第17話 扉
悠真は、まぶしい太陽に顔を叩かれて目を覚ました。
洗いたてのシーツの中で伸びをした。
風呂へ向かった。
湯加減は完璧だった。
湯気がゆっくりと立ち上り、白い石には小さな水滴が光っていた。沈黙はあまりにも快適で、悠真はこの世界のすべてを、もう少しで許すところだった。
湯船の縁にもたれ、目を閉じて、長いため息をついた。
「ああ……これこそ人生だ……」
その時、音がした。
カチャ。
悠真は目を開けた。
魂が体から抜け出し、状況を確認した。
「誰だ?」
本能だけで両手を胸の前に当てながら振り向いた。そんなことで評判を守れるはずもないのに。
カチャ。
湯気の向こう側で、小さな扉が揺れていた。
ただ閉まりきっていないだけで、風に押されているらしい。
悠真はそれを見つめていた。
それから、鼻先まで湯に沈んだ。
「なるほど。混浴トラウマ。素晴らしい」
しばらくして、彼はもう服を着た状態で部屋を出て、幸せそうに鼻歌を歌いながら廊下を歩いていた。
髪はまだ湿っていた。
シャツからは洗いたての服の匂いがした。
(図書室で新しい本を探そう)
図書室の扉を開けた。
遠くに、テーブルに座っている人影が見えた。
「ルリカさん、何か進展はありましたか?」
近づいて、気づいた。
いつもルリカがいる場所にいたのは、別の人物だった。
リーゼ。
悠真は気づかれないように、彼女の横を通り過ぎようとした。
彼女は彼を見ずに言った。
「悠真殿、昨日の問題を無視されるとは思っていませんでした」
悠真は止まった。
リーゼがようやく彼を見た。
そして悠真は反応できなくなった。
銀がかった金髪が、まっすぐ肩へ落ちていた。肌は明るく輝いていた。隈は消えていた。青い目は柔らかかった。
「リーゼさん、その姿……」
彼女は不機嫌そうな顔をしようとした。
失敗した。
怒っている人間にしては、あまりにも優雅に髪を一房いじった。
「はい……昨日、調査のあと、いつものように夜を過ごすため厩舎へ行きました。二分ほど目を閉じたら、部屋のベッドへ運ばれていました。目が覚めたのは今朝です。ひどい話でしょう?」
「ああ、そうですね」
悠真は棚から本を一冊取り、出口へ向かってゆっくり歩き始めた。
額を汗が一筋伝っていた。
「私の計画を知りたくはないのですか?」
悠真は両手を頭の後ろで組んだ。
「いや、昨日はパニックになりましたけど、もしかすると……ここに閉じ込められてるのも、そこまで悪くないのかもしれませんね」
リーゼは悠真の腕をつかんだ。
「悠真殿、私と一緒に来ていただきます」
彼は抵抗しようとした。
「嫌です」
「ふむ……では、その場合、私たちが追い出されるほどの騒ぎを起こすべきかもしれません」
悠真は震えた。
(脅迫? 彼女から?)
深く息を吸った。
「分かった。で、何を見つけたんですか?」
リーゼは優しく微笑んだ。
「行きましょう!」
二人は図書室を出た。
屋敷の廊下は、いつものように清潔だった。
赤い絨毯、高い窓、静かな使用人たち、新鮮な花の匂い。
メインホールの二重階段を下りた。
入口は光の結晶の下で輝いていた。
出口の大扉は、二人の前にあった。堂々としていて、明るく、こちらを誘っているようだった。
悠真はため息をついた。
「リーゼさん、出ようとしたらまた……」
リーゼは左へ二歩動いた。
悠真はその動きを目で追った。
そして見た。
正面入口のすぐ横に、巨大な扉があった。
高く、黒く、幅の狭い扉で、金色の縁取りと、木に刻まれた紋様があった。中央には、王冠の形をした丸いドアノブがついている。ホールの他の部分とは合っていなかった。屋敷そのものよりも古く見えた。
悠真は動けなくなった。
「ん? この扉、ずっとここにありました?」
リーゼは呆れた目で悠真を見た。
「この屋敷に来た初日に、私はこの扉のことを皆さんに話しました」
悠真の記憶が、最初の日へ戻った。
食堂で、リーゼは全員に話していた。
「皆さん、あの扉には何かおかしなところがあると思うのですが……」
記憶の中で、彼女の声がくぐもり始めた。
その時の悠真は、彼女の銀がかった金髪を見ていた。
(どんなシャンプー使ってるんだろう。待て、この中世っぽい時代にシャンプーって存在するのか? 彼女は絶対に髪の匂いを嗅がせてくれないだろうけど……)
リーゼは話し続けていた。
「調べるべきだと思います。なぜなら……」
残りはさらにくぐもった。
ルリカは、自分がカップの上に開けてしまっている小さな裂け目を見ていた。
ノノアは、リーゼの剣を一センチずつ盗もうとしていた。
その頃の悠真は、今度は枕のことを考えていた。
誰も話を聞いていなかった。
そこで記憶は途切れた。
悠真は扉の前にいるリーゼを見た。
「何も覚えてません。もしかすると、屋敷が俺の記憶の一部を消したのかもしれません」
リーゼはうなずき、ドアノブに手を置いた。
数秒で、使用人の女性が現れた。
「リーゼ様、今夜のために、ざらざらした石でできたベッドをご用意しております」
リーゼの目が輝いた。
口が開きかけた。
止まった。
数秒の間、彼女の内なる戦いが目に見えた。
ざらざらした石。
最悪の寝心地。
悠真には、彼女の魂の二つの部分が殴り合っている音が聞こえそうだった。
やがて、リーゼは深く息を吸い、もう一度話した。
「失礼ですが、あなた方は私たちの望みをすべて叶えるためにここにいるのですよね?」
使用人の女性は微笑んだ。
「はい、もちろんでございます、リーゼ様」
「では、私の最大の望みは、あの扉をくぐり、中に何があるのか見ることです」
使用人の女性の笑みが、ほんの一瞬だけ消えた。
わずかだった。
ほとんど分からないほどだった。
彼女の目がドアノブへ逸れた。
それから、リーゼと悠真へ移った。
声色が違っていた。
「かしこまりました、リーゼ様」
彼女は、その扉のドアノブに手をかけた。
回した。
そして、開けた。




