ステラの本音
控えめに部屋の扉を叩く音で目が覚めた。
エンフェルトは疲れていたのか、まだ眠ってる。
どれくらい眠っていたんだろう。
それを考える前に、もう一度扉が叩かれた。
「エンフェルト起きて。誰か来たみたい」
「…うん…今起きるよ…」
「今開けるー!」
迷ったけど、エンフェルトを起こしてから鍵を開けた。
そこに居たのはステラだ。
その後ろに、ミリーとイザベルも一緒に居る。
エンフェルトは皆を部屋に招き入れ、ソファーに座らせた。
「…団長、床に剣が落ちてますけど、何かあったんです?」
「ああ、出会った頃みたいに剣で優を脅した」
「ひどい!結婚を無理やり迫ったんですか!」
「その反対にお前かミリーを勧めたんだ。
でも、優は私がいいんだって。ね、優」
「うん。僕エンフェルトがいい」
「…えー…。…団長に振られてたら私が貰ってあげようと思ったのに…」
ステラは俯いて黙った。
悲痛そうに顔を歪め、泣いてしまっている。
ミリーは床に落ちた剣を拾い、鞘に戻した。
それをエンフェルトに渡し、エンフェルトが壁に戻す。
「ステラ。お前そんなに優が好きだったのか?」
「…だって可愛いじゃないですか…」
「なぁステラ。どれくらい本気だ?
王都に居た頃、好きな男は居なかったのか?」
「…居ませんでした…」
「この城に男が優しか居ないから、好きになったわけじゃないな?」
その言葉にステラは顔を上げ、エンフェルトを睨んだ。
そんな表情は初めて見た。
でもそれは一瞬の事で、再び泣き顔に変わる。
「…お前が私を睨むなんてな。
そんなに本気なら、ステラも一緒にどうだ?」
「…一緒にって、何をですか…」
「お前も優と結婚したらいいだろ。
もちろん、本妻は譲らない」
「…えっ、本気ですか…?」
「優が許してくれたらな」
エンフェルトが一歩、僕から遠ざかる。
すると泣き顔のステラが立ち上がり、僕の傍に来た。
「…優、あのね…。
…私、優を好きになっちゃったの…」
「僕もステラが好きだよ」
「…ありがと。
…私も優と結婚したいんだけど、いい…?」
「エンフェルトがいいなら、僕もステラと結婚したい」
「ほんと!?これからよろしくね!」
曇った表情がパッと明るくなった。
涙も拭わず、ギュッと抱き締められる。
少し苦しかったけど、ステラが嬉しそうだから我慢した。
ステラは落ち着いた後もずっとニコニコしてた。
自分の頬を押さえて、顔が熱いと何度も言っていた。
「しかし、本当に婚儀をするのか?
優の年だと流石に犯罪だろう?」
「我々は犯罪者でしょう?いまさら気にしても仕方ないんですよ」
「…そう言われては何も言えん。イザベル、お前の勝ちだ」
そこから空気が和み、他愛のない話になった。
話題の中心はイザベルだ。
ステラとミリーが頻りにお風呂での対応を褒めていた。
「でもイザベルは本当にすごいよね。
団長に凄まれても少しも怯まないんだもん」
「怖くなかったの?」
「慣れてますからね。
信徒の方でも懺悔中に取り乱す方もいらっしゃいますから」
「それにしたってさー」
しばらくして、晩ごはんの準備をするからとステラは部屋を出て行った。
準備を手伝うと言ったけど、
今日は他の人が手伝ってくれる約束らしい。
「団長、こんな事言っていいのか、わからないんですけど」
「なんだ?」
「…私も、あの、いいですか?」
「何をだ?ミリーにしては歯切れが悪いな」
「…だから私も、その、優と結婚…」
「ふふ、なかなか面白い冗談を言うじゃないか」
「…本気ですよ。
…イザベルがシスターを辞めるなら、今しかないなって…」
「本気か?まぁ、優がいいって言うなら」
「いいよ!ミリーも好きだもん!
…イザベルもする?」
「私もいいのですか?エンフェルト様、よろしいのですか?」
「…優、君は意外と浮気者だね?」
「えっ!?…エンフェルトが嫌ならやめる…」
「冗談だよ。期待させて裏切るのは可哀想だからね。
…ただ、お前達にも命がけで優を守ってもらうぞ」
「それはもちろんです団長。…優、ありがとね」
その後、少しだけ打ち合わせをした。
婚儀自体は簡単で、大聖堂でイザベルが宣誓して書類を作って終わりらしい。
その気になれば今すぐできるし、朝のお祈りのついででもできる。
けどせっかくなら正装して、他の皆にも着飾るように提案をするそうだ。
「そういえば家名はエンフェルト様のでよいのですか?
優様は家名を持ってます?」
「家名って何?」
「一族で共通する名前の部分ですね。
エンフェルト様は確か、エンフェルト・ライラックですよね?」
「じゃあ僕も優・ライラック?…かっこいい…」
「ライラックが気に入ったの?ならそうしようか。
優がお婿さんに来てくれるんだね」
「ということは、私達もライラック家になりますかね?」
「その辺は詳しくわからんが、ミリーが名乗りたければ名乗っていいぞ」
「有難う御座います。
ふふ、でもまさか団長と本当の家族になれるなんて…」
ミリーがこんなに嬉しそうなのは初めて見た。
それから食事が出来るまでの間、
いくつかの部屋を四人で巡り、ドレスが残ってるのか軽く探す。
めぼしい服をいくつか見つける事ができた。
それでも全員分には足りず、明日も探す事になった。
「イザベルはいつシスターを辞めるんだ?」
「急ぐ必要もないですからね。
婚儀が無事に終わった後、考えます」
「まぁそれもそうか。
なら浴室で急にあんな話をしなくてもよかっただろ?」
「思いついた時は喜んで頂けると思ったんですけど…」
「色々言いたいことはある。
が、結果的にはよかったから言わないでおいてやる」
「感謝します」
そろそろ食事が出来る頃合いかと、食堂に向かった。
近づくと良い匂いがしてきて、狙い通りだ。
お腹が鳴ると同時に食堂に着いた。
いつもなら皆雑談してて、和やかな雰囲気なのに今日は違う。
無言だし、じっと此方を見ている。
そんな中、ステラが怯えた目で助けを求めてきた。
「だ、団長…」
「ステラ、何かあったのか?」
「…えーっと…、皆に自慢…しちゃったんですよね~…」
「自慢?」
「…優と、結婚するって…」
ステラがそう言うと、お姉ちゃんの一人がエンフェルトに近づいてきた。
確かクロリスという名前だ。
クロリスはイザベルが来た日、お風呂で最初に恐る恐る僕に手を差し出した人だった。
「団長!ステラだけずるいじゃないですか!」
「ステラだけじゃない。ミリーやイザベルもだ」
「もっと納得できないです!
私達に相談もなく、ずるいじゃないですか!」
「なんだクロリス、お前も優が好きなのか?」
「悪いですか!?
これから仲良くなれると思った矢先にひどいです!」
「まぁ、お前から優に近づいてきたから薄々気付いてたよ」
「考え直してください!
優と過ごす時間がもう少しあれば私が…!」
「私が?」
「…誰かの代わりに、優が私を選んでくれるはずです!」
「ふぅん。なら時間をやろう。
とりあえず、優と食事させてやる」
エンフェルトの指示でクロリスと食事する事になった。
皆と少しだけ離れて、二人で並んで座る。
メニューはいつもと同じ野草のパスタ。
でも普段とは違う雰囲気で食べ始める事になった。
…。




