そうですわよね」


「じゃあ」


 パードが三人を見回した。


「みんな一緒じゃん」


「え?」


「怖いの、みんな一緒」


 パードは、いつものように笑った。


「だったらさ」


 その笑顔が、少しだけ力強くなる。


「私たちは私たちで、やれることやろ!」


 レイナは目を見開いた。


 とても単純な言葉だった。


 けれど。


 今の自分たちには、それで充分だった。


「そうですわね」


 レイナも笑う。


「私たちは、私たちにできることをいたしましょう」


「はい」


 スギナも頷いた。


「そして、誰かが怖くなった時には、皆さまで支え合いましょう」


「いいね!」


「無茶だけはすんなよ」


 キルナが三人を見る。


「自分の役割に夢中になって、倒れるとか無しだからな」


「キルナもですわよ」


「俺は大丈夫だ」


「今の発言が一番危ないですわ」


「何でだよ!」


 レイナが笑う。


 パードも笑い、スギナも口元へ手を添えた。


 怖さが消えたわけではない。


 何が起きるのかも分からない。


 それでも。


 一人ではない。


 こうして隣に立ってくれる人たちがいる。


 それだけで、胸の奥にあった冷たいものが少しだけ溶けていった。



「戦が終わったら」


 レイナが花田丸を見ながら言った。


「また、ここで集まりましょう」


「もちろん!」


 パードがすぐに答える。


「氷の翼行こ!」


「またフローズンですの?」


「いいじゃん!」


「私はぜひ、ご一緒したいです」


 スギナが嬉しそうに笑う。


「俺は七七七な」


「両方行けばいいじゃん」


「食わせすぎだろ」


「パンチもありますわよ」


 三人が一斉にレイナを見る。


「レイナまで増やした!」


「戦の後ですもの」


 レイナは少し悪戯っぽく笑った。


「それくらい、よろしいでしょう?」


「最高!」


「決まりですね」


「まあ、それならいいか」


 四人は並んで花田丸を見つめた。


 戦が終わったら、またここで笑う。


 それは、誰かに決められたことではない。


 自分たちで決めた、小さな約束だった。



 レイナはまだ知らなかった。


 これから、この国で何が起こるのか。


 誰が、何のためにやって来るのか。


 そして。


 まさか、あの男までこちらへ向かっていることも。


 まだ、何も知らなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。