第18話 ギャラリー
リーゼは臆することなく、先に入った。
悠真は慎重に後に続いた。
振り返った時、使用人の女性は完全に消えていた。
廊下は暗く、冷たかった。
扉がひとりでに閉まった。
カチャ。
悠真はつま先から頭のてっぺんまで総毛立った。
「ええと、リーゼ様、はぐれないように手をつないでも悪くないかもしれませんね」
怯えながら、悠真は言った。
リーゼは彼を見た。
二人はさらに数歩進んだ。
カチリ、という音が聞こえた。
悠真は飛び上がりそうになった。
壁に光がともった。
次に、もう一つ。
さらに、もう一つ。
金属製の小さなランプの中に、青い炎が一つずつ現れ、廊下の奥へ進んでいった。
闇が後退した。
ギャラリーが姿を現した。
そこは巨大で、高く、長い廊下だった。暗い石の壁、擦り切れた赤い絨毯、そして両側に掛けられた何十枚もの絵。額縁は金色で、重々しかった。
すべての絵に、光輝が描かれていた。
一枚目では、光輝が小川のそばで、光る生き物の前にひざまずいていた。
悠真は目を細めた。
「それ、あいつが話してた話だ」
二枚目では、光輝が開けた空の下で金色の鎧を受け取っていた。
三枚目では、使用人たちが頭を下げる中、城の中を歩いていた。
四枚目では、群衆の前で剣を掲げていた。
悠真は見つめた。
「なるほど。家の装飾まで主人公モードかよ」
二人は進み続けた。
次の絵は、さらに大きかった。
巨大なオーガを一撃で倒す光輝。
空中で黒い竜を貫く光輝。
倒れた三体の魔王の前で微笑む光輝。
人々が感謝の涙を流す中、村を守る光輝。
すべてが壮麗だった。
すべてが腹立たしかった。
悠真は拳を握った。
(絵の中のあいつでさえ、生きてる俺より構図がいい)
その時、リーゼが一枚の絵の前で立ち止まった。
「これは起きたはずがありません」
悠真は絵を見た。
そこには、高い塔と緑の旗が並ぶ街を前に、白い橋の上に立つ光輝が描かれていた。奥には青い山々と、輝く海があった。人々は彼の周りでひざまずいている。
「どうしてですか?」
「光輝は、私たちに、この王国から一度も出たことがないと言っていました。この絵は、ここではない土地です」
悠真はまた、足先から頭のてっぺんまでぞっとした。
二人は進み続けた。
他にも絵があった。
見知らぬ王と握手する光輝。
図書室の地図には存在しない街で、花冠を受け取る光輝。
絵の具の中でまだ生きているように見える怪物の前に立つ光輝。
燃える平原に背を向ける光輝。
彼の笑顔は変わっていった。
最初の方の絵では、楽しそうだった。
次に、自信に満ちていた。
その次に、空っぽだった。
悠真は前を見た。
廊下の奥に、何かがあった。
他のどの絵よりも大きな絵。
突き当たりの壁をほとんど埋め尽くしていた。
額縁の端に留められた黒い布で覆われていた。
隠されているのに、それは二人を見ているようだった。
リーゼはその絵を見た。
「答えは、あそこにあります」
歩き出した。
その腕を何かが引いた。
悠真だった。
「リーゼさん、廊下の奥で黒い布がかけられた絵ですよ。絶対ろくなものじゃありません」
「ですが、知る必要があります」
「知らない方がいいこともあります」
リーゼは悠真を見た。
彼女の青い目が、ギャラリーの冷たい光の下で輝いていた。顔は穏やかで、美しく、一晩ぐっすり眠った後のせいで清潔すぎるほどだったが、そこには完璧なベッドにも消せなかった決意があった。
少しだけ頬を赤くした。
「悠真殿、もう少しだけ勇敢な殿方でいてくださってもよいのですよ」
その言葉が、彼の中で響いた。
勇敢な男。
勇敢な男。
勇敢な男。
悠真は胸いっぱいに息を吸い込んだ。
「はい、行きましょう!」
二人は廊下を進んだ。
奥の絵は、まだそこにあった。
大きく。
覆われて。
待っていた。
だが、何歩か進んだところで、悠真は気づいた。
距離が変わっていない。
歩き続けた。
新しい絵の横を通り過ぎた。
城壁の上で剣を掲げる光輝。
死んだ兵士たちの間を歩く光輝。
破れた旗を受け取る光輝。
無表情で空を見上げる光輝。
覆われた絵は、まったく同じ距離にあった。
リーゼも立ち止まった。
「悠真殿、これはおそらく……」
悠真は唇の前に指を立てた。
沈黙を求めた。
落ち着いた、大人の、守る者の表情を作ろうとした。
