エンフェルトの想い
エンフェルトは憤った様子でイザベルに詰め寄った。
それから、かなりの強い言葉で捲し立てているが、
イザベルは気にした様子もなく、冷静に落ち着いて対応していた。
「…イザベル、冗談が過ぎるぞ」
「冗談ではありませんよ」
「冗談じゃない?お前、本気で言ったのか?
何を考えてるんだ?今はそんな場合じゃないだろ?」
「いいえエンフェルト様。そんな場合です。
明るい話題は士気を上げます」
「必要ない!この話はこれで終わりだ!」
「なぜ拒むのですか?優様がお嫌いなのですか?」
「…貴様…、いい加減に…」
会話が進むにつれ、エンフェルトはすごい剣幕になっていった。
それでもイザベルは平然として、笑みを浮かべる余裕すらある。
その反対に、イザベル以外の皆が狼狽えだした。
二人の間に入って止めるべきか否かで、意見が分かれている。
「…あんなに怒ってる団長、初めて見た…」
「…ねぇ、止めた方がよくない…?」
「…無理、怖いもん…」
「…で、でもこのままじゃ…」
ステラとミリーでも意見が割れていた。
今すぐ飛び出そうとするステラに対し、
ミリーはそれを阻止しようとしている。
「ミリー!離してよ!」
「今行ったらダメでしょ!冷静になって!」
「私は十分冷静だよ!止めなくちゃ!」
時間が経つほど、収拾がつかなくなってきた。
僕は一番近くに居たお姉ちゃんを捕まえて、
こっそりと質問をする。
「…ねぇ、"こんぎ"ってなに…?」
「えっと、夫婦になる誓いかな?女神様の前で、シスターに祝福してもらうの」
「夫婦って言うと、結婚って事?」
「そう言う事。
好きな人同士で、一生一緒に居ますっていう約束」
ならエンフェルトは僕と婚儀がしたくないから怒っているのだろうか。
でも一緒に居てくれるって言った。
それを確かめる為に、僕はエンフェルトに近づいた。
「優様に拒絶されるのが怖いのですか?」
「黙れ!私がどれほど優を大事に思っているかも知らないで勝手な事を!」
「エンフェルト」
「なんだ!…あっ!?
優ごめん!…優だと思わなくてつい…」
「僕、エンフェルトと結婚したい」
「…優までそんな事言って…。…でも、それはダメ…」
「どうして?」
「…どうしてって…ダメなものは、ダメだから…」
この"ダメ"は本当はダメじゃない奴だと思った。
エンフェルトが絶対に許してくれない時は、目線を合わせてじっと睨んでくる。
例えば僕が剣を欲しがった時は、そういう迫力があった。
でも、今は目が泳いでて、自信が無さそうにしてる。
「僕とずっと一緒に居たくない?」
「…ずっと、一緒に居たいよ」
「じゃ、結婚しよ」
「…。」
「ねぇイザベル、婚儀ってどうしたらいい?」
「大聖堂で行いますが、少し準備が必要です。
せっかくですから、衣装もちゃんとしましょうか。
幸い大きなお城ですし、ドレス等も残っているかもしれません」
「…イザベル、勝手に話を進めるな…」
「ならば拒否すればよいでしょう?
…ですが、浴室でする話でも無いですね。
お風呂を上がり、お二人で話をしたらどうですか?」
「…ああ、そうだな…、…優、いこう…」
エンフェルトに連れられてお風呂を出た。
皆は遠巻きに見ているだけで、追いかけてこなかった。
まっすぐ部屋に帰ってきた。
部屋に着いた途端、エンフェルトは一人でベッドに倒れこむ。
僕はなんとなく鍵を掛けて、エンフェルトの隣に寝ころんだ。
「…優の前で取り乱したのに、隣に来てくれるんだね」
「一人にしないって約束した」
「…約束がなかったら、来てくれなかった?」
「ううん。約束が無くても、エンフェルトの隣が好き」
「…そっか…、…おいで、優…」
ゆっくりと、エンフェルトの腕の中に納まった。
お風呂上りの温かいエンフェルトに包まれて、やっと気持ちが落ち着いた。
僕からもしがみ付くと、ようやく頭を撫でてくれた。
「優、よく考えて?婚儀をしたら、もう取り消せないんだよ?」
「いいよ」
「よくないよ。
結婚するなら、同い年くらいの子の方がいいでしょ?」
「エンフェルトがいい」
「せめてステラやミリーの方がいいんじゃない?」
「二人も好きだけど、エンフェルトが一番好き」
「…そう、わかった」
エンフェルトはベッドから出て行った。
何処かに行くのかと思ったら、壁に掛けてある剣を手に取る。
そして鞘を投げ捨て、刀身を僕の首に当てる。
「こうすると出会った瞬間を思い出せるだろう?」
「懐かしいね」
「お前に優しくしてやったのは、水が欲しいからだ」
初めて出会った時を思い出した。
あの時も首に剣をあてがわられて、死んじゃうかもと思った。
そんなに時間が経ってないはずなのに、
かなり昔の事に感じる。
「今後は私の傍に居ても優しくしないし、お前を道具扱いする」
「…。」
「今すぐステラに助けを求めに行くなら止めないが、どうする?」
「わかった」
「それがいい。さよならだ」
「ううん、道具扱いでもいいからエンフェルトと一緒に居たい」
「…優は、馬鹿だね…」
エンフェルトはそっと剣を首から外し、床に投げ捨てた。
その目から流れる涙を拭いもせず、僕をベッドに押し倒す。
頬を撫でられた。
それから親指で僕の唇を弄ぶ。
初めて見る表情に、何も言葉が出てこない。
「…ひどい事言ってごめん…」
「うん、いいよ」
「…ほんとは、水なんて出なくても君が好きだよ、優…」
「僕もエンフェルトが好きだよ」
僕がそう答えると、エンフェルトは手で僕の視界を奪った。
それからすぐに唇に温かくて柔らかい感触がした。
それが数秒続き、視界が戻る。
「今なにしたの?」
「内緒」
「なんか柔らかかった。もう一回して欲しい」
「ダメ」
「えーっ!もう一回!あと一回だけ!」
「私が抑えられなくなるから、もうしない」
「どういう意味?」
「そんな事より、なんだか疲れちゃった。少し寝ようよ」
「うん!一緒に寝る」
一緒にベッドに横になる。
エンフェルトは剣を当てた首筋を念入りに確認して、傷がない事に安心してた。
それから抱き合いながら、眠りについた。
…。




