宣誓
目が覚めるとエンフェルトの部屋だった。
エンフェルトは隣で寝ていて、なぜか下着姿だ。
風邪を引かないように布団を掛けようと思った。
でも、休んでいただけで起きていたみたいだ。
「…起きた?おはよう、優」
「エンフェルトはどうして下着なの?」
「何度も着替えさせられて、服が嫌いになった」
「あはは、なにそれ」
「ステラの奴に何度も何度も試着させられて…はぁー…。
…この城に来てから、一番疲れた…」
エンフェルトはまだドレスは決まってないけど、逃げてきたって言った。
それでこの部屋に戻ってくる最中、僕を運ぶミリーと出くわしたそうだ。
「ステラが来たら、私は居ないって言ってくれる?」
「わかった!」
「お願いね」
その直後、廊下から足音が響いてきた。
エンフェルトと一緒に息を呑み、
身構えているとやっぱりステラだった。
「団長!開けてください!」
「ステラ!エンフェルトは居ないよ!」
「優!?…じゃ、優が一人で鍵を掛けて部屋に居るの?」
「…そ、そうだよ…?」
「ふぅーん。じゃ、開けられるよね?」
「…今は無理…」
「…私に、会いたくないんだ…」
「ち、違うよ!そうじゃなくて…」
「…。」
「待ってステラ!泣かないで!」
途中から返事がないから泣いたんだと思った。
急いで鍵を解除して扉を開く。
そこに待っていたのは、満面の笑みのステラだった。
「心配してくれた?」
「…あれ?」
「優も甘いね~。
…団長!優をだしにつかって隠れようとしても無駄…
…なんで下着なんですか!優と何してたんですか!」
「優~私を守って~…」
エンフェルトは布団の中へと逃げ込み、ステラはそれを剥ごうとしてる。
僕は必死になって下着姿の理由を説明し、
なんとか手を止めてもらった。
「…まぁ、団長が逃げてから時間が経ってないし、信じますけどね」
「今日はエンフェルトを許してくれる?」
「優がそこまで言うなら、今日は見逃してあげます」
「よかった」
「でも団長?明日は朝からドレス選びをしますからね?優の為ですよ?」
「…んー…」
「まったくもう、オフの時の団長はだらしないんだから…」
その日はエンフェルトを許してもらう代わりに、ステラの手伝いを沢山した。
掃除に洗濯、食事の準備。
ステラはほとんど休みなく仕事をしているように感じる。
「ステラ、毎日こんなに忙しいの?」
「まぁだいたいこんなもんかな?」
「大変だね。僕、明日も手伝うよ」
「ありがと。でも忙しいけど、とっても楽しいんだよ?
前はさ、何にもする事がなかったから」
ステラは僕が来る前の生活を少しだけ話をしてくれた。
水がほとんど手に入らず、生きるのもぎりぎり。
自分の身体も満足に洗えない以前の問題。
出来るだけ眠って過ごし、体力を維持する日々。
それがどんなに空しく、辛い時間だったかを教えてくれた。
「だからどんなに忙しくても幸せなんだ。
全部ね、優のおかげ」
「皆の役に立てて嬉しい」
「ほんと、優は神様みたいな人だよ。
一生かけても恩は返しきれないけど…、
いつでも、して欲しい事があったら何でも言ってね」
「今日も本読んでくれる?」
「ふふ、もちろんいいよ」
「あ!後、紅茶飲みたい!」
「いいね。食堂で休憩しよっか。
…団長も誘ってあげようかな?」
部屋で眠っていたエンフェルトも誘い、例の紅茶を淹れてもらった。
元の味とはかなり違うらしいけど、僕はこの味が好きだ。
そして意外にも乾パンとの相性が良くて、おやつとして食べる事が増えた。
「これ、あんまり他の皆は飲まないね」
「色がちょっとねー。
皆、濁った水に嫌な思い出があるから」
「そうなの?」
「だから多分、皆は透明な水が一番好きなんだと思うよ」
「ステラも水の方が好き?」
「もちろん水は好き。
でも、これだって優の水から作ったんだから好きだよ」
この紅茶は一度、ステラが皆に振舞った。
でも反応はまちまちで、あれから飲んでない人も多い。
むしろ、この三人以外で紅茶を好んで飲むのはイザベルくらいだ。
今日もイザベルを誘ったけど、今は忙しいらしい。
婚姻の宣誓書や、それに伴う家名の変更の書類を全員分書くようだ。
エンフェルトは無くてもいいと伝えたけど、
できるだけ正式な形で行いたいと、イザベルたっての願いだった。
「優。イザベルに紅茶を運んであげてくれる?
ついでに乾パンも」
「わかった!」
「え、優を一人で行かせるんです?」
「すぐそこだからね。
イザベルへのちょっとした労いも兼ねてな」
「行ってくる!」
トレイに紅茶入りのポットと乾パンを乗せて食堂を出た。
零さないように慎重に歩き、イザベルの部屋の前で立ち止まる。
バランスを保ちながら、なんとか片手で扉を叩く。
イザベルはすぐに扉を開けて、部屋に招き入れてくれた。
「まさか持ってきてくださるなんて。
お手を煩わせてすみません」
「イザベル忙しい?」
「いえ、そこまでじゃないんです。
けれど、終わり間際だったので、最後までやってしまおうかなと」
机の上にある紙を見ると、上から下までびっしりと書かれていた。
僕はこっちの世界の文字は読めなかったけど、とても綺麗な字に見える。
イザベルはポットから紅茶を注ぎ、一息ついた。
「…ふぅ。優様もお飲みになりますか?」
「ちょっとだけ頂戴」
「ではコップを…あら?」
「あっ!向こうに忘れちゃった」
「では、優様が良ければこれを一緒に飲みませんか?」
僕もエンフェルト達の真似をして普段はコップを持ち歩いている。
でも、さっき食堂で使った時に忘れたみたい。
持ってこようかとも思ったけど、
イザベルのコップで紅茶を飲ませてもらった。
「イザベルはこれから何するの?」
「もう少し書類を作ろうかなと」
「見ててもいい?邪魔になる?」
「いいですよ。
退屈に感じたら遠慮なくおっしゃってくださいね」
イザベルは白紙にすらすらと文字を書き始める。
僕がそれをじっと見ていると、
途中から読み上げながら書いてくれた。
「…此処に…永遠の愛を…誓います…」
「…ねぇイザベル。愛ってなに?」
「ふふ、難しい質問ですね。
人の数だけ色んな愛があるんですよ」
「イザベルの愛はどんなの?」
僕の質問にイザベルはペンを置いた。
何も言わず、僕に向かって両手を広げる。
その腕の中へ向かって、自然と飛び込んだ。
「貴方の幸せが、今の私の愛ですよ」
「…なんだか難しい…」
「わからなくてもよいのです。
優様が笑顔だと、私が嬉しいのです」
「それならわかる!
皆が笑ってると僕も嬉しい」
「…その皆に、私も入っていますか?」
「もちろん!」
「…。…シスター、イザベル・イベイラの名において宣誓します。
我、イザベル・イベイラは汝、優を夫として認め、
この生涯において何時如何なる時も…」
イザベルは僕とおでこを合わせながら、婚儀の宣誓をした。
それは初めて聞くやつだったけど、
さっき紙に書いてた内容に似ていると、途中で気が付いた。
…。




