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死にかけるたび仲間だけが最強になる俺の異世界逆チート 〜攻撃力ゼロなのに、残念美少女パーティの強化素材にされました〜  作者: KoiToHimitsu
第二章 レベル999の夢

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第19話 感情

靴音が、光輝の絵の間に響いていた。


壁の青い光が、彼女の黒いドレスと黒髪、そして完璧に整えられた表情を照らしていた。


悠真とリーゼは、布が外された絵の前に立っていた。


玉座に座る光輝。


空っぽの目。


足元の骸骨。


終止符の上の金色の王冠。


「使用人があなたをここへ寄越したのですか?」


苛立ちながら、リーゼが言った。


セリアは、二人から数歩のところで足を止めた。


「この絵に辿り着かないよう、無限廊下の術式を作るのに、ずいぶん手間がかかったのですが」


セリアは悠真を上から下まで見た。


「あなたの力量を見誤っていたようですね。高位魔法を通り抜けるとは」


悠真は笑った。


リーゼは非難するように彼を見ていた。


(そんな目で見ないでください、リーゼさん。本当じゃないけど、聞いてて気分はいいんです)


悠真は咳払いした。


「知性も魔法の一種ですから」


リーゼはセリアの前に立った。


二人は向かい合った。


銀がかった金髪の騎士は、一晩ぐっすり眠ったせいで、まだ美しく完璧だった。


黒衣の魔導師は、冷たく、優雅で、周囲の空気にまで命令が下されているかのようだった。


どちらも目を伏せなかった。


「なぜ、この絵と、このギャラリーを守っているのですか?」


セリアの目が見開かれた。


ほんの一瞬だけ。


「なぜ……? それは……」


彼女の声が途切れた。


セリアは、見えない痛みが頭の奥を貫いたかのように、片手を頭に当てた。


「私は……守って……」


言葉は出なかった。


ギャラリーの青い光が瞬いた。


壁の絵が震えた。


セリアは一歩下がった。


さらに、もう一歩。


そして、ついに膝をついた。


リーゼが半歩、前へ出た。


悠真は動けなかった。


セリアの表情は、内側からひび割れているように見えた。外側は冷たいままなのに、その下で苦しんでいるのが見えた。


「私は……」


彼女の影が、黒い鎖のように腕を這い上がった。


濃い紫の瞳から揺れが消えた。


呼吸が落ち着いた。


姿勢が正された。


セリアはゆっくりと立ち上がった。


再び二人を見た時、完璧な表情は戻っていた。


「あの方が、そう望んでいるからです」


リーゼと悠真は困惑した。


「あの方?」


鐘の音が、それを遮った。


音は屋敷中に広がっていった。


澄んでいた。


気高かった。


セリアは胸に手を当てた。


その顔が、清らかで、ほとんど自動的な幸福に照らされた。


「我らがご主人様が、また一つ戦いを終えてお帰りになりました」


悠真とリーゼには、それ以上、何も言えなかった。


セリアは背を向けた。


二人は彼女の後について、ギャラリーの出口へ向かった。


扉が開くと、エントランスホールには使用人たちが整列していた。


ルリカとノノアは、すでにエレノアとリリアのそばにいた。


ルリカは帽子を強く握っていた。


ノノアは両手をポケットに入れていた。


エレノアは完璧な姿勢を保っていた。


リリアは怯えたように、悠真とリーゼを見た。


「あなた方は、そこにいてはいけなかったはずです」


正面の扉が開いた。


リリアは、言いかけた言葉をその瞬間に忘れた。


「光輝様!」


光輝がホールへ入ってきた。


金色の鎧は、黒い血と戦いの埃で汚れていた。巨大な剣は背中に収まっている。髪は少しだけ乱れていた。


それでも、英雄譚の挿絵みたいに見えた。


ただ、顔だけが間違っていた。


誇りはなかった。


彼の目は、家具の数でも数えるように、全員を順に眺めた。


セリア、リリア、エレノアがすぐに近づいた。


「お帰りなさいませ、ご主人様」


「お怪我はありませんか?」


「何かご用意いたしましょうか?」


光輝は彼女たちの横を通り過ぎた。


「茶」


三人は半秒、誰も返事をしなかった。


それからリリアが、涙を浮かべて両手を胸に当てた。


「すぐにお茶をご用意いたします、ご主人様」


悠真は光輝を見つめていた。


(いつから、あんなに冷たくなったんだ?)


リリアに向かって笑おうとした。


「リリアさん、心配しないでください。たぶん、今日はかなり疲れた一日だったんですよ」


彼女の肩に手を置いた。


その瞬間、世界が変わった。


悠真は森を見た。


高い木々、太い根、濡れた葉の間から落ちる緑の光。


淡い髪色の女性が、誰かに向かって両腕を伸ばしているのを見た。


その顔は、別れを告げようとしている母親のようだった。


次に、青い本を見た。


閉じられていた。


白い鎖で縛られていた。


表紙には、花が描かれていた。


そして、背表紙には乾いた血がついていた。


その光景が消えた。


「大丈夫ですか、悠真様?」


悠真は怯えたようにリリアを見た。


「あ、はい」


彼女は微笑んでいた。


だが、その目は濡れていた。


全員で廊下を進み、茶室へ向かった。


部屋は広く、心地よかった。


大きなソファ、火の入った暖炉、濃い色の木でできた低いテーブル、そして屋敷の裏手へ向いた高い窓があった。火は静かにぱちぱちと鳴っていた。熱い茶の匂いに、花の香りが混じっている。


沈黙は気まずかった。


誰も話さなかった。


光輝は茶を飲んでいた。


リーゼは目に見えて不快そうだった。


光輝をじっと見つめていた。


(これはまずい。リーゼさん、落ち着いてください。でないと、俺たちが見たものに気づかれる)


光輝の目が彼女へ向いた。


顔は相変わらず美しく、若く、穏やかだった。


だが、その穏やかさには熱がなかった。


「何が不満なの?」


リーゼはすぐには答えなかった。


悠真は胃が沈むのを感じた。


(俺の夢の生活をここで終わらせるわけにはいかない)


周りを見た。


(何か考えろ。話題を変えろ。何でもいい)


窓際に立っているリリアが見えた。


彼女は屋敷の裏手にある森を見ていた。


悠真は考えるより先に口を開いた。


「リリアさん、森で育ったんですよね?」


その質問の重さに気づいたのは、遅すぎた。


リリアのカップが床に落ちた。


割れた。


茶が絨毯の上に広がった。


リリアは両手を口に当てた。


目が大きく開いた。


そして涙で満ちた。


「私……」


声が消えた。


指が震えた。


優しい笑みは戻らなかった。


「お母さん……」


二人の使用人が、彼女の後ろに現れた。


静かに。


素早く。


一人が彼女の肩を押さえた。


もう一人は、誰かが動くよりも早く、カップの破片を拾い集めた。


リリアは泣き始めた。


「お母さん……私……私……」


「リリア様には、少し落ち着いていただく必要がございます」


使用人の一人が言った。


声は丁寧だった。


彼らはリリアを部屋の外へ連れていった。


彼女はまだ泣いていたが、その声は廊下の中で少しずつ小さくなっていった。


「お母さん……」


扉が閉まった。


沈黙が戻った。


光輝は悠真の方を向いた。


無表情だった。


「今の質問は……」


立ち上がった。


部屋が狭くなったように感じた。


光輝が悠真へ近づいてきた。


その一歩一歩は静かだった。


重かった。


無視できなかった。


「……必要だったと思う?」


悠真は唾を飲み込もうとした。


喉は言うことを聞かなかった。

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