タスク処理
地下水道にやってきた。
中は暗く湿度が高い。
「光魔法Lv1《シャイン》」
手から閃光が放たれる前に《魔力操作》で体を発光させる。
これで常時灯りがある状態になった。
報告書に書かれた項目にチェックを入れていき、備考欄に詳細を書き込んでいく。
元世界の仕事が活きる。
しばらく歩いているとスライムの群れを発見した。
「《鑑定》」
個体名:スライム
強さ:F
「光魔法Lv2 《ライトボム》」
光の楕円が発射され周囲のスライムが消滅する。
地面に残った魔石を袋に入れ、更に歩く。
奥に行けば行くほどきつい匂いがする。
そこには大きなネズミの集団がいた。
「《鑑定》」
個体名:マッドマウス
強さ:E
ネズミの集団の奥には更に大きなネズミがいた。どうやらあれが親玉のようだ。
1匹のネズミがこちらに気づく。
「キキィ〜〜」
その鳴き声が伝播し他のネズミもこちらを向く。
「光魔法Lv1 《シャイン》」
《魔力操作》で強化された閃光が弾ける。
「光魔法Lv2《ライトボム》」
続けざまに光の楕円を拡散させ集団を一網打尽にした。
『光魔法がLv3になりました。《ライトアロー》、《ライトスラッシュ》、《サモン:ライトフェアリー》を習得しました。』
無機質なアナウンスが聞こえている間に親分ネズミがこちらに突進してくる。
「光魔法Lv3《ライトアロー》」
1本の光矢が目の前に現れ、親分ネズミ目掛けて直進する。
光矢は親玉を貫通し親玉は動かなくなった。
「......光魔法Lv3《ライトスラッシュ》」
唱えると右腕が光った。
そのまま縦に振り下ろすと光の軌跡が描かれた。
俺はそのまま素材回収に移る。解体が完了したところで中断する。
「光魔法Lv3《サモン:ライトフェアリー》」
目の前に光の妖精が現れる。
「素材を回収して袋に入れてくれ。」
妖精は命令を理解したのか解体後の素材を袋に入れていく。
あっという間に素材が回収され袋がいっぱいになる。
「《帰還》」
一言呟くと光の妖精は一瞬にして消えた。
俺は他に何もいない事を確認するとそのままギルドへ戻った。
「カイさんお疲れ様です。報告書を拝見しました。スライムはいると思っていましたが、マッドマウスの集団とその群れのリーダーの討伐、こちらは大変ありがたい報告です。」
地下水道は不人気依頼と化してしばらく立ち入られていなかったようだ。
「基本報酬より追加報酬の方が多くなってしまいましたがこれで依頼完了となります!お疲れ様でした!」
銀貨3枚を受け取る。
明日までまだまだ時間があるな。
俺は寝るまで依頼をこなし続け今日達成した依頼は6になった。
そして翌日、明朝。
宿を出て門の前へ向かう。そこには既に商人が待機しており、俺の他にも先客の冒険者がいるようだった。
「おお、あなたが冒険者のカイ殿ですかな?」
恰幅の良い商人が声をかけてくる。短く頷いた。
「ギルドから受注された冒険者の方々はこれで揃いましたので、依頼開始となります」
商人が荷馬車を引く。俺たちはそれを囲うように歩き出した。
数時間歩いては休憩を挟む、という工程を繰り返し、初日は終了した。翌日もそれの繰り返し。
そして、さらに翌日。
「皆様、今日で着きそうです。このまま何も無ければ良いのですが……」
商人が不安げな顔で呟く。
「何かあるんですか?」
別の冒険者が尋ねると、商人は眉をひそめた。
「はい……。実は最近、この辺りで魔物が活発化しているという情報がありまして」
荷馬車が襲われる被害や、冒険者が襲撃される事件が多発しているらしい。
「大丈夫だ。俺たちはDランクパーティの『嵐斬』という」
俺以外の冒険者たちが頷き、自己紹介を始めた。大剣使いのガルガ、シーフのトア、魔法使いのセリカ、治癒術使いのミルの四人だ。
