二つの提案
今はただ、じっと火を見つめている。
ステラは何も言わない。
なんとなく、同じ事を考えてる気がした。
「ねぇエンフェルト」
「なに?」
「次に戦う時があったら、僕も戦いたい」
「絶対ダメ。何があっても、優は参加させない」
「やっぱり、邪魔になる?」
「優には戦って欲しくないだけ。
もし同じことがあっても、ステラとお留守番して」
「…やだ…」
「…ふふ、今日はなんだか我儘だね」
「…団長ぉ、次は私も参加します…」
「ステラ、お前まで何を言ってるんだ?」
「…だってぇ…二人で寂しかったもんね?」
「うん、寂しかった」
「…はぁー…、まぁ、そう思ってくれるのは嬉しいよ。
でも、絶対ダメ」
そこから二人でエンフェルトを説得しようとした。
でも、何を言っても返事は変わらず、
戦闘の参加を決して認めてくれなかった。
お風呂が沸いて皆を呼びに行った後も説得を続けた。
エンフェルトは呆れているのか、途中から返事もしてくれない。
見兼ねたミリーが傍に来て、代わりに話を聞いてくれた。
「だからステラも参加したいって言ってるのね?
自分達だけ安全な場所に居るから申し訳ないって」
「そうです!優は参加させなくてもいいけど、私ならいいですよね!」
「あ!ずるい!僕とステラは仲間のはずでしょ!」
「まぁまぁ。
でもステラ、私も貴方が戦闘に参加するのは反対」
「…やっぱり、邪魔だからですか…?」
「そんな風に思ってたの?
…まぁいい機会だから、私達の本音を言うとね?」
「ちょっと待ってください!…優、一緒に聞いて」
ミリーの言葉にステラが身構える。
また後ろから抱き着かれて、僕の背中に隠れるようにした。
「どうぞ!何でも言ってください!」
「ステラの明るさには、皆が助けられてきた」
「…えっ?」
「団長は私達を引っ張ってきてくれたけど、ステラにも支えられてきた」
「…ミリー…」
「明るい貴方が、戦闘に参加して変わってしまうのが皆怖かった」
「…でも、私だけ…」
「ステラが戦うようになったら、いよいよ私達も終わりだなって思ってたよ。
だから、待つのが辛くても耐えて欲しいんだ」
ミリーの気持ちを聞いたステラは複雑そうだった。
皆と一緒に戦闘に参加したい、でも、皆の言ってる事もわかる。
そんな感情を、どう言葉にすればいいか悩んでいる。
「…ステラに戦闘適正がないのは本当だぞ」
「本当に団長は優以外に素直じゃありませんね」
「こら、優が聞いたら誤解するだろ」
「はいはい。団長はいつでも素直ですよ」
「それに、今は優を守ってもらわないと困るんだ。
優の他に一人だけ生き残るなら、ステラが適任だ」
「…団長じゃなくて、私ですか…?」
「お前は戦闘には向かないだけで、
食事から衛生面の管理、怪我の手当と、色々と出来ることが多い。
…冷静に見れば私より、お前が適任だ」
「…じゃあ、今日から優と暮らします!」
「私が死んだ後ならいいぞ」
「今適任って言ったじゃないですか!」
「一人残る事があれば、な」
その後もエンフェルトとステラは言い合いを少し続けたけど、
ステラは楽しそうに笑っていたし、エンフェルトも満更ではなさそうに見えた。
場が落ち着いた後、そっと近づいてきたのはイザベルだ。
どうやら僕にできるだけ冷たい水を出して欲しいらしい。
「いいよ。喉乾いたの?」
「いいえ、飲むためではありません、浴びたいのです。
昔の自分と決別する為、身を清める為に…」
「わかった。桶一つ分くらい?」
「出来るだけ沢山お願いしていいですか?
…お金も何も、渡せるものはないのですが…」
「あはは、そんなの要らないよ」
とりあえず、その辺の桶を集めて冷水を入れた。
手を入れるとすぐに痛みを感じるくらい、冷たい水を出せた。
それをイザベルは躊躇なく、頭からかぶった。
最初は気持ちよさそうに見えた。
イザベルの真似をして、同じ冷水を浴びた人が何人も居たけど、
すぐに浴槽に戻っていった。
ただ一人冷水を浴び続ける姿は、異様に見えた。
イザベルは寒さに震え、息すら白い。
それをエンフェルトは無言で見届けていた。
「…もうやめた方がよくない?」
「いいえ優様、もう少し…。
それに私の事を思うなら、決して同情せず冷たい水をくださいまし…」
「…うん…わかった…」
何度もそれが繰り返される。
本当に続けて良いのか不安になるけど、
本人が続けて欲しいと願うから、辞め時がわからない。
イザベルに聞いても答えが変わらないから、エンフェルトに視線を送る。
エンフェルトは頷いた後、イザベルに近づいた。
「満足したか?」
「…いえエンフェルト様…もう少し…」
「もう身体が限界だろ。
これで風邪でもひいたら、優が責任を感じてしまう」
「…確かに、そうですね…」
「いいから風呂に入れ」
「…ですが…それでは意味が…」
「イザベル、これは命令だ。優に心配を掛けるな」
「…すみません…」
イザベルはエンフェルトに介抱されながら浴槽に戻った。
真っ白だった顔も、すぐに血色が戻ったみたいで一安心だ。
やっぱり、エンフェルトは頼りになる。
「エンフェルト、ありがとう」
「優もあんなに冷たい水が出せるなんてすごいね」
「僕、すごい?」
「うん。この中で優が一番すごいよ」
「僕はエンフェルトが一番すごいと思ってるよ」
「ほんと?ありがとう、優」
「…えへへ…」
エンフェルトに褒められた。
この中で一番は言い過ぎだと思うけど、やっぱり嬉しい。
エンフェルトも僕が褒めると嬉しそうだった。
僕を膝に乗せて、機嫌が良さそうに鼻歌を歌う。
その様子を、ステラとミリーとイザベルが遠くからじっと見ていた。
「団長って優みたいな子が好みのタイプだったんだ」
「あんな顔で笑うんですね」
「未婚の男女が裸でああも触れ合うのはよくありませんね」
僕達について何か言っているのはわかった。
でもエンフェルトに気にした様子はなかった。
しばらくして、またイザベルが近寄ってきた。
顔色は良いけど、表情は真剣だ。
「エンフェルト様、私はシスターを辞する事にしました」
「さっきのが禊のつもりだったのか?
この後、大聖堂で宣言を聞いてやろうか?」
「それはまた今度お願いします。
それで、エンフェルト様に提案が二つ御座います」
「なんだ?」
「私がシスターであるうちに、エンフェルト様と優様と婚儀を致しましょう」
「…は?」
エンフェルトのこんなに驚いた顔を見たのは初めてだ。
僕は"ごんぎ"がどんな意味なのかはわからない。
でも、エンフェルト以外の皆も動揺してたから、
何か、とんでもない事なんだろうと思った。
…。




