第6話 ギルド
ノノアはギルドの裏手に荷車を止めた。
悠真とノノアは御者台に乗っていた。
「裏手って、本気か? 俺の初めてのギルド入場が裏口からになるのかよ」
悠真はがっかりして言った。
「悠真、見つからないためには用心しすぎるくらいでちょうどいいよ。厨房から入るの!」
荷車の中からリーゼの頭が出てきた。
「どうして見られてはいけないのか、分かりません。そんなに有名なのですか?」
悠真は、彼女の目元に濃くなっている隈に気づいたが、無視した。
「ええ……はい。いろんな魔物を倒してきました。でもあまり話したくないんです。かなり大変な経験だったので」
「ああ、承知しました」
(彼女がいい子すぎて、嘘をつくのが少しつらい)
三人は厨房から入った。
迎えたのは、湯気、焼いた肉の匂い、巨大な鍋、そして冒険者が間違った入口から入ってくることなど、よくある日常の一つだという顔で彼らを見る料理女だった。
ノノアは、犯罪的な自然さでそこを横切った。
悠真も真似しようとした。
二歩目でカブの入った籠を倒しかけて失敗した。
リーゼは料理女に丁寧に頭を下げた。
「通していただき、ありがとうございます」
「礼はいらないよ。何も壊さなければね」
次の扉は、メインホールへつながっていた。
そして悠真は立ち止まった。
長い木のテーブルが部屋を埋めていた。冒険者たちは食べ、飲み、報酬について言い争い、武器を磨き、傷跡を見せ合っている。奥には、依頼書で埋まった巨大な掲示板。壁には魔物の毛皮が吊るされていた。使い古された剣、壊れた盾、テーブルの上の木のジョッキ。
騒がしく、汚く、危なそうな連中でいっぱいで、彼がずっと想像していた通りの、ビールと汗と安っぽい夢の匂いがするギルドだった。
三人はメインホールを横切り、テーブルの間を進んだ。
悠真はかなり興奮していた。
「本物のギルドをこの目で見る日が来るとは思わなかった。想像通りだ」
テーブルの横を通った時、酔った大男が彼にぶつかった。
悠真は笑みを浮かべて男を見た。
(ああ、主人公に絡んでくる酔っぱらい冒険者だ)
男は怒った顔で悠真を見た。
(来い。全部ぶつけてこい)
「ぶるぁ……るぶと……お前……にゃ……誰……ぶるる……席……ぐるる……」
絡む意思はありそうだった。
中身は酒との戦闘で死んでいた。
数秒後、男は横に倒れた。
パーティの仲間たちに連れられ、店の外へ運ばれていった。
悠真は彼が消えていくのを見ていた。
(そういう展開のはずなのか)
ノノアが悠真の肩に腕を回した。
「そんなに落ち込まないで」
彼女は部屋の奥のカウンターを指さした。
悠真の目が輝いた。
「あれは……」
ノノアは誇らしげにうなずいた。
「強さを測る水晶だよ」
「本当に存在するのか?」
ノノアは少し考えた。
「私が覚えてる限り、ずっとあるよ」
(俺の本当の強さと、天上簒奪の力を知るチャンスだ)
悠真は水晶に近づいた。
カウンターの上には、透明で縦長の水晶が、金色の金属台に固定されていた。中では、小さな光の点が、水の中に閉じ込められた星のように浮いている。表面は滑らかで冷たかった。
「うんうん」
悠真は後ろを見た。
ノノアとリーゼが真剣な顔をしていた。
彼は誇りを飲み込んだ。
「はいはい、もちろん。女性からどうぞ」
苦労してそう言った。
ノノアが水晶に触れた。
ほとんど光らなかった。
(知ってた。こいつは役立たずだ)
それでも、ノノアは満足そうに笑った。
次にリーゼが触れた。
水晶はさらに色を変えなかった。
(同じくらい弱い。でも女としては宝石だ)
その時が来た。
(今だ!)
