懺悔
イザベルがお城に来てから一週間くらい経った。
イザベルは僕達が起きる前には絶対に起きてて、
必ず大聖堂でお祈りをしてた。
「おはようイザベル」
「優様にエンフェルト様。おはようございます」
「優、今日も少しだけ聞いて行ってもいい?」
「いいよ。僕も聞くの好き」
エンフェルトと大聖堂の最前列に座った。
イザベルは教壇に立って本を開き、
女神様の言葉を読み上げてくれた。
エンフェルトはこれを聞くのが好きみたい。
だけど、これを聞く為に早起きする事はなく、
たまたま朝早く起きた日や、時間がある時にだけイザベルに頼んでいた。
「それでは今日が良き一日になりますように、共に祈りましょう」
「…。」
「神に、優に感謝を。
…それでは、これにて朝のお祈りを終わります」
「毎回のように頼んで悪いな」
「いえ、拝聴してくれる方が居ると私も嬉しいですよ」
お祈りが終わり、イザベルと一緒に食堂に行く。
そこでステラが焼いてくれたパンを食べて、
中庭に水を撒きに行った。
「抜いた雑草も肥料になるんですよ」
「へぇ~。そうなんだ」
「乾燥させて、土と混ぜるんです」
イザベルも昔は庭園の手入れが趣味だったそうだ。
植物のお世話に詳しくて、楽しいと言いながら毎日手伝ってくれる。
物腰が柔らかく、優しいイザベル。
一つ心配なのはイザベルは時々、空を見上げてボーっとしてる事があった。
「イザベル、大丈夫?」
「…私だけ、こんなに平穏に暮らして良いのでしょうか…」
「いいんじゃないか?
私を含めた皆がイザベルが来てくれてよかったと思ってる。
優もそう思うよね?」
「うん!もっと色々教えて欲しい」
その後、何事もなかったように色々教えてくれた。
しばらくして中庭の手入れも終わると、
イザベルはいつもと同じように、大聖堂に戻っていった。
「イザベルはいつも何してるんだろう」
「ずっとお祈りだよ」
「ずっと?お祈りだけ?」
「王都に居た頃は、皆の懺悔や悩みを聞いてあげてたんじゃないかな?
優も何か悩みがあったら、イザベルに相談したらいいよ。
意外と、皆も相談しに行ってるみたいだし」
「悩みかぁ…今は思い浮かばないや」
「それはいいことだね」
僕達も中庭を後にし、適当に散歩をしているとミリーと出会った。
何処に行くのかと尋ねると、大聖堂に相談しに行くそうだ。
「イザベルが来てくれて有難いですよ。
やっぱり、色々話を聞いてくれると気が楽になりますね」
「そんなに不満があったのか?」
「そういうわけじゃないですよ。
でも、今までしてきたことを肯定してくれると安心感が増します」
「なるほどな…」
「それでは、失礼します。またね、優」
別れ際、ミリーは頭を撫でてくれた。
イザベルと初めてお風呂に入った時以来、
皆が僕に触れてくれる機会が増えていた。
ミリーの去り行く後ろ姿を見て思った。
僕も、誰かの悩みを聞いてみたい。
「エンフェルトの悩みは僕が聞いてあげる」
「ありがとう。でも私はベッドの中でもう聞いてもらってるじゃない?」
「そっか…。誰か悩んでる人居ないかな?」
「うーん…、ステラは何も悩んで無さそうだし…。
ミリーはイザベルに会いに行っちゃったし…」
エンフェルトはすれ違う数人に悩みが無いか聞いてくれた。
でも誰しも悩みも不満も今は大丈夫だと答えるだけだった。
「悩みがなくてよかったけど、ちょっと残念」
「…考えたんだけどさ、イザベルの悩みを聞いてあげるのはどうかな?」
「イザベルの?」
「皆はイザベルに相談できるけど、イザベルは相談する人が居ないからね」
「そっか!」
「そろそろミリーの相談が終わるかもしれないから、行ってみようか」
もう一度、大聖堂に向かう。
大聖堂に到着したけど、まだ中ではミリーとイザベルが話してる最中だった。
だから少しだけ部屋に戻って時間を潰す事にした。
足音が聞こえた気がしたので大聖堂に向かうと、ミリーの姿はなかった。
イザベルはというと、もう女神像にお祈りを始めていて、
そう何度も邪魔をしていいのかなと声を掛けるのを少し躊躇した。
出直そうかと思った。
それをエンフェルトに相談する前に、イザベルが僕達の気配に気づいた。
「おや?どうなされたんですか?」
「お祈りの邪魔しちゃった?」
「そんな事は気にせずともよいのですよ。
いつでも、好きな時に訪ねてくださいね」
「優がイザベルの悩みを聞きたいんだってさ」
「私の悩みをですか?」
「実は、さっきミリーに会ってな」
エンフェルトの説明を聞いた後、イザベルは笑っていた。
でも、ふと真顔になって、
本当に相談してもいいのかと、僕に聞いてきた。
「私が悩みを打ち明けられるのは、女神様だけかと思ってました。
…本当に、聞いてもらって良いのですか?」
「いいよ」
「優、私は部屋で待ってるね」
「エンフェルト、行っちゃうの?」
「イザベルを頼んだよ」
エンフェルトはそれだけ言うと、大聖堂を後にした。
急にイザベルと二人きりになり、とりあえず並んで座る。
少しの間、沈黙が流れた。
「ずっと、これでよかったのかと考えています…」
いつもより小さな声で、イザベルは話し始めた。
お風呂でも少しだけしていた話。
反乱を企てた首謀者にされて、自分を見る信徒の目が変わっていった。
それでも、王都に残るべきだったのかもしれないと、そう言った。
「結局、皆を裏切って一人だけ逃げたのですから。
あの場に残って、私一人が我慢すれば、皆の気も晴れたかもしれないのに。
王都に戻る事が許されるなら、今からでもそうした方がいいのかもと思うのです…」
「戻りたいの?」
「戻るのは、正直怖いです」
「じゃ、戻らなくていいよ」
「…彼らは、それを許してくれるでしょうか…」
「許してくれなくてもいい」
イザベルはハッとした顔で僕を見た。
エンフェルト達は、悪い事をして生きてきたって言ってた。
色んな話を聞いてると、それは許されない事かもしれない。
でも、僕は皆が好き。
だから、何があっても一緒に居る。
それでいいんじゃないかと思ってる。
「王都の人が許してくれなくても僕はイザベルと一緒に居たいもん。
だから、僕が許してあげる」
「…こんな私を、許してくださるのですか…?」
「うん、僕がイザベルを許すよ」
「…ずっと誰かに…そう言って欲しかったのかもしれません…
…ありがとう、優様…」
最後に掠れるような声でありがとうと呟き、イザベルは泣いてしまった。
それも天を仰ぎながら声を張り上げて泣くものだから、
エンフェルトにも聞こえたらしく、心配して駆けつけてくれた。
…。