結果として、尊厳を保ちながら泣きそうな人間の顔になった。
「心配しないでください。これが何なのか、どう解決するのか、俺には正確に分かっています」
「ああ、安心しました。では、私たちは……」
悠真は最後まで言わせなかった。
すでにしゃがみ込み、床と壁を調べていた。
「分かりました」
立ち上がった。
「こういう状況は何度も見ています」
(漫画で)
ポケットから、細長い菓子を取り出した。薄い葉で包まれている。
朝食の珍味だった。
ルビー梅の菓子だった。
生地は黒っぽく、甘く、粘り気があり、砂糖漬けにした赤い果実でできていた。味は濃く、指を赤く染める。
「朝食の珍味を盗んでおいてよかった」
(待て、盗んだ? ノノアさんの影響が強すぎる)
ルビー梅の菓子を潰した。
それから壁に手をこすりつけ、赤い印を残した。
リーゼはその染みを見た。
「それはもう落ちませんね」
悠真は笑った。
「では、歩きましょう」
歩いた。
一分。
二分。
五分。
悠真はもう息を切らしていた。
廊下は同じままだった。
覆われた絵は、まだ遠かった。
悠真は壁を振り返った。
赤い印は消えていた。
「印が消えました。つまり、さっきの場所から抜け出したってことですかね?」
「悠真殿、私は、別の方法も……」
悠真はまた遮った。
息を切らしていた。
「大丈夫です。今のは成功するはずだった……でも、まだ別の方法があります。後ろ向きに歩けばループを破れます」
(これは成功するはずだ)
廊下に背を向けた。
両腕を広げ、自分を実際に殺そうとしてきたことのない物語から借りた自信に満ちて、後ろ向きに歩き始めた。
「見てください。コツは、空間に押しつけられた方向性を否定することです」
もう一歩下がった。
見えない何かに頭をぶつけた。
ゴン。
「痛っ!」
額を押さえながら、床に尻もちをついた。
リーゼは二歩前に出た。
「悠真殿。もう十分です。裏から行けます」
悠真は彼女を見た。
リーゼの横に、小さな扉があった。
簡素な木の扉。
手書きの札が掛かっていた。
職員専用。
悠真は動かなくなった。
(はぁ!?)
リーゼが扉を開けた。
向こう側には、普通の廊下があった。
短い。
汚い。
狭い。
バケツ、箒、蝋燭の箱、畳まれた布でいっぱいで、安い蝋の匂いがした。
悠真は見つめた。
「空間異常に職員用入口があるんですか?」
「そのようですね」
「この世界、相変わらずプログラムが雑だな」
二人は職員用の廊下を進んだ。
床板がきしんだ。
バケツから水が滴っていた。
奥には、もう一つ扉があった。
リーゼがそれを開けた。
向こう側にあったのは、ギャラリーの突き当たりだった。
悠真とリーゼは、巨大な絵の前に現れた。
黒い布は、風もないのにかすかに揺れていた。
「さて、リーゼさん、この絵を見る前に、考える必要があります。この部屋が何を明かすのか。未来か? 過去か? 絶対に起きないことか? これは、いわゆる転換点の一つで……」
悠真は前を見た。
リーゼはもう布を引いていた。
布が床に落ちた。
絵が現れた。
悠真は反応できなくなった。
群衆はなかった。
光もなかった。
勝利もなかった。
光輝は黒い玉座に座っていた。
金色の鎧はまだ身につけていたが、輝きはなかった。巨大な剣は傍らにあり、裁きのように床へ突き刺さっていた。彼の顔は正面を向いていた。
目は空っぽだった。
冷たく見開かれていた。
喜びもなく。
恐れもなく。
後悔もなく。
足元には、骸骨が散らばっていた。
何十体も。
何百体も。
中には割れた王冠をまだ身につけているものもあった。錆びた武器を握っているものもあった。死ぬ前に懇願したかのように、玉座へ向かって手を伸ばしているものもあった。
光輝の背後、絵の奥には、ルミナリア邸が見えていた。
だが、窓は黒かった。
そして、描かれた空の最上部には、金色の王冠が、小さな終止符の上に浮かんでいた。
悠真は喉が乾くのを感じた。
「これは……」
遠くの足音に遮られた。
コツ。
コツ。
コツ。
靴音が、ギャラリーに響いた。
廊下の入口に、セリアが立っていた。
黒をまとっていた。
表情は真剣だった。
濃い紫の目は、まず床に落ちた布へ向けられた。
次に、絵へ。
最後に、悠真とリーゼへ。
セリアは二人の方へ歩き始めた。
コツ。
コツ。
コツ。