「そしてお前さんが、最近噂の新人らしいな」
リーダーのガルガが、歩きながらこちらに視線を向けてくる。
「……?」
噂。何のことだろうか。
「知らないのか? わずか一日でEに上がって、その後も不人気な依頼を片っ端から受け続ける冒険者がいるってな」
地下水道の依頼は不人気だと聞いていたが、それ以外にもあったとは。
「依頼の裏側の情報は、特に見ていなかったので」
そう返すと、ガルガは驚いたような顔をした。
「たまたまってことか? だがお前さんがいなかったら、あの依頼はずっと放置されてたよ。ありがとな」
「いえ」
冒険者パーティは商人の方へと向き直る。
「そういう訳だ、だから安心してくれ」
商人はホッとしたような表情を浮かべた。
「ありがたい限りです」
一行の運搬はその後も続いた。だが──、
「──待て」
リーダーのガルガが手で制止を促す。
「この先に、何かがいる」
俺は《魔力操作》を用い、前方空気中の魔力を意図的に歪ませて、そこに潜伏している『何か』を誘い出した。
「ギッギギギッ!」
茂みから飛び出してきたのは、ゴブリンが数体。さらにそれを合図にするように、左右の藪から十数体のゴブリンが這い出てきた。
「囲まれたか」
「こんな数、ありえない……!」
パーティの誰かが悲鳴混じりに呟く。
「皆、戦闘準備!」
「俺は馬車を守る」
俺が一言呟くと、彼らは抜刀して臨戦態勢に移った。ガルガの怒号とともに、戦闘が始まる。
「おおおおおっ!」
ガルガが大剣を振るい、突っ込んできたゴブリンの首を豪快に撥ね飛ばす。
「遅ぇよ!」
トアが鋭い踏み込みで双剣を振るい、別の二匹の胸標を正確に切り裂いた。
手際は悪くない。流石は一つ上のランクの冒険者だ。
後方からはセリカが呪文を唱え、火球を放ってさらに二匹を爆破する。ミルも怯えながらも、前衛の二人に防御の支援魔法を付与していた。
だが、敵の数が多すぎた。
「キキィ!」「ギギィッ!」
ゴブリンたちは仲間の死体など気にも留めず、数の暴力で四方八方から一斉に群がってくる。
一匹を斬れば、その影から二匹が飛び出してくる波状攻撃。大剣という大振りの武器を使うガルガは、次第に手数が足りなくなり、取り回しが遅れ始めていた。
「くそっ、キリがねえ! どこから湧いてきやがる!」
「ガルガ、後ろ! ──うわっ!?」
トアが叫んだ瞬間、別の草むらから飛び出してきたゴブリンが、トアの太ももを錆びた短剣で深く切り裂いた。鮮血が飛び散り、トアが膝をつく。
「トア! ──光の妖精よ、癒し──」
後方からミルが慌てて回復魔法を唱えようとするが、その呪文の隙を狙って、三匹のゴブリンが後衛のセリカとミルへと直接躍りかかった。
「キャアアアッ!?」
「しまっ──、魔法が間に合わ──」
完全に防衛線が崩壊した。
前衛のガルガは群がるゴブリンの対処で身動きが取れず、後衛の二人は完全に無防備な状態で牙を剥く魔物に迫られている。完全に、数の暴力に押し潰される一歩手前だった。
「……支援魔法Lv1《敏捷強化》」
身体が淡い光を帯びると同時に、俺は地面を蹴る。ガルガたちの目には、俺の姿が文字通り「消えた」ように映ったはずだ。
後衛のセリカとミル、その首筋にゴブリンの錆びたナイフが届く、まさに直前。
「光魔法Lv3《ライトスラッシュ》」
右腕に高密度の光刃を纏わせ、疾走の勢いのまま水平に一閃する。
肉を断つ手応えすら無かった。セリカたちの目の前に迫っていた三匹のゴブリンの首が、一瞬で綺麗に宙を舞う。
「え……?」
悲鳴すら上げられずに固まる二人の前を通り過ぎ、そのまま前衛のガルガたちが囲まれている密集地帯へと踏み込んだ。
「ギチッ!?」
突然背後に現れた俺に気付き、振り返ろうとしたゴブリンの脳頭部へ、容赦なく左手をかざす。
