勝敗
朝ごはんが終わった後、エンフェルト達の立ち合いが始まった。
場所は大聖堂前の廊下で、
両者が木剣を持ち、既に対峙している。
「クロリス、ルールはわかっているな?
優が驚くから顔への攻撃はお互いに無しだ」
「ある程度なら身体への打撃はいいんですよね?」
「ああ。だが危険は突きも禁止だ」
「私、突きはあまり使わないんでむしろ好条件です。
…いきます!」
クロリスからの攻撃で戦いは始まった。
エンフェルトは基本受ける一方で、圧されている。
でも、そう見えたのは最初だけで、
逆に攻めてるクロリスの方が辛そうな表情になっていった。
「エンフェルト頑張れー!」
「…はぁ!」
応援に応えるように、エンフェルトがクロリスの武器を弾き飛ばした。
つまり、エンフェルトの勝ち。
僕は嬉しさのあまり、エンフェルトに駆け寄って抱き着いた。
「エンフェルト強いね!かっこいい!」
「でしょ?でも汗くさいかもしれないから離れてて」
「全然そんなことない!…僕もそれ持ちたい」
「木剣でも剣だからダメ」
「えーっ!」
「…団長、もう一度お願いします…」
「もう一度か?まぁ気分がいいから何度でもいいぞ。
優、危ないからステラの傍に居て」
もう一度戦いが始まった。
もちろんエンフェルトの圧勝だ。
クロリスは負けを受け入れず、何度も挑戦した。
クロリスは負ける度に少しずつダメージが増えている。
動きもどんどん鈍くなっている気がする。
エンフェルトも降参を勧めてはいるが、クロリスは受け入れない。
「もう諦めたらどうだ?」
「…せめて一勝しないと…
…このままじゃ、かっこ悪い姿しか…」
「…はぁー…、まだ見栄を張るつもりなら、手加減しない」
そこから戦いの雰囲気が変わった。
さっきまで剣を弾いて勝敗が決まっていたのに、
今度は打撃中心になり、攻撃を受けたクロリスが何度も崩れ落ちる。
何度も立ち上がっては、何度も倒され続ける。
そしてついに、クロリスはその場で吐いてしまった。
「おぇぇ…」
「ひどい恰好だなクロリス。
そろそろ終わりにしようか」
「…優…優…」
クロリスは口も拭わずに剣を構える。
だが限界も近いのか、目の焦点も合わずに構えるだけだ。
そこにエンフェルトが止めを刺しに行った。
「…クロリス、頑張って!」
「…っ!あ”ぁ”ぁ”…!」
クロリスを応援する言葉が自然と口から出ていた。
次の瞬間、クロリスがエンフェルトの武器を弾き飛ばした。
何度も戦った中で、クロリスの初勝利だ。
クロリスは肩で息をしながら、ただ虚空を見上げていた。
ステラに渡されたタオルを持ってクロリスに近づいた。
僕に気付いたクロリスは慌てて口を拭い、背を向ける。
「…かっこ悪いし汚いから、見ないで」
「クロリス、かっこよかったよ!」
「…。」
「絶対負けると思ってたのに、最後に勝つんだもん!」
「…優、最後に応援してくれたでしょ。だから、勝てた」
「なりふり構わない攻撃は見事だったぞ、クロリス」
「…団長…」
エンフェルトが僕からタオルを受け取り、クロリスに渡した。
クロリスは急いで口や胸元を拭き、やっと僕を見る。
「でも優?最後はクロリスを応援したでしょ」
「…頑張ってたから…ごめんなさい…」
「気にしてないよ。むしろ、そんなところが好きだよ」
「団長、私…」
「とにかく私の部屋に来い。
ステラ、すまないが掃除を頼めるか?」
「任せてください!」
ステラが持ってきた桶に掃除の為の水を入れた。
僕達はクロリスを連れ、エンフェルトの部屋に戻った。
エンフェルトは扉に鍵を掛けて、クロリスの服を脱がす。
今まで見えなかった部分に痛そうな痣が沢山あった。
「…優が、見てるんですけど…」
「下着なんだから我慢しろ。
裸だって風呂でいくらでも見せてるだろ?」
「まぁそうですけど、部屋だとなんだか恥ずかしくて…」
「優。此処に冷たい水を出して、タオルを絞ってくれる?」
「わかった!」
クロリスは肩や背中、全身のいたるところに痣があった。
とりあえず、一番大きな背中の痣にタオルをそっと押し当てる。
クロリスはビクっと震えた後、気持ちがいいと言った。
「…痛い?」
「痛いけど、慣れてるから大丈夫。
それに気分はいいから」
「優、私は外の様子を見に行くね。
私が部屋を出た後、もう一度鍵を掛けて」
指示通り、エンフェルトが外に出た後に再び鍵を掛けた。
すぐソファーに戻り、タオルを絞り直してクロリスに押し当てる。
クロリスはそれを、じっと見ているだけだ。
「…弱くて、ごめん」
「弱くない。クロリスもかっこよかった。
…お水、飲む?」
「…あんまり、優しくしないでよ…」
クロリスは悔しいと呟きながら泣いた。
でも、ひとしきり泣いた後は反省を口にして、
最後はエンフェルトをずっと褒めていた。
「はぁー…。団長はなんであんなに強いんだろう」
「エンフェルトはやっぱり強い?」
「強すぎるよ。優が来てから腑抜けになってると思ったのに全然だった」
「ふーん。そんなに強いんだ」
「あ、今喜んでるでしょ。団長が強くて嬉しい?」
「うん、嬉しい」
「…あ~…、今日一番の敗北感…」
そう言いながらクロリスは笑ってた。
一緒にごはんを食べた時よりも上手く話せて、
なんとなく仲良くなれた気がした。
三十分以上、クロリスの身体を冷やし続けた。
水も飲んでくれたし、痛みも引いたって言うから一安心だ。
「ありがと。おかげで元気になったよ」
「どこ行くの?」
「ん、ステラにお礼を言いにね。
私が吐いた後始末、させちゃったから」
「あれ、朝食べたパンかな?」
「…次があったら、できるだけ見ないでね。
…え、なにこれ…」
部屋の扉を出ると異様な光景が飛び込んできた。
通路の真ん中でエンフェルトが仁王立ちして、
壁際に沢山の人が座り込んでいる。
その中で二人、忙しそうに動き回ってるのはステラとイザベルだ。
どうやら皆の介抱をしてるみたい。
僕を見つけたステラは大きく手を振ってきた。
「あ、優!ごめん手伝ってくれる?」
「いいよ。なにすればいい?」
「皆に冷たいタオルと、お水あげて」
「うん!」
クロリスも交え、四人で介抱をした。
聞けば僕がクロリスと話してる間、
皆もエンフェルトに戦いを挑んだようだった。
…。




