部屋の飾り
エンフェルトが来てくれた少し後に、ステラも来てくれた。
二人がイザベルを落ち着かせた後になってしまったけど、
泣かせた事を謝りながら、コップに水を注いであげた。
「…泣かせてごめんなさい…」
「いえ、とても嬉しかったのですよ。
女神様は受け入れてくれますけど、許すとはおっしゃってくれませんから」
「ステラ、少しイザベルと話をするから優を頼む」
「わかりました。優、行こう」
ステラに手を引かれ、大聖堂を後にする。
なんだか遊ぶ気にもなれないので、
とりあえず中庭を目指した。
こうして見ると中庭はかなり緑が増えた。
此処は城の中で一番変化があって、かなり気に入ってる。
「エンフェルト、何話してるかな」
「なんだろうね。
でもあれだけ泣けたなら、もう大丈夫だと思うよ」
「泣いたのに大丈夫なの?」
「大人になると思いっきり泣くのが難しいんだよ」
ステラの話は難しくて、いまいちピンとこなかった。
でも泣くのが良い事なら、
一度は皆泣いてるから、そうならいいと思った。
そういえば、ステラとこうして過ごすのは久しぶりだ。
本を読んで貰う時間を除けば、
最近はいつも忙しそうで、日中は何処にいるかわからない日もある。
「ステラはさっきまで何してたの?」
「私?パンを作り終えたから倉庫に行こうかなって。
そしたらイザベルの泣き声が聞こえてきてさ。
優こそ、イザベルと何があったの?」
そこで今までの経緯を話した。
全部聞き終えたステラは一言だけ"そっか"と言い、
優しく僕を撫でてくれた。
「…でも団長も失礼だなぁ。私だって悩みくらいあるのに」
「ほんと?僕、聞いてあげる」
「え~?ほんとに大丈夫~?」
「大丈夫!今度は泣かさない!」
「それじゃ、また今度聞いてもらおうかな?」
「今じゃダメ?」
「今でもいいけど、
もうちょっとだけ大人になった優に聞いてもらおうと思って」
「大人ってどうやったらなれるの?ステラがしてくれる?」
「してあげたいけど、団長に怒られるからなぁ~…。
今度、団長に頼んでごらん?その次ならしてあげる」
エンフェルトも僕を大人にできるんだろうか。
でも、大人になるには夜に一人で歯を磨けるようにならないとって言ってた。
それを思い出したから、当分先でもいいと思った。
そんな話をしていると、エンフェルトとイザベルがやってきた。
イザベルはちゃんと落ち着いていて、
今度は跪かず、普通にお礼を言ってくれた。
「優様、先程は取り乱してすみませんでした。
でもおかげで心が楽になりましたよ」
「それならよかった!
エンフェルトもすぐ来てくれてありがとう」
「泣き声が聞こえたからびっくりしたよ。
でも、よくやったね」
エンフェルトにも褒められて誇らしい気分になれた。
それから、せっかく集まったのだからと、
イザベルの部屋に置く雑貨を探す事にした。
「優、イザベルの部屋がまだ殺風景だから何か探してくれる?」
「わかった!」
「私はベッドがあるだけで十分ですよ」
「まぁ私達に任せておけ。
勝手に人の物を盗るのに抵抗があるのはわかるが、
せっかく生きるなら、少し図々しくならないとな」
「…はい…ご厚意に甘えます」
イザベルは最初、大聖堂で寝泊まりすると言い出していた。
だけど広いわりに密閉されておらず、
夜はかなり冷えるからとエンフェルトが説得していた。
今は確か、大聖堂に一番近い部屋を選んでいたはずだ。
空き部屋を巡り、いくつか良い物を見つけた。
それは鏡であったり、小さな絵画であったり色々だ。
そんな中で、イザベルが一つだけ自ら欲しいと言い出したものがあった。
「…これ、頂いてもいいですか?」
「それなに?本?」
「本と言えば本ですが、日誌を書く為の物ですよ」
見せて貰うと全部が白紙の本だった。
エンフェルトが許可を出すと、イザベルはそれを大事そうに抱える。
ペンとインクも見つけてあげた。
もう十分集まったから、それらを持ってイザベルの部屋に移動する。
初めて入ったイザベルの部屋は、今まで見た部屋の中で一番殺風景だった。
物が無いにもほどがあり、ベッドと、小さい机しか存在しなかった。
「ほんとに何もないね」
「元の方も聖職者だったのではないでしょうか。
そういう方は質素な暮らしを好みますから」
「ほら優!持ってきた物を飾ってあげようよ!」
「うん!イザベル、待っててね」
「はい。宜しくお願いします」
ステラと一緒に部屋の飾りつけをした。
でも、まだ何か足りない。
例えばエンフェルトの部屋には大きなベッドと暖炉もあって、
使ってないけど軍服に、一応の武具が壁にある。
それに加えて皆がくれた僕の宝物も散らばってる。
ステラの部屋は狭いけど、大きな本棚が沢山あって賑やかに見える。
それに比べると、やっぱりあと一押し足りない気がする。
「もうちょっと何か欲しい」
「そうですか?私はもう十分ですよ」
「うーん…。エンフェルト、どうすればいいと思う?」
「こういうのは人それぞれの好みだからね。
それに一度に集めなくてもいいじゃない?
見つける度に、イザベルにプレゼントしてあげなよ」
「そっか!そうする!」
今日は飾りつけを終えて、解散となった。
イザベルはそのまま部屋に残り、さっそく日誌を書くらしい。
何を書くのか気になったけど、
それは聞いたらダメだと、エンフェルトに教わった。
「優はさ、イザベルの事が好きなの?」
「好きだよ」
「えっ、ほんとに?団長や、…私より?」
「?皆も好きだよ?」
「…そう言う意味じゃなくて!
なんか、やけにイザベルを気に掛けるな~って…」
「ステラ、優に変な質問をするな」
「だって気になるじゃないですか!
団長だって、優がどんな女の子が好きか気になるでしょ?」
「優が誰を好きになってもいいだろ?優の自由だ」
「…でもぉ!私は団長以外に譲る気はないんです!」
二人のそんな言い合いを聞きながら浴室を目指す。
初めてお湯を沸かした日は途中でステラに代わってもらったから、
今日は最初から最後までやってみたいとお願いした。
今日も浴槽いっぱいに水を張る。
最近、イザベルの助言で気が付いたのだけど、
僕は出す水の温度をある程度変えられるみたいだった。
しかも慣れてきたのか、日に日に温かいお湯が出るようになった。
「これならあっという間に沸くね」
「ちょっとつまんない」
「ふふ、そんな事言わないで。
皆の負担も減るし、時間も薪も節約できて助かってるんだから」
「それは嬉しい」
時間は短くなってしまったけど、それでも火を燃やすのは面白い。
今日はステラにコツを聞きながら、僕が種火から薪に着火させた。
「できた!」
「上手だね。でも一人でやっちゃダメだよ?」
「ステラの説明、わかりやすかった」
「私が一番火の扱いに慣れてるからね~。
料理する時も火が大事だし」
火が安定すると、後は時々薪を足すだけになる。
揺れる火を眺めていると不思議と落ち着く。
不意に、ステラに抱き締められた。
ステラにこうされるのは、大聖堂に二人で避難した時以来だ。
あの時の気持ちを思い出すと、少し胸がざわつく気がした。
…。