「光魔法Lv2《ライトボム》」
ゼロ距離での炸裂。
爆発的な光がゴブリンの頭部を消し飛ばし、その風圧だけで周囲の三匹を吹き飛ばした。
「なっ……!」
乱入してきた俺の姿にガルガが驚愕の声を上げるが、俺はそれに答えるリソースすら惜しい。ただ目の前の敵を排除するタスクを遂行するだけだ。
「光魔法Lv3《ライトアロー》」
残る五匹のゴブリンに向け、脳内でマルチロックオンをかけるように照準を合わせる。俺の周囲に展開された五本の光の矢が、鋭い風切り音とともに一斉に射出された。
ドス、ドス、ドス、ドス、ドス。
逃げようと背を向けた個体も含め、すべてのゴブリンの延髄を正確に光矢が貫通する。
数秒前まで街道を埋め尽くしていた緑色の肌は、一瞬にして一匹残らず物言わぬ死体へと変わった。
『嵐斬』のメンバーは呆然としている。自分たちがなんとか数体を倒している間に、Eランクの新人が十体以上を一瞬で片付けたのだ。
「……」
「あんた……何者だ?」
ガルガが掠れた声でそう溢す。
「あなた達と同じただの冒険者だが」
「いや、そうだけど、そうじゃねぇだろ……」
ガルガは頭をボリボリと掻きながら溜息を吐いた。
「……いや、いい。まずはゴブリンの素材回収が先だ」
彼らが戸惑いを隠せないまま、黙々と死体の解体を始める。数分で、全ての素材と魔石が手に入った。
「ほら。これはお前さんの取り分だ」
ガルガが差し出してきた袋は、彼らのものより圧倒的に分厚かった。
「自分は均等で大丈夫です」
俺はそう断ったが、ガルガは引かなかった。
「命を助けてもらったのに、素材まで均等は図々しすぎる。貰ってくれ、頼む」
四人が揃って頭を下げる。
「........わかりました。受け取ります」
袋を受け取り、代わりに彼らに向けて手をかざした。手首の先から、淡く優しい光が放射される。
「回復魔法Lv1《ヒール》」
戦闘で負っていたトアの裂傷や全員の打撲が、
じわじわと、しかし確実に塞がっていく。
「礼は要りません。これでおあいこです」
貸し借りは作らない性分だ。
「すまねぇな。……じゃあ、このまま行くか!」
俺たちは再び馬車の護衛を開始した。
その後は何事もなく目的地である隣街に到着し、商人から銀貨6枚が手渡される。
「3枚では?」
俺がそう確認すると、商人は首を横に振った。
「あなた方の迅速な助力により、無傷でこの街道を渡りきれました。その気持ちです。どうか受け取ってください」
商人は俺たちに深々と頭を下げ、街の中へと消えていった。
「俺たちはこの街でゆっくりする。お前は?」
ガルガがじっと俺を見る。何か言いたげな目だ。
「いえ、ギルドに戻って報告をします。街道にゴブリンが出るのは知っていたので、関連の依頼を事前に受けています」
ガルガが最後に、本日一番の驚愕の表情を浮かべた。
「よくやるな、本当に。こりゃ、とんでもねぇ新星だな」
ガハハ! と豪快に笑い、四人は街の奥へと歩き出す。俺もその背に踵を返し、来た道を戻り始めた。
帰り道も何事も起きなかったため、あらかじめ往路の段階で目を付けておいた、張り出されている他の依頼に必要な薬草などを片っ端から摘んで帰った。
本拠地のギルドへ帰り、受付に依頼書の束をドンと出す。
「これ、全部依頼達成の書類ですか!?」
ミラが目を丸くし、依頼書をペラペラと捲る。
「はい。素材はここに纏めてあります。報酬はいつも通り口座に振り込んでおいてください。」
依頼ごとに小分けされた素材袋をカウンターへ置き、俺はそのまま宿へと戻った。
食事を摂り、ベッドに入る。
翌日、ギルドが「カイ」という不気味な新人の噂一色で塗り潰されることになるのを、彼はまだ知らない──。
カイとミルの詠唱形態が違いますが誤りではありません。