袖をまくった。
(俺の中にあるものを全部見せてみろ)
水晶に近づく。
触れた。
一秒間、何も起きなかった。
その後、水晶が震えた。
内部に赤い光が灯った。
続いて、青。
緑。
金。
紫。
色はあまりに速く回り始め、混ざり合って光の嵐になった。水晶は台座から浮き上がり、カウンターの上に漂った。周囲に小さな魔法陣が開く。空気が震えた。テーブルのジョッキが揺れた。依頼掲示板が壁に当たってがたがた鳴った。
悠真は心臓が喉まで上がってくるのを感じた。
(これだ)
水晶はさらに速く回った。
光は強くなった。
ギルド中が静まり返った。
水晶は、ガラスが泣いているみたいな細い音を立てた。
そして割れた。
輝く破片が空中へ散り、一瞬だけ宙に浮かび、色のついた雪のようにカウンターへ落ちた。
沈黙。
ギルド中が目をむいていた。
悠真は笑った。
テーブルの上に登った。
(今こそ俺が輝く瞬間だ)
「自己紹介させてもらおう。俺は凪原悠真。そう、今見たのが俺の破壊的な力、天上簒奪が水晶を破壊した瞬間だ。俺とパーティを組みたい者は、遠慮なく――」
何かがズボンに触れた。
「ん? どうした、ノノアさん? 俺が今、最高の瞬間を迎えているのが分からないのか?」
周りの連中はまだ静かで、口を開けたままだった。
ノノアが裾を引っぱった。
「悠真、この水晶は攻撃力を測るものだよ」
彼は胸に手を当てた。
「ああ、分かっている」
「攻撃力が高いほど、水晶は静かになって、何も起きなくなるの」
彼の表情が落ちた。
「理解した」
悠真はそれ以上何も言わずにテーブルから下りた。
床を見つめたまま、ホールを横切った。
カウンターにもたれかかる。
「お姉さん、一番強い酒を一杯ください。いや、二杯で」
ギルドの職員は破片を見た。
「水晶の代金もお支払いになりますか?」
悠真は動かなくなった。
「水をください」
リーゼが彼に近づいた。
「悠真殿、大丈夫ですか?」
悠真は妙な笑い方をした。
「俺? 大丈夫じゃない理由がありますか?」
「目が震えています」
「涙を止めるための日本の技術です」
ノノアが水晶の破片を一つ拾った。
「前向きに考えれば、これで君の攻撃力が歴史的悲劇だって分かったね」
「ありがとう、ノノアさん。まさに俺が必要としていた支援だ」
ギルドの正面扉が突然開いた。
男が一人、息を切らして入ってきた。
「警報! この一帯の空に黒い裂け目が開いている。やることは分かってるな。避難だ」
ホールの空気が一瞬で変わった。
椅子が床を擦った。
冒険者たちが立ち上がった。
職員たちはカウンターから書類を取り出し始めた。
悠真は眉をひそめた。
彼の横で、誰かがギルドを出ながら言った。
「ルリカさん、もう街に戻ってきたのかよ。だるいな」
(ん? 空の黒い裂け目? それ、何か覚えがあるぞ)
その時、彼はこの世界に来た直後のことを思い出した。
木。
血。
割れた空。
悠真は外へ走り出した。
「悠真殿、どこへ行くのですか?」
「確認したいことがある」
外に出た。
通りはほとんど空だった。
空では、黒い裂け目が屋根の上に開いていた。現実についた傷のように。風が看板を軋ませる。紙が通りを舞っていた。遠くでは、何人かの住人が、もうその災害を見慣れている者特有の疲れた自然さで窓を閉めていた。
そして、ギルドの軒先に、一人の少女が座っていた。
背中を向けて。
短い紫の髪。
大きな帽子。
黒いマント。
彼女の周囲では、小さな魔法陣が、生きたインクの水たまりのように地面で震えていた。
悠真は止まった。
疑いようがなかった。
あの、“普通の女の子”だった。




