秘密の部屋
集まってきた人達の服装はバラバラだった。
エンフェルトが言っていた通りだ。
でも入ってきた順に規則正しく一列に並び、僕にコップを差し出す。
「ステラ、でかした!」
「でっしょー!優が一緒になって、団長を説得してくれたおかげです!」
最後に並んだステラは、折り返して帰っていく人達にもてはやされていた。
もちろん、僕にだってお礼は言ってくれる。
でも、ステラみたいにくだけた言い方の方が嬉しいだろうなって思った。
「じゃ、最後は私ですね!お願いします!」
「はい、お水だよ。…僕もステラって呼んでいい?」
「もちろんいいですよ!」
ステラも名前で呼ぶことを許してくれた。
ステラはコップに並々注いだ水が零れない様に一口飲み、慎重に部屋を出て行った。
「皆、今度は部屋でゆっくり飲むんだろうね」
「エンフェルトの分はどうする?」
「私にもまたくれるの?
そうね、なら城の案内が終わったら貰おうかな?」
「わかった!」
「身体に疲れや、違和感はない?」
「ない!次は何処に案内してくれるの?」
「優はほんとに元気だね。さて、何処から行こうかな」
エンフェルトは食堂を立ち去る前に、
僕が食べた物と同じような乾パンを包んでポケットに入れた。
「優のおかげで久々に良い物が食べられる」
「乾パン、好きなの?」
「好きっていうか、残ってる物の中で大分マシだよ。
でも、水が無いと飲み込めないから食べられなかった」
「他には何を食べるの?」
「塩辛い干し肉を少しと、石みたいに硬いパンの組み合わせが多いね。
少ない唾液を出して、ゆっくり柔らかくして食べるんだ。
後は…痛んだ芋を焼いて齧ったり」
美味しくなさそうなメニューを聞きながら食堂を出た。
再びエンフェルトと二人で城の中を歩く。
僕が高い所が見たいと希望を言うと、エンフェルトはすぐに階段を上がった。
長い階段を上がると、外が良く見える渡り廊下に着く。
「わぁ!すごく広いね!」
「間違っても落ちない様に、手を繋ごうか」
空を見れば暗雲が立ち込めているし、此処から見える全ての草木は枯れている。
この城以外、無事な建物は一切ないし、
ところどころ、毒沼のような紫色の水溜まりもある。
それでも、地平線まで見える此処からの景色は気に入った。
「寂しい場所でしょ?」
「僕、気に入った!僕の部屋は高い所がいいな」
「…ふふ…優はこんなところでも楽しそうだね。
でも、高い所にある部屋か…」
エンフェルトは少し考えこみ、僕の手を引いて歩き出した。
渡り廊下を越えてさらに歩き、、最後に螺旋階段を上がる。
そこに、今までの大聖堂や食堂の扉と違った、飾り気のない小さな扉が現れた。
「此処が城で一番高い部屋だね。
ベッドと、机と、窓しかない。一番高いけど、一番小さな部屋」
城の一番端っこで、一番高い場所。
秘密基地みたいで、僕は一目で気に入った。
「僕、この部屋がいい」
「そう言うと思ったけど、此処はダメ。
夜は真っ暗になるし、階段は急で足を滑らせたら大変だからね」
「…そっか…」
「でも、私と一緒ならいつ来てもいいよ」
「ほんと!?なら二人だけの秘密の部屋だね!」
「…ふふ、それはいいね」
この部屋を僕の部屋にすることはできなかったけど、
僕とエンフェルトの、二人の部屋になった。
今度来るときは掃除をしようと約束し、階段を降りる。
上がる時は平気だったけど、確かに下る時は急で怖いかもしれない。
「そろそろ優が寝泊まりする部屋を決めようか」
「エンフェルトのおすすめの場所とかある?」
「ん~、トイレの近くとか?
優は夜、暗い中で一人でトイレに行ける?」
「あ~…」
今まで歩いてきた廊下を思い出す。
あの廊下が真っ暗になったとして、僕は一人で歩けるかな。
正直、ちょっとだけ自信がない。
「…慣れたら、平気かな…?」
「なら慣れるまで私と同じ部屋で寝る?
広いから、ベッドを二つ置いても平気だよ」
「いいの?…なら、そうする」
強がってみたけど、正直ほっとした。
よく考えてみれば、知らない静かな場所で、一人で寝るのもちょっと怖い。
「夜中にトイレに行きたくなったら、私を起こしていいからね」
「…ありがとう…」
「素直で良い子。何でも正直に言っていいから」
僕が何を考えているか、エンフェルトには筒抜けなのかもしれない。
そんな話をしながら、寄り道せずに食堂の近くまで戻ってきた。
聞けば皆、だいたいこの辺りの部屋に住んでいるらしい。
肝心のエンフェルトの部屋は、此処より大聖堂寄りみたい。
「ステラに頼んでベッドを運ぶの手伝ってもらおう」
食堂から一番近い部屋の扉を叩く。
すると、すぐにステラの声が中から聞こえた。
「はーい!…あれ?また団長と優じゃないですか。
お水、美味しく頂いてます!」
「ステラも食事中だったか。なら、また後で来る」
「いえいえお気になさらず。お水は逃げないですからね」
二人が話してる間に部屋を覗き見る。
テーブルを見れば、ステラも乾パンを広げていた。
その隣に、僕が水を入れたコップ。
どうやらタイミングは悪かったみたい。
「私の部屋に空いてるベッドを移動したいんだ」
「わかりました!手伝います!」
それでもステラは笑顔で手伝ってくれた。
いくつかの部屋を探し、一番綺麗なベッドを選び、
エンフェルトの部屋に運び入れる。
「優は団長と一緒の部屋で寝るんですね」
「城に慣れるまで一人だと大変だろう?
何処に何があるか、誰が居るかもわからないんだから」
「確かに!優、私の部屋は覚えました?
何か困ったらいつでも呼んでくださいね!」
運び入れたベッドを何処に置くか悩んだ末、エンフェルトのベッドの隣に置いた。
エンフェルトのベッドは僕のベッドの何倍も大きく、王様が寝るベッドのようだ。
それがちょっと羨ましい。
そんな僕の視線に気づいたのか、ステラが一緒に寝たらと言い出した。
「隣に置くなら一緒のベッドで寝ればよくないです?
まだ子供だから、何か間違いが起こるわけでもないですし…」
「僕、子供じゃないもん」
「はいはい、そうだね~。
なんなら、お姉ちゃんが一緒に寝てあげよっか?」
自分の事を大人だとは思ってないけど、子供って言われると否定したくなった。
それを軽くあしらわれた後、
エンフェルトがステラを手招きし、耳打ちで何かを言った。
「…お前、私達が何日身体を拭いてないと思う?
一緒に寝て、もし優に臭いと思われたらどうする?」
「…あ~…」
「…匂いの思い出は、記憶にこびりついてずっと忘れない。
そういえばステラは臭かったなと、一生思い出されるんだぞ」
「…優!さっきの言葉は取り消して、一緒に寝てあげられません!」
「えーっ!急になんで!」
「男女が一緒に寝て、何か間違いがあったら困るからです!
子供じゃないんですから弁えてください!」
「また子供だもん!」
さっきと違う事を言ってる気がするけど、つい言い返したくなる。
でも、嫌な感じはしないというか、どちらかと言えばすごく楽しい。
ステラも同じ気持ちなのか、口調は怒りつつも笑っているし、
エンフェルトも楽しそうに微笑んでいた。
…。




