お気に入りの武器
エンフェルトとクロリスが戦ってから一週間くらい経った。
まだ誰とも婚儀はしておらず、変わらない日々を過ごしている。
婚儀をしてない理由は大まかに二つ。
一つは皆の身体の痣が消えるのを待っているのと、
もう一つは皆のドレスの準備が終わっていない事だった。
「団長はもうドレス決めたんですか?」
「決めたよ。ステラはまだ迷ってるのか?」
「せっかく時間があるんですから!
もっと探せば、もっと素敵なドレスがあるかもしれないじゃないですか!」
「ドレスなんてどれでもいいだろ?」
「正気ですか?本気で言ってます?
団長が選んだドレス見せて貰ってもいいですか?」
エンフェルトは無造作にクローゼットを開けた。
そこから私服と一緒に閉まってあったドレスをステラに投げ渡す。
ステラはそれを広げ、絶句してた。
「…可愛くない!」
「私に可愛い服は似合わない」
「もう馬鹿!団長の馬鹿!」
「…お前、今私に向かって馬鹿って言ったのか?」
「大馬鹿ですよ!見てくださいこれ!」
ステラがドレスを広げ、ある個所を示した。
そこには大きな穴が開いているし、よく見ればヨレヨレだ。
「おっきい穴だね」
「気が付かなかったね。
ステラ、すまないが縫っておいてくれるか?」
「つぎはぎがあるドレスで婚儀する人なんて居ませんよ!」
「そうか?まぁ私達だけしか参加しないからいいだろ?」
「…あーそうですか。団長にとって優はその程度だったんですね!」
「なに?」
「いいですか!
相手の為を思うなら、こういう日くらい着飾るべきです!」
そこからステラはドレスの重要性について力説した。
最初はエンフェルトも不機嫌そうに聞いていたけど、
最後まで聞き終わると、ちょっと反省した感じだった。
「…まぁ確かに、私が悪かったよ」
「分かればいいんです。分かれば。
…団長はちゃんとすれば可愛いのに、その辺いつも適当なんだから…」
「もういいだろ、許してくれ。
それで、私はどうしたらいいんだ?」
「今からドレスを探しに行きます。
見つかるまで優と一緒に居ちゃダメです」
「一緒に行けばいいじゃないか」
「何度も試着したりして、時間かかりますからね。
服も脱ぐし、女だけの方が楽なんです」
そういう訳で、エンフェルトは連れてかれた。
珍しくステラの言いなりになってるエンフェルト。
そんな姿は初めて見たから少し面白かった。
僕はそのままエンフェルトの部屋で待つように言われた。
しばらくすると扉が叩かれ、返事をするとミリーが顔を出す。
「こんにちわ。ステラに、優と一緒に居るように頼まれたの」
「ミリー!エンフェルトがステラに連れてかれちゃった」
「ステラ、すごい剣幕だったね。
あんなにしょんぼりしてる団長も初めて見たし、何かあったの?」
さっきの出来事を教えてあげた。
ミリーはその場に放置されたドレスを見て、ちょっと引いてた。
「…うん、これは流石にひどいね。
でも、おかげで優と二人で過ごせるからラッキーかな」
「ミリーはドレス決めた?」
「決めたよ。手直しもして、全部準備もできてるんだけどね。
とりあえず、歩かない?」
ミリーと手を繋ぎ、適当に廊下を歩く。
目的地は聞いてないけど、食堂や倉庫を避けているし、
時々、急に方向を変えている。
「どこ行くの?」
「何処行こうかな?
今はせっかくの二人きりを邪魔されないように歩いてるんだ」
「誰にも見つからないように歩くの、面白い!」
「そう?じゃ、隠れながら…私の部屋を目指してみようか」
何度も道を変え、たまには隠れて足音をやり過ごす。
ミリーは人の気配に敏感で、僕が気付くずっと前に気が付いていた。
「どうやって気が付いてるの?」
「こういう場所はわかりやすいよ。
音が反響して、その振動だってわかる」
「すごい!全然わかんない」
「…次はクロリスが来るよ。静かにね」
柱の陰に隠れてしばらく待つと、本当にクロリスが通った。
驚いて声を掛けそうになったけど、
ミリーが手で口を塞いできた。
「シーっ。バレちゃうよ」
「…ごめんなさい…」
「ふふ、いいよ。
さ、私の部屋はもうすぐそこ」
そう言われて辺りを見る。
皆は大聖堂や食堂近くの部屋を選んでいるけど、
ミリーの部屋の近くには何もなく、誰も居ないそうだ。
なんだか寂しい場所に感じて、なぜ此処を選んだのか気になった。
「なんでこの部屋にしたの?寂しくない?」
「一番静かな部屋を選んだら此処だったの。
意外と落ち着くんだよ」
ミリーの部屋はとても広い部屋だった。
ただ想像と違い、壁際に所狭しと沢山の武器が並んでいる。
それに目を奪われていると、ミリーが照れたように笑った。
「…あんまり女の子っぽい部屋じゃないでしょ?」
「ミリーは武器が好きなの?」
「好きよ。
まぁ集めるのが好きって言うか、手入れをするのが趣味なの」
「へぇー!…触っていい?」
「…うーん、団長に武器を持たせるなって言われてるんだけど…内緒ね?」
「やった!」
「でも、流石に鞘から刀身を抜くのは禁止ね。どれがいい?」
ずらっと並ぶ武器から、長くて強そうな剣を選んだ。
でも想像以上に重くて、振り回すどころではない。
それでもミリーに手伝ってもらって、なんとか構える事が出来た。
「初めて持った!…かっこいい…」
「この武器を最初に選ぶなんて趣味がいいね。
この剣は重く作ってあって、遠心力で破壊力が増すの」
「へぇー!もっと教えて欲しい」
「ほんと?私に武器の話をさせたら長いけどいいの?」
「うん!」
「そっかそっか。じゃ、遠慮しないよ」
ミリーは武器を一つずつ手に取り、使い方や手入れはもちろん、
その武器にまつわる逸話なんかも話してくれた。
それが本当に面白く、夢中になった。
「優はどの武器が気に入った?」
「うーんと、最初の重い剣が好き」
「あれは使いこなすのが難しいけど、良い武器なんだよね」
「ミリーはどの武器を使うの?」
「私は剣より弓が得意。
命中精度なら自信あるよ」
「使う所見てみたい」
「流石に部屋じゃ射れないから、機会があったらね。
そろそろ良い時間だけど、最後にちょっとだけいいかな…」
ミリーは持っていた武器を置き、僕をベッドに連れ込んだ。
ギュッと抱き締められると、ミリーの心臓の音が聞こえてくる。
それはエンフェルトのより小さくて、とても早い音だった。
「ステラに聞いた。団長とこうやって寝てるんだってね」
「毎日こうやって寝てる」
「…団長が羨ましいな…」
「…ミリー?」
「今日は楽しかったよ。
よかったら、また武器の話を聞いてくれると嬉しい」
「僕も楽しかった。絶対また聞きたい」
「ほんと?団長と一緒でもいいから、また来てね」
「うん!」
「もう少ししたら、皆の所に帰ろう」
武器ではしゃいだせいか、横になるとすぐ眠くなった。
それをミリーに伝えると、眠っていいと言ってくれた。
すぐに身体の力が抜けて微睡んでいく。
眠りに落ちるほんの少し前、
ミリーが僕のおでこにキスをした、ような気がした。
…。




