決戦の朝
パスタはいつもと同じでとっても美味しい。
でも隣に居るのはエンフェルトじゃなくて、
ガチガチに緊張してるクロリスだ。
「…。」
「今日もパスタ、美味しいね」
「…ええ、美味しいわね」
「クロリスもパスタ好き?」
「…ええ、好きよ」
あまり会話は続かず、すぐに食べ終わってしまった。
食べ終わったクロリスは空になったお皿を見続けて、じっとしてる。
この後はどうしたらいいのかわからず、エンフェルトに視線を送る。
エンフェルトは食事の途中だったけど、こっちに来てくれた。
「お前、優に気を遣わせてどうするんだ」
「…何もかも、急だったから…」
「さっきの威勢はどこにいったんだか…」
「…うぅ…こんなんじゃ嫌われちゃう…」
「…はぁー…、ごめんね、優。
クロリスは剣の腕はいいんだけど、かなり口下手なんだ。
特に男と話すときははひどい」
クロリスは顔を真っ赤にして泣きそうな表情だ。
なんて声を掛ければいいかわからないけど、
エンフェルトが言った事が気になった。
「クロリス強いの?」
「強いよ。剣なら私の次に強い」
「へぇー!…かっこいい…」
「私が、かっこいい…?
…団長!この後立ち合ってくれませんか!」
「うん?優に良い所を見せたいのか?」
「はい!団長を倒したら、お嫁さんの座を譲ってくれますよね」
「馬鹿な事を言うなと言いたいところだが…。
優にかっこいい姿を見せるのは良い考えだ。
いいだろうクロリス、受けて立つ」
急遽、二人は戦う事になった。
クロリスはこの後と言っていたけど、もう暗いから明日になった。
エンフェルトは食事を再開し、
その間にミリーが立ち会いのルールを少し教えてくれた。
「昔は定期的に模擬戦してたんだよ」
「…怪我する?」
「少しはするけど、大けがはしないよ。
相手に武器を手放させるか、まいったって言わせたら勝ち」
「そっか。ならちょっと楽しみ」
「ふふ、優も男の子だね」
食事も終わり、今日は解散になった。
いつも通りステラの部屋で本を読んでもらうつもりだったのに、
なぜか今日はダメらしい。
「今二人になったら既成事実を作りたくなるので、今日はなしで!」
「きせいじじつって何?」
「優、団長に襲われないように気を付けてね?
何かあったら大声で私を呼ぶんだよ?」
「うん?わかった」
「ステラ、お前…」
「うそうそ冗談ですよ団長!おやすみなさい!」
怒られそうになったステラは急いで部屋に戻り、鍵を掛けた音がした。
エンフェルトが扉を開けようとしたけど、やっぱり開かない。
エンフェルトは大きくため息を吐いた後、僕の手を取った。
「ステラは浮かれ過ぎだ」
「ねぇエンフェルト。明日戦うの?」
「そうだよ。優にかっこいい所を見せたいからね」
「勝つ?」
「勝つよ。私を応援してくれる?」
「うん!」
二人で部屋に戻り、また僕が鍵を掛けた。
それを見たエンフェルトはすごく嬉しそうに笑う。
その理由を聞いたけど、教えてくれなかった。
その日はなかなか眠れなかった。
最初はエンフェルトの戦うところが見たかったはずなのに、
ちょっとずつ、恐怖の方が強くなっていく。
「…エンフェルト…」
「どうしたの?」
「…明日、どうしても戦う…?」
「クロリスと約束したからね。怖くなった?」
「…ちょっとだけ…」
「やっぱり、優は優しいね。
でも大丈夫、優が味方なら私は無敵だよ」
「…怪我しちゃ、やだよ?」
「かすり傷も負わないよ。信じて」
「…うん…」
エンフェルトの心臓の音を聞きながら、今日の出来事が頭に浮かんだ。
エンフェルトやステラ達と結婚する約束をしたし、
クロリスも、僕を好きだと言ってくれてた。
その気持ちは、素直に嬉しかった。
でもエンフェルトが負けたらどうなるんだろう。
お嫁さんの座を掛けてって言ったから、
エンフェルトと一緒に居られなくなるんだろうか。
それは嫌だ。
だから、明日は一生懸命エンフェルトの応援をしようと思う。
翌日は早い時間に目が覚めた。
こうして自然に目が覚めると気分はいい。
けど、今日エンフェルトが戦う事を思い出した。
エンフェルトはまだ寝ている。
トイレに行きたいけど、起こすのは可哀想だ。
明るいし、一人で行こうとベッドを抜け出した。
できるだけ音を立てないように鍵を開けて外に出た。
朝特有の冷たい空気を感じながら、一人で廊下を歩く。
そういえば、一人で自由に行動するのは初めてだ。
少しだけ、冒険をしてるような高揚感が沸いてくる。
一人でトイレを済ませ、ちゃんと手も洗った。
帰り際、小さな物音が聞こえたので大聖堂に顔を出す。
「イザベルだ。おはよう」
「おはようございます優様。珍しくお一人ですか?」
「トイレ行きたくて目が覚めた。エンフェルトはまだ寝てる」
「そうですか。少しお話していきませんか?」
「いいよ!」
イザベルと二人で話すのは久しぶりだ。
あの時は泣かせてしまったけど、今日は大丈夫だった。
イザベルは色々と質問してくれて、話しやすかった。
特に詳しく知りたがったのは、
僕がこの世界に来る前に聞いた声と、僕の願いだ。
「それで丈夫な身体と、綺麗で美味しい水を望まれたんですね」
「うん!皆の役に立ててよかった」
「優様の世界だと、長生きの方は何歳までいるんですか?」
「えーっとね、100歳?くらいだったと思う」
「まぁ、それはすごいですね。私達は長くても…おや?」
会話の途中でイザベルが顔を上げた。
視線を追うと、そこにはエンフェルトの姿があった。
「すぐ見つかってよかった。
起きたなら起こしてくれてよかったのに」
「すみませんエンフェルト様、私が引き留めてしまって…」
「気にしなくていい。優だって自由に行動していいんだ。
…でもまぁ、朝起きて優が居なかった時は焦ったけど…」
「ごめん、エンフェルト…」
「謝らなくていいよ。でも、次から起こして欲しいな。
イザベルと仲良く何を話してたの?」
「優様がこの世界に来るときに聞いた声についてお聞きしてたんです。
もしかして、それは女神様のお声なのでしょうか…」
「それはわからない。
でも、優を選んでくれた事に心の底から感謝してる」
「そうですね。私も優様と出会えてよかったです」
せっかく大聖堂に来たので、今日も聖典を読み上げて貰った。
聖典は女神様の言葉とされていて、毎回同じ内容だ。
でも飽きる事はなかった。
…。




