第7話 パーティ
悠真はルリカに近づこうとした。
その時、彼女が誰かと話しているのに気づいた。
(ん? 通話……?)
ルリカはギルドの軒先に座り、広場に背を向けていた。
短い紫の髪が大きな帽子の下からのぞいている。黒いマントは、影の水たまりみたいに彼女の周りへ広がっていた。膝の上には、あの小さなノートがあり、丁寧な文字でこう書かれたページが開かれていた。
「空に裂け目を開かずに人へ挨拶する」
彼女の前には、魔法の球体があった。
それは黒いガラスの球で、ゆっくり回転する三つの金色の輪によって宙に浮かんでいた。中では、黒い雲が水の中のインクみたいに渦を巻いている。時々、中心に紫色の紋様が光っては消えた。
球体の向こう側から、女の声が聞こえ、姿も見えた。
悠真はそっとのぞき込んだ。
(顔がない。影か?)
球体の中の女は、黒いシルエットだった。背が高く、玉座のようなものに座っている。見えるのは肩の輪郭、煙のように揺れる長い髪、そして黒い杖に置かれた白い手だけだった。背後では、暗い紋様が蛇のように上下している。
ノノアとリーゼが、ギルドの扉を開けて出てきた。
「大丈夫?」
悠真はリーゼの口を手で塞いだ。
「しーっ!」
リーゼが赤くなった。
(これ、絶対に面倒なやつだ。逃げるに限る)
ルリカと女の会話は続いていた。
「でも……」
「でもではありません、ルリカ。あなたは何か月も旅をしているのに、まだ一つも英雄的な偉業を成していない。最高位魔導師としてふさわしい振る舞いではありません」
(最高位魔導師? 今すぐ帰った方がいいな)
「私は努力しています、でも……」
「努力している? なら証明しなさい。そうでなければ、すぐに家へ戻ってきなさい。何が待っているか、分かっているでしょう」
ルリカはパニックになった。
空の裂け目がさらに大きくなった。
彼女は周りを見回した。
悠真はすでに逃走を開始していた。
だが、間に合わなかった。
彼女は三人を見た。
「四人……ちょうど、必要な人数……」
つぶやいた。
悠真と彼女の目が合った。
悠真はギルドの中へ向かって歩く速度を上げた。
ルリカが顔を球体へ戻した瞬間、黒い煙が扉の上に現れた。
悠真は扉を開けようとした。
だが、遅すぎた。
扉は黒い結界に塞がれていた。
彼は固く唾を飲み込んだ。
「分かりました、お母様」
(母親? あれが母親なのか?)
ルリカは続けた。
「私はこの数か月、旅をしながら、大きな偉業にふさわしいパーティを探していました。この地方最高の英雄たちを」
「あら? また時間を稼ぐための小細工ではないでしょうね?」
ルリカの顔を一筋の汗が伝った。
「もちろん違います。しかも彼らは、今ここにいます!」
悠真、ノノア、リーゼは固まった。
球体が彼らのところまで浮いてきた。
ルリカは口元に手を当て、咳払いした。
球体が悠真の前で止まった。
「こちらは、強大な不死の術者です」
悠真は口を開けた。
責任転嫁のスプーンがポケットの中で震えた。
次に、球体はノノアの方を向いた。
「こちらは王国一の隠密です。実際、あなたと話している間に、私のペンダントを盗みました」
ノノアは瞬きをした。
それから、自分の手を見た。
指の間に紫色のペンダントがあった。
「あ」
最後に、球体はリーゼの方を向いた。
「こちらの女性は……」
ルリカはしばらく考えた。
リーゼは背筋を伸ばした。目元の隈が、さらに目立っていた。
「王家の姫です。その力はあまりに強く、世界を救うために城を離れなければなりませんでした」
三人は非難するような顔をした。
球体が全員の上に浮かんだ。
「では、そのパーティのリーダーは誰ですか?」
ルリカは手を上げ、悠真を指さした。
責任転嫁のスプーンが彼のポケットから飛び出し、彼を指した。
悠真はスプーンを見た。
「お前は俺を破壊するためだけに生きてるのか?」
彼は二歩前に出た。
「これは止めるぞ。俺たちはそんな――」
悠真は、床が形を失うのを感じた。
黒い雲が木の床の下から出てきた。
ルリカを見ると、薄紫色だった彼女の目が、今はもっと暗くなっていた。マントの影が床の上で震えている。空の裂け目はゆっくり広がっていた。
悠真は姿勢を正した。
「そんなにすごくはないですよ、あはは。言いすぎです、うちの仲間が」
ルリカは満足そうに微笑んだ。
空の裂け目の半分が消えた。
そして扉の結界も解けた。
影の一部が球体の外へ出てきた。
長い髪を持つ人間の頭と肩の形を取る。
気温が下がった。
ノノアでさえ、ポケットを探る手を止めた。
「では、もう少しだけ時間をあげましょう。私を失望させないように」
(ん? 球体から出られるのか? だったら何で直接話しに来なかったんだ?)
ルリカは拳を握った。
「約束します、お母様」
影は球体の中へ戻った。
「見ていますからね。愛していますよ、我が娘」
ルリカは赤くなった。
「わ、私も……あ、あ、あ……愛しています」
空の裂け目が三倍に広がった。
突然、地震が起きた。
遠くで瓦が一枚落ちた。
ギルドの中で誰かが叫んだ。
「またかよ!」
球体の光が消えた。
その後に残ったのは、気まずい沈黙だった。
悠真がそれを破った。
「ルリカさん、これは無理だ。信じてほしい。全員をその話に乗せるのは、もっと無理だ」
その時、アルブレヒトが馬に乗って現れた。
彼は馬から、硬貨の詰まった袋を三つ下ろした。
リーゼの目が揺れた。
「分かりました。私は受け入れます」
ルリカは驚いた。
悠真は硬貨の袋から目を離せなかった。
アルブレヒトの後ろから、彼らが盗んだ荷車が近づいてきた。
そこには街の衛兵たちが乗っていた。
ノノアが震えた。
「私も受け入れる。冒険者なら罪が軽くなるから」
三人は悠真を見つめた。
「俺には受け入れる理由がない」
ルリカは彼に微笑んだ。
「私の母は、あなたが嘘をついたと知ったら、夢の中まであなたを追いかけます。そして、あなたが完全に破壊されたと確信するまで止まりません」
悠真は固く唾を飲み込んだ。
「でも受け入れるに決まってます。冒険の旅が嫌いな人間なんていませんから」
(俺の静かな生活が消えた)
四人はギルドのメインホールを横切った。
悠真はカウンターへ近づいた。
そこには、無垢そうな顔と異様に主張の強い胸を持つ女がいた。
(予想通りだな)
「どのようなご用件でしょうか?」
彼女は甘い声で尋ねた。
「俺たちはパーティを結成したい」




